棒付き飴を食べよう
「それでさ、尽八が」
「へえー」
「、やっぱりクライマーはすごいよなあ?」
「うんー」
「・・・おめさん、話聞いてるか?」
「うんうん」
「(聞いてない)」

一向に目が合わない昼休み。ウサ吉のために中庭に出たはいいが、他愛もない会話に今一つ身が入っていないなまえの顔を覗く。ぱちりと開いた目を見るに、別に眠そうなわけではないらしい。ただ、意識はどこか遠くの空に置いてきたようにして校庭の先をぼんやりと眺めているが。

「ウサ吉ーなまえが話しを聞かねえよおー、」
「ん?、どうしたの」
「お、やっと意識が戻ってきたな」
「?、意識はずっとあったけど、」
「・・・そうか」
「えっ、なんでしょげてるの?!」

なんかごめん、とごめんの気もないような言葉を零したなまえは、先程よりも俺を認識しているらしくやっと会話が成り立った。今日は随分と風がない。そのせいか、周りの音があまりないように感じるし、なまえの気怠げな声がやけに聞こえる。

「ずっとどこ見てたんだ?」
「えーどこだろ?わかんない」
「ぼうっとしてたぞ」
「・・・なんかさ、」
「おう」
「大きいキャンディ食べてたら、無心にならない?」
「、え」
「わたしはなる」

隼人の話しも頭から抜けて言っちゃうくらい、と付け足したなまえは左手に持った飴をまた口に運んだ。ここに来る前から彼女の手にあったそれは、始めに会った時よりも少しサイズが小さくなっている。飴を食べると無心になるかはさておき、そういう飴が似合ってしまうなまえは、なんだか女子高生としていけないように思う。

「どんどん溶けて形が変わるのが無心にさせるのかな?子どもがハマるの、なんとなく分かる。ここに来て」
「へえ、」
「マイブーム。おかげで」
「そういうのって随分昔に食べた記憶しかないから分かんねえな、」
「んん、まあそうだよね」
「うん」
「これ、一口あげようか?」
「え、いいのか?」
「うん。大きいからちょっと飽きた」
「ハマってるって、さっき言ってたのに?」
「それはそれ。隼人も食べたらわかると思う。この不思議な感覚」

手渡された飴の棒は、俺が持つと少し小さく感じた。ウサ吉は手の空いたなまえの方にさっさと場所を移動させて、全く賢い子だと、一瞬の寂しさが同時にふいてきた風と共に襲ってくる。

「隼人って、飴も似合うね」
「そうか?」
「うん。イケメンでヨカッタネ」
「それを言うならなまえも可愛いから飴似合ってたぞ、」
「はいはいどうも。で、食べて?」
「あ、・・・おう(スルーされた)」

食えばいいのか、食えば。なまえの好奇の目に煽られながら、それを口に運ぶ。生温くて、甘ったるかった。随分甘くて、なんというか、それはどうしようもない変な気分にさせる。

「・・・なんか」
「どう?」
「なまえの食べてた温さが、どうもエロい」
「え」
「ちょっと、変な気分になるな」
「ウサ吉!飼い主が昼間から盛ってる!」
「うさぎは絶倫っていうしなあ、」
「え、新開くん悪ノリだよね完全に」

見慣れた大きな瞳がやっとこちらに向けられて、ようやく目が合う。大体ペロペロキャンディだなんて存在自体が卑猥なものを、男の前で食べる方がどうかしている気がするのだが、言ったら不機嫌になるだろうから言わないでおく。だがその容姿でそんな飴を咥えてしまうのは、教室や部室ではせめて控えてほしいのだが。

「おめさん、あまり他所で飴舐めるのはやめた方がいいぜ」
「とりあえず、隼人の前ではもうしないと決めた」
「いや、俺の前では別にいいんだけどな」
「・・隼人って爽やか系ガッツりだよね、」
「?男は誰でもガッツりだぞ?」
「そんな根本論が聞きたいわけじゃなくて」

ちょっと昼間からムラっとしたのは仕方ない。ウサ吉もなんとなくそれを察知したようにそそくさと部屋に戻っていった。少し不服そうななまえを宥めつつ、あとでこのことを靖友達に同情してもらおうと、いつもよりうるさく響く予鈴を聞きながら考えていた。

あじさい