軽い。というより、柔らかい?


鈴「おつかれ」
「あ、おつかれさまです」
鈴「…今から、いい?」

珍しいと思った。普段は仕事場で目も合わせないというのに、と考えながら二つ返事で了承した。優しく笑った達央の顔が、やけに頭に残る。新しく変わった髪型がよく整った彼の顔を際立たせている。

鈴「じゃあ、また今度」
「はいおつかれさまです」

平然を装って私達は別れた。今日は仕事がないというのを分かっていたのか、など自惚れながら、身支度する手が急ぐ。滑稽だというのに、浮き足立つ心はまるで収まらない。感じていた違和感は、外の柔らかい外気に充てられてすぐに溶けていってしまう。

「ご、めんなさい遅れた」
鈴「…あ、おう」
「どうして急に?」
鈴「待って、」

最近会う回数が多いのはどうして?なんて愚問すぎて聞けず、繋がれた右手だけが私の拠り所だった。すれ違うかもしれない駐車場の廊下。変に人目を気にするのは、やはりこれがいけない恋だからなのだろうか。

鈴「お久しぶりっす」
中「お、…たつ。もうあがり?」
鈴「あがりです今日はもう何も無いんで」
中「まじか。ん、おつかれ」
鈴「おつかれでーす」
中「…あ、おつかれ」
「…はい、」

瞬間的に離れた手と手の後に、馴染みのある声が聞こえる。反射的に距離を取った達央に合わせて私も知らないふりをした。悠一だ、と思いながら悠一でよかったと安心する自分もいた。それなのに、一向に悠一の顔が見れないのはどうしてなのだろう。

鈴「ゆうきゃん知り合い?」
「え…あ、まあ」
鈴「仲いいって、聞いた」
「誰から?」
鈴「…わすれた」
「ふうん」
鈴「今日、どこか行く?」
「、 映画みたい」
鈴「映画?」
「だめ?」
鈴「いや、いいけど」

ぎこちない達央は、あまりらしくない。私と悠一の関係など、どうでもいいくせに問いかけてくる達央をなんとなく消化出来なかった。外で会うことなどほとんど無いので、少し落ち着かない。胸騒ぎが、ざわめいたてずっと蔓延ったまま。

「なんか、新鮮」
鈴「は?」
「外に出て会うこと、あまりないから」
鈴「あ…そだな」
「どうでもいいことね」
鈴「いや…俺も同じこと思ってた」
「そ、」
鈴「うん」

お互い家で会って身体を重ねるだけだった。変に作用しているのかは分からないが、いつもより欲しい言葉をくれる達央を素直に私は受け入れた。自然な流れで手を繋いだ。とても自然で、私が彼女なのではと錯覚してしまう位に、達央と私が過ごす時間は上手く流れていく。

鈴「これ、見たかったの?」
「ええ、とっても」
鈴「あっそ」
「つまらない?」
鈴「いや、べつに」
「、なに?」
鈴「キスしたい」
「は、…っ」
鈴「…やっぱ出よ、」

突然ぶつかった視線にどきっとした。視界の中で達央はどんどん大きくなって、その後いつもの唇の感覚に陥る。映画なんてほとんど頭に入らなかった。達央に手を掴まれて外に出る。ちょっと、なんて言ってみたところで何もならないことを知っていて、付け足しのようにそれを零した。

「達央、?」
鈴「愛人」
「なに」
鈴「かわいい、」
「は、」

やっぱり、歩みが止まることはなかった。




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