無様だと思った。それでも足はその場に向かっていて、辿り着いた先に掠めたポップコーンの匂いが、一瞬にして私を占領してしまう。

「チケット、一つ 」

最近のにしては珍しく、券売機を使わずに販売されるチケット売り場は人が疎らに順番を待っていた。こういう待ち時間にカップルはいちゃいちゃとするのだろうが、あの日の私たちはゆっくりと順番を待って、そういう2人の空間が私にとってはとても心地がよかった。

「どうぞお楽しみください」
「ありがとうございます、」

全く同じ内容の映画。席まで同じにする程の勇気はなく、1番後の席をとった。公開日から間もなくだったあの日よりも人は少なく、落ち着いて鑑賞をすることが出来た。なんせ今日は、あの時落ち着かなかった元凶が横にいないので、すんなりと内容が頭に入った。見終えなかったラストまで見届けて、いい映画だったと思った。

先日決起会を行ったあの作品も良いものにしなければ、と仕事意欲を沸かせて、席を立つ。悠一とは、あの日何度も存在を確認し合うように抱きしめあった。時間にするとそれ程長くなかったのであろうが、私にとってはどうにか修復しようとするのに精一杯で、時が経つことを忘 れていた。最後に悠一が、目を合わせて微笑んだことで大分落ち着いた。ありがとうと最後に言うと、少し照れくさそうにした彼に、優しい人だと改めて感じたのだった。

「入って、」
「…うん」

まるで、頭を殴られたような衝撃が一瞬で襲う。達央と、その手を握る女。心無しか達央の顔は顰めていて、後ろの女性に至ってはとても泣きそうな顔をしていた。とても、見たくない光景だった。それでも、あの日のような隠れる場もなく、私はただその2人を眺めることしか出来ない。

「…達央、」

口元が動かないまま、2人は窓辺の席に座っていた。俯く彼女の顔は純粋そうで、こういう女を達央は一番にするのだと思った。ずっとずっと羨んだその場所に君臨する彼女は、確かに私とは全く異なるものを持っていて、だから逆に達央は二番目に私を置いたのだとも思った。その場にへたれこみそうになるのを、耐えるのに精一杯だった。

「…っ、」

馬鹿らしい。私は、あの女のように堂々と2人で手を繋ぐことも許されなかったのだ。それなのに、私はいつでもあの位置を独占した気になって、いつかそんな日が来ることをずっと待っていた。滑稽すぎて、もはや掛ける言葉も見つからない。

"愛人"

私を呼ぶあの声は、もう聞けないのだろうか。映画の帰り、事情中に名前を呼んだ声はいつも以上に熱がこもっていて、あんなに愛おしかったのに、今、あの夜を立証するものを、私は何も持ち合わせていない。

「…終わり、だったのね」

こんな声、誰も聞かないで欲しい。やっと気付いた結末は、誰もが予想するよりも、あっけなくて、陳腐なもので、私はこれにどれほどしがみついたのだろうと、大きく落胆した。


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