烏はその昔、真っ白だったらしい。それなのに、太陽の神様の怒りを買って、今みたいに真っ黒にさせられたのだと。理由は色々あるみたいだけれど、結局疑われた時点で非があるんだと思う。たとえそれが嘘でも事実でも、火のないところに煙は立たないのと同じように。

「本当にいいんですか?」
「えーよ任せて」
「ふふ、嬉しい」

あの日からたつとは都合が合わなくなっていた。時期的に仕事がお互いに大詰めで仕方ないのだけれど、二週間も会っていないのは初めてなので、なんだかとっても心が晴れない。

「なんか元気ないな」
「そうですかあ?」
「あれー勘違いかあ?」

福山さんは仕事終わりにご飯に誘ってくれた。相変わらず心地よいテンポで話を展開する福山さんと一緒に過ごすのは珍しい事ではなく、ご飯に行くのももう何回目か分からないほどだった。関西弁を話す人が周りでは珍しいので、いつも福山さんといると新鮮な気持ちになる。へえ、そうなんだあとか、凄いなあとか、新しいものをいつもわたしに運んできてくれる。

「若いんやから、色んなこと出来るて羨ましいわ」
「福山さんも若いですよ」
「もう歳。あかんきついよ」
「全然そうは見えないです」
「ほんと?あ、そういえばよく言われる」
「え!なんなんですか!」

たつと付き合うきっかけも福山さんだった。福山さん繋がりで3人でラジオをして、そこからわたしはたつと話せるようになった。何かあった時は、福山さんはさり気なくフォローをしてくれて、たつはどっちかというとわたしに何やってんだよと言いながら揶揄い半分で頭を小突いてくる感じで、その時にわたしはなんて幸せな位置にいるんだろうと思っていた。それからたつと付き合い出した時なんて、わたしは人生の絶好調の中にいるような気がして、全部が全部有頂天だったと思う。

「たつとはどうなん」
「ええ、普通ですよ」
「この前ご飯作るんですうって言ってたやん」
「あれ、そうだったけ」
「自分、めっちゃにやけてたのに!」
「…あの時は、ですね」
「んん?、」

たつは、もしかしたら誰かと浮気をしているかもしれない。それは昔から思ったことがあったけれど、あまりにもわたしの前にいるたつが完璧過ぎるので小さな綻びはもう見ないことにしていた。それでも、この前のたつは異様に胸の網にひっかかって、結局その日は寝付けなかった。わたしだけ、なんて見てくれないのかな。わたしはたつには不釣り合いな女なのだろうか。

「なんかあった」
「たつは、わたしを見てくれていないかもしれません」
「なんで、そんな急に」
「福山さんみたいに紳士だったら、違ったんだと思うんですけど」

ぽろり。ひとつこぼれた不満は、わたしの中でぐわんぐわんと何往復もしていた言葉で。たつの前じゃ重い女なんて絶対思われたくなかった。思われるくらいなら死んだ方がましだと、本気で思っていたから、浮気の二文字をいっつもかき消していたんだ。

「…俺?」
「、福山さんは素敵です」
「そうでも、ないけど」
「ふ、福山さん」
「彼女ちゃん、ずるい子やね」

特異な声に身体が反応した。ずるい子っていうのはなんか背徳的で、心がざわついた。何でもない個室で福山さんの伸ばした手を拒むことなんて頭に無かった。

「どうしたいん」
「、キスして」

音もなく。わたしは福山さんとキスをした。唇を離したら福山さんは余裕たっぷりに笑っていて、わたしは身体の奥が疼いていた。




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