最後に見た日から、ぱったりと達央から連絡が来なくなった。諦めると決めた手前、それは都合がよく肩の荷も降りる、なんていうふんぎりはまるで無く、心にポッカリと穴が空いているような、そんな感覚だけが私を包む。

「なんか飲む?」
「いや、いい」
「そか」
「…やっぱりコーヒー飲みたい。ブラック」
「はいはい」

悠一にはやっと昨日メールで伝えた。"明日会おう"と言ってきたのは悠一の方で、私が1人で居たくないことを彼はすぐに汲み取ったようだった。会った瞬間、私の顔が泣き腫らしていなかったことに安心したらしい悠一が、優しく微笑んでいて、少し心が擽ったかった。私が何も言わずとも、悠一は全部を分かっているように、うまく私をリードしていく。

「馬鹿みたいね、わたし」
「なんで?」
「2人の姿を見てやっと気づくなんて、遅すぎる」
「…本当にもういいの?」
「いい。追いかけても、もう無意味だもの」

あの時、多分2人はあまりいい雰囲気ではなかった。それでも今頃は仲直りをして、微笑みあっているのではと勝手に思う。達央が女性にあんなに苛立っているのを初めて見た。それほど、達央はあの女を想っていたのだ。そんなことは、馬鹿な私にでもよく分かる"事実"であって、私とは程遠いあの女の地位を、私はやっと理解したのだ。

「愛人がそう言えるなら、よかった」
「もっとメソメソしてると思ってた?」
「メソメソは思わなかったけど。抜け殻みたいだったらどうしようかと思った」
「抜け殻?」
「まあ、顔みたら分かる。頑張ったのね」

今日はあまり悠一と目が合わない。まあ、特に気にすることでもないので、そのまま会話を続けた。貰ったコーヒーは私の好きな種類で、やっぱり私を知っている人だと思った。人が行き交う渋谷の街で、丁度いい湿度とテンポだけが居心地を良くさせる。

「お前、もう吹っ切るんだよな?」
「ええ。そうする」
「ふうん」
「なに聞いといて」
「いや、最終確認」
「?うん」

いっぱい傷付いた。でも、あの女を傷付けたのも私だった。それでも、私は達央の一番がどうしようもないほど欲しかった。強引なところや、少し乱暴なところにも心が惹かれて、私は達央に夢中だった。

「じゃあ、もういいな」
「ん?」
「もうさ、俺にして、いいんじゃないの」

今日、初めて目が合った。悠一は照れくさそうに笑っていた。言葉が、ぐるぐると器官を巡っていく。え、と、それって。詰まって出てこない言葉を、悠一は零さず拾ってしまう。

「、もしかしてずっと、待ってた?」
「うん。とっても」

素直過ぎる言葉に、ペースがどんどん乱されていく。喧騒が一瞬にして消えた。先ほどまで穴だらけだった部分が、悠一の言葉で埋め尽くされていく。途端に、鼓動が早くなった。苦しくて、息の仕方がよく分からない。

「俺のものになって」

影が、一つに重なった。頭の容量が完全にオーバーして、もう悠一の手を握り返すだけしか出来なかった。いつの間に私はこんなに無力になったのだろう。それでいて、どうしてそんな女を、悠一は真っ直ぐ愛してくれるのだろう。







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