"彼女のご飯が好き"
そう言っていつもたつは笑ってくれた。だからわたしはいつだって帰ってくる時は温かい手料理で迎え入れたいと思っているし、少し無理してでも彼の喜ぶ顔が見たい、と思っている。
プルルル、
「あ、たつー?」
「"どうかしたか?"」
「今日帰ってくる?ご飯作るけど」
「"…あーわり。今日仕事"」
「そう、なんだ」
「"ごめんな"」
「う、ううん!全然いいの。お仕事頑張れ」
「"おう行ってくる"」
耳元で鳴り続ける無機質な電子音は、不意に寂しさを増長させる。今日は休みって先週言ったの、わたし覚えてるよ。だから、料理作ったのに。でもそんなこと言えない。言ったら負けって、分かってるから。
「お邪魔しまーす、…え」
「あ、福山さん」
「うわめっちゃ美味しそう!」
「食べますか?作ったばっかりなんです」
「え、ええの」
「いいですよー!たつ、仕事で来れないみたいなんで丁度良かったです」
「そ、か。じゃあいただこうかな」
「はい。飲み物持ってきますね」
「あ、これCD。返しに来た」
福山さんはとても良くしてくれる仕事の先輩で、常に憧れの的だ。いつもかっこよくて、きらきらしていて、なにをするにもすごいなあと感心させられる。にっこり、と福山さんは微笑んだ。わざわざすみません、と言って渡されたCDを掴むと離されない福山さんの右腕。え。顔を上げると、福山さんはさっきよりいたずらっぽい笑みでわたしを見下ろしている。
「そんなに必死に引っ張らんでも、!」
「いや、返してくれるって言ったから!」
「彼女必死過ぎて。あかん。笑う」
「からかわないでくださいー!」
福山さんの高い声が狭いリビングに響く。あ、なんだか一瞬で暖かくなった。そういう無邪気なところはちょっとだけたつに似ていて、不意に重ねてしまう。だめだ、わたしはたつの彼女なのに。
「ん、じゃあ」
「食べますか?」
「うん」
「はいどうぞお」
寂しさはいつの間にか消えていた。その代わりに福山さんと、自分の持つ闇を感じて、少し息苦しくなった。
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