ある日の買い出し
春のくせに照りつける日差しが煩わしくて、冬ボケした頭がキンと痛む。
「あっつうー・・・」
「こんなに早くガチガチ君食べるとは思わなかった」
「だなァ、」
道を歩くペースは2人してダラダラと遅くなかなか進まない。通り過ぎていく車を眺めながら、どうせ横を行くなら乗せてくれと思うのは仕方の無い話しだ。じゃんけんに負けて買い出しをさせるのにどうして女を巻き込むのかと、苛立ちがここに来ても体温と一緒に上昇していく。
「今年の夏はいつもより暑いんだって」
「今でこの暑さだからなァ、死ぬんじゃねえの俺ら」
「間違いない。この中で自転車漕ぐとか考えられない」
「漕いでるんっすよお、それが毎年」
「ドMだよねー・・・」
「なんだとその言い方」
「いや本当に今日は暑い。死ぬ、荒北」
「うっせェ。さっきからずっとそれかしか言ってねえよ」
「ちょっと脱ぐ、」
「は?」
「一応日焼け止め塗ってきて良かった」
買い出しと言っても、荷物は律儀に荒北が全部持ってくれているので両手はガラガラだ。ガチガチ君を食べ終わったタイミングで、鬱陶しかった長袖のジャンバーを脱いだ。日焼け防止とか言っていても、その前に暑さで倒れたら元も子も無いと、脱いだ瞬間に腕を通る風は幾分といい。
荒「・・え、マジで」
「え、なにが」
荒「なまえチャン、それはないぜ」
「は?なんで」
荒「タンクトップは肌出し過ぎだろ!」
「荒北も同じでしょ?」
荒「いや違うだろ!!」
「男が良くて女がダメな理由はないです」
荒「そういうことじゃなくてな、」
黒「あ、荒北さんなまえさん!」
「あれ黒田だ。どうしたの?」
黒「買い出し班が遅いから迎えに行けって福富さんが・・・ってか、あの、その格好」
荒「あ〜あ・・・」
黒「・・・ペアルックですか?」
「「違うわ」」
じりじりと日差しは容赦なく私たちを照らす。これじゃあみんなに買ってきたアイスも時間の問題だろうと思いながらも足が急ぐことは無い。助け舟として来た黒田は、どうせ荒北がいるから二つ返事でフクのいうことを聞いてこちらまで来たのだろうと、大した先輩愛に感心する。荷物半分持ちますよ、と重い方を受け取る黒田はエリートというより出来たやつだと思いながら、もう荒北たちを置いて先を行くことにした。
荒「なァ、黒田」
黒「はい?」
荒「なまえチャンのあの格好、アウトだよな」
黒「、アウトですね」
荒「だよな」
黒「はい、」
荒「・・・ちょっと黒田、荷物一瞬持っててくんね?」
黒「え、あ、はい」
荒「おい、なまえちょっと待て」
「?」
後ろからの荒北の声に振り向くと、いつの間にか荷物は全部黒田が持っていた。先程までだらだらと歩いていたくせに、荒北はドカドカと大股でこちらまで近づいて、ガチガチ君のゴミをポケットの中にしまう。
荒「ジャンバー貸せ、」
「え?」
荒「目に毒だ。腕通さなくてもいいから羽織るだけ羽織っとけヨ」
「えー、」
荒「えーじゃねェ!それで部室戻ったら殺すからな!」
「な、なんで殺されるの」
荒「いいから着とけ!」
手に持っていたジャンバーを取られると、荒北は無理やり肩の上にそれを羽織らせた。腕に当たっていた風は無くなって、随分と近いところに荒北の顔がある。
「・・・なんか荒北、お母さんみたいじゃない?黒田」
黒「え、そうですかね」
荒「ヘっ!言わせとけヨ」
「そんなに二の腕太かったかな・・・わたし」
黒「多分、そういうことじゃないですよ」
黒田が持っていた荷物を片方掻っ攫って、荒北はまたズカズカと歩き出す。目に毒、というのはもう少し言い方があるように思うが、荒北の性格だと仕方ないのだろうか。
「ふふ。分かってる、」
黒「・・・へ、」
「そもそも部室の前までには着るつもりだったし、さすがに」
黒「ま、まじっすか」
「んん、男って大変だよねー」
黒「分かってるんならちゃんと着といて下さいよ・・」
「だって、荒北だしねえ?」
夏の暑さと性欲の区別もつけれないなんざ、男は難儀な生き物だと呆れてしまう。まあでも今回は、珍しく必死だった荒北に免じてスルーしてあげることにする。黒田に持たせていた荷物をお詫びに半分ずつ持ちながら、日差しの煩わしさに対抗した。部活終わりの午後。