重力はいつでも身体に伸し掛っていて、私はそれに押し潰されてぺちゃんこになる、なんてこともなく、キラキラした街並みをすり抜けながら達央の車を探していた。夜が深くなる少し前。浮き足立ちそうになるのは、達央が私の重力を吸収しているからなのだろうか。
「ごめんなさい遅くなって」
「ん?いや大丈夫」
「車、この前と違う」
「あー買い替えた、先週」
もうすぐで、消えてしまうと思っていた。先週たくさん染み付けた彼の匂いは、少し会わない間にすぐに無くなって、それだけでそこはかとない不安が私を襲う。たつひさ。呼べば呼ぶ程、私はいつも虚しくなって、想いだけが焦がれて焦がれて。
「愛人んちでいい?」
「もちろん」
「ご飯食べていく?」
「どっちでもいい」
「んーじゃあコンビニ寄ろうか」
この車にはきっと既に達央の愛すべき人は乗っていて、私は所詮いつも2番目でしかない。でも、それでもいいと思った。だって今彼の隣にいるのは私で、どんなにその子が私より遥かに大事にされていて、先を行こうとも、今、彼の隣で笑うこの私には敵わないから。
「達央、」
「ん?」
「セブンは人目に付くよ」
「あ、そうだ」
「裏道にあるファミマは?」
「そうしまーす」
がたんがたん。揺れる車の中で私は達央を独り占めしていて、まだ見ぬ"彼女"という立ち位置の子が知らない彼を私は知っている。ハンドルを握る逞しい腕に見惚れた。それから整ったその顔に、目が釘付けになった。
「なーに。どうした」
「え?」
「すごく見てくるから」
「わたしそんなに見てた?」
「うん。…もしかしてみとれてた?」
赤信号。神様はいつだって私達に都合よく作られていて、停まった車に、それから達央の横顔がこちらを向いた。ぶつかり合う視線はいつも熱を孕んで、私はその瞳が大好きだった。
「愛人、っ」
「…ん」
「やっぱりそんまんま愛人んち行こ」
「、え?」
「気分が変わっタ」
点滅して、そして間もなく青に変わる。神様は、私の何を止めようとしてのだろう。道徳的な、健全な何か?
それだったら、私には毛頭必要ないものだ。
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