悪くは無い
同じ空間にいても何も混じりあわない昼休みの教室。なまえは友達と食堂に行ってしまって、どうしようもないので新開達のクラスへ向かう。適当にパンを買い済ませて見飽きたメンツの席を分取る。
東「おう荒北、どうかしたのか?」
荒「・・飯食いに来たんだヨ」
東「む?なまえはどうしたのだ」
荒「あー、今日は食堂で食うってよ」
福「?喧嘩でもしたのか」
荒「してねーよ!あいつにもあいつの時間があるんだろ」
福「それならいいが、」
新「・・・」
ブレザーはもう必要ない程には暑い。現に新開は既にニットだけだし、教師どももジャケットを着けずに授業を始めている。さっさと夏服にしちまえばいい。この中途半端に過ごしにくいこの季節は、暑さにやられて苛立ちが募るのだ。
東「なあ、新開」
新「どうした?尽八」
東「さっきからどうして、外ばかり見ているのだ?」
新「え、いや、そこになまえがいる」
荒「はァ?」
新「しかもバスケ部のエースと一緒だ」
東「む、!告白か?」
荒「・・・げ、マジかよ」
中庭に目をやるとさっきまで一緒だったなまえが知らない男と一緒にいて、明らかにそういう空気を出している。人目につくところで告白とは男の方もよほど自信があるのだろうか。よそいきの笑い方で話しているなまえがいつもと違うせいで、なんだか変に距離を感じる。
福「なまえは人気らしいな」
新「お、寿一も知ってんのか?」
福「クラスでたまに尋ねられる。なまえの好きなものとか」
荒「!フクちゃんにそんなくだらねえこと聞くやついんのかよ」
東「そしてなんと返すのだ?フクは」
福「TREKのロードバイクが好きらしいと教えたが、」
新「・・・ヒュウ、さすが寿一」
そりゃあフクちゃんに聞いたやつが悪いぜ。ちらほらと中庭に集まりだしたとりまきたちになまえは少し困ったように笑っている。ああいうの、あんまりあいつ好きじゃねえだろうな、と頬杖をつきながら俺には関係ないことが浮かぶ。
東「しかし・・・それは初耳だな」
新「俺も初めて聞いたぞ。なんでTREKなんだ?」
荒「たしか総北の金城もそれじゃなかったっけェ?」
東「ああ、そうだな」
福「メンテ中の雑談でそういう話しになった。なにしろ、初恋の相手がTREKに乗っていたらしい」
東「なに?!そうなのかフク!」
新「それは知らなかったなあ」
荒「俺はどちらかというとなまえとフクちゃんがそんな色恋沙汰の話しをしてることにびっくりしてるけどな、」
東「それで誰なのだ?初恋の相手というのは!」
福「そこまでは教えてくれなかった、」
新「ヒュウ、乙女の秘密ってやつだな」
そういう話しをするに至った経緯の方が気になるがそれはどうやら俺だけらしい。東堂の男子高校生にしては少なめの昼飯が無くなる。対して馬鹿みたいに嵩張った昼飯を食べる俺たちも同じタイミングで底をついてしまっている。
荒「・・・恋多き女ってことだなァ、つまり」
東「お、?」
荒「ほら見てみろよ。初恋だとかそんな話ししてる間に、あいつバスケ部のやつフったぞ」
新「お、やっとフッたか!」
荒「おい新開、嬉々として言うなヨ」
新「わりぃ。そんなつもりじゃ無いんだぜ?」
そういうのはもっと顔を作ってから言うもんだろ、と思うがもう言うのはやめた。ちょうど、中庭からこちらを見上げたなまえと目が合う。成り行きでされた含み笑いは、さっきまでのよそいき顔とは違ったので、なんだかつられてこちらまで笑ってしまった。