「…さっぶ、」
朝の冷たい外気に晒されて歩くのは苦手だが、その街の雰囲気は嫌いではなくて、いつもより人通りの少ない歩道をせかせかと歩いていた。不規則な仕事時間。大きなビルの中に足を入れると、私よりもっとせかせかとした人達が必死に働いている。
「おつかれさまです、」
中「…あれ、今日早いね」
「悠一いたの?」
中「まあ、」
神「なになに、あ愛人さん」
「神谷さんお久しぶりです」
神「相変わらず颯爽としてるね」
「それ褒めてます?」
神「いや、めっちゃ褒めてるよ」
「…ありがとうございます」
中「こいつ褒めなれてないからこういうの対応下手くそです」
神「あ、そうなの?」
ざわざわと胸騒ぎがする。それはきっと久々の早起きもそうだし、大好きなタバコが切れているのも関係していると思う。昨日も達央は私の家に来た。そんなに頻繁に来たら良くないんじゃないかと思ったけど、単純に嬉しかったので何も拒む理由がなくて、すんなりとそれを受け入れた。
中「…付いてる」
「え?」
中「首」
ぶっきらぼうに悠一はマフラーを私に渡した。一瞬だけなぞられたそこは、丁度昨日達央から付けられた場所と同じで、ああ、と言って悠一のマフラーを受け取った。神谷さんがよろしくね、と言ってブースに入っていく。なんだかデジャヴ、だと思った。
「あれえー愛人ちゃん男物のマフラー?」
「あ、これ中村くんの借り物です」
「え、もしかしてそういう関係」
「違いますよ。寒いって言ったら貸してくれたんです」
「ンもおー色男なんだから」
「ありがたく借りてます」
「愛人ちゃんも、魅惑の女だからねえー」
機器がごつごつしている。その前に座ると、仕事だと踏ん切りがつけられる。正直、さっきまでは昨日の達央と確かめあった感覚でふわふわとしていた。そういえば、悠一はどんな顔をして私にマフラーをくれたんだろう。何してんの、と呆れ半分で渡したのだろうか。それとも、もっと違って
「ほら、中村くん愛人ちゃん見てる」
「、え」
やめてくれ、と言っているような。悠一の視線は真っ直ぐで、さっきまでのざわざわがぶり返すみたいだった。それでも、私がつけていたマフラーを見て、少しだけ鼻で笑って台本に目を落とした。神谷さんと談笑している悠一は至って普通で、さっきのは見間違い?と問い直したくなる。
「…色男ですね、彼」
「うん言ったじゃなあい?」
「、はい」
やっぱり、タバコを吸いたくなった。
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