「なんで福山さんがいたの」
「、えっと」
「おまえって、そんなやつだったっけ」
「…」

コーヒーはあの日と全く同じ味で、強いていうなら、運んできた時にこちらを見つめたオーナーさんの顔があの日とは全然違って不安そうで、ぎこちない笑顔で返すのに必死だった。ごゆっくり、と告げたオーナーさんの言葉を、皮肉っぽく受け取ってしまう位、わたしは今、この場から一秒でも早く逃げ出したいと思っている。

「たつも人のこと言えるの、」
「は?」
「わたしが、何も知らないと思ってる?」

今までずっと我慢していた。小さく見える女の尾ビレを、わたしは掴むことも問うこともしないでずっと自分の中で解いてきたんだ。たつを好きな先輩の女性声優に、直接その事を馬鹿にされたことだってある。でも、それを言われるのは、わたしがたつの彼女だからであるからだ。だから、いつも堂々と彼女面をして、耐えてきた。福山さんが、支えてくれるまでは。

「たつに、わたしは不釣り合いだったんでしょう?」

ずっと、言わなかった。いいや、言えなかった。だから、最期に伝えないといけない。わたしがあなたを愛している以上に、いつも寂しかったことを。一番隣にいたはずなのに、あなたを自分のものだと思ったことは一度も無かった。

「逆ぎれ?」
「違うよ、全然違う」
「じゃあなん」
「わたしはたつと一緒にいて幸せだったよ。でも、たつは違う」

泣いてはいけない。俯いてしまえば、わたしの負けだ。整ったたつの顔を正面から捕らえて、言葉を放つ。全然いい彼女になんてなれなかった。最期なんて、主人に噛み付く犬のようだ。

「おい、」
「別れ、よう」

楽しい思い出をありがとう、なんて小綺麗にまとめることも出来やしない。荷物を抱えて、足早に店を出た。オーナーさんの顔を見る余裕も無く、増してやたつがどんな顔をしているかなんて、恐ろしくて振り返る気も起きなかった。

「、…ううっ、 」

ボロボロと零れていく涙は、まだ、たつを思って流れている。でも、たつがわたしを追いかけてくる気配はどこにもなかった。


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