儚い。
起きたら達央はもう居なくて、残り香と微温い熱が残った枕だけがそこにあった。

「…仕事だ」

重い身体はあまり言うことをきかない。少しダラダラしてからベットを後にした。洗面所には使用済みのバスタオルが置いてあって、ああやっぱり彼は仕事に行ってしまったのだと思った。顔を洗う。冷たい水に充てられて、心まで冷めれば楽だというのに。

「あ、いた」
「…どうしたの」
「いや今日仕事場一緒だから送るって言ったじゃん」
「ごめんなさい、そうだった」
「昨日連絡来なかったから忘れてんだろうと思ったけどやっぱり」

リビングに戻ると悠一がいた。買ってきたであろう缶コーヒーを飲みながら、彼は支度出来るまで待ってくれるらしい。見た目のわりに優しい悠一に甘えるのはもうずっと前からの話で、それこそ達央と出会う前から、この部屋には悠一が沢山染み付いている。

「…達央来てたの」
「え?あうん」
「ふうん」
「もう仕事行ったみたいだけど」
「相変わらずだな」
「ほんとうに、」

昨日、達央は彼女から来た連絡を断った。私はそれが嬉しくて、達央は気が付いて無いのだろうけれどソファの上で握っていた達央の手を強く握り返してしまった。それから電話を切った後、誤魔化すみたいにキスをされた。
彼女から?なんてありきたり過ぎて聞けなくて、その代わりにキスに集中した。それは、とても甘い時間、で。

「準備出来た?」
「おまたせしました」
「じゃあ行くか」
「ええ。」

好きだ、と思った。その"好き"は悠一とは違う好きで、もうどうしようもない女だとも思った。握った手は骨張っていて、そういうところも好きだと言葉に出てしまいそうだった。キスで全部誤魔化した達央は嫌だったけれど、自分を優先してくれたことが嬉しかった。それが達央なら、もうなんでもいい。

「…愛人、幸せ?」
「は突然」
「いやなんとなく」
「んん…普通」
「あっそ、」
「何聞いといて」
「べつにー」

あ、息苦しい。
目を合わせてくれない悠一と煩わしい風と、私だけが少し違和感だった。




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