うわっ、思ったより低いんだけど…

よっしゃ、この前よりは上がった!

土方さん何点でしたかィ?…うわ、またそんないい点とって…カンニングとかしてんじゃないんですかィ?

してるわけねーだろ!!!



クラスでは答案返却が行われていた。
それぞれが不満の声や満足げな声を漏らす中、2名、何も言わず机に突っ伏していた。




「なんで一個も丸がないアルか……」


「…そりゃそうだよ。だって全部お菓子の名前しか書いてないし…」


「銀ちゃんのいじわる…」


「いや…別に先生は悪くないよ」


あの時言ってた、好きなお菓子ランキングを書いておいたというのは本当だったんだ…。



「む。でも点数が書かれている場所の下に何か書いてあるな」


九兵衛が指を指す。それはこんな一文だった。


「……全部気になるので、先生に買ってきてください。……だって」



「なんでアルかーーーー!!!」


座ったまま手足をジタバタと動かす神楽の隣でも、悲痛な叫びが聞こえた。




「なんでなんだよォォオ!!神は俺が嫌いなのか!?」


「いや、近藤さん…あんたこれほとんどの回答、各国のバナナの感想しか書いてねーじゃねえか。」


「ていうか、いろんな国のバナナ食べてるんですか。どんだけ暇なんですか」


「途中でネタ切れしてバナナの絵とか書いてありますねィ。……あ、最後のこれは姉さんの絵だ」


「よくわかりましたね沖田さん!俺にはただのゴリラの絵にしか見えなかっ…」


そこで隣から聞こえていた山崎君の声は途絶えた。姿も一瞬にして背後の壁にめり込んでいた。



「おい、そこのゴリラと暴食女。」


もう全員に答案を返却し終わったのか、いつのまにか近くに来ていた先生が声をかけた。



「てめーらだけだよ、うちのクラスで赤点取りやがったのは。つーか赤点どころか1点も入ってねーけどな」


銀色の髪をがしがしと手で掻く。
先生の目は、呆れて何も言えないというような目をしていた。


「じゃあ、神楽ちゃんと近藤くんは夏の合宿には行けないの…?」


先生が私の問いに答える前に、神楽が両手を机に叩きつける。

「そんなの嫌アル!みんな海でキャッホーしてる時にゴリラと留守番なんて!!」


それに続いて近藤くんが両手を机に叩きつけ、声を上げる。

「俺も嫌です!せっかくの夏休みなのにお妙さんの水着姿が見れないだなんて!!」


「近藤さん、あなたは合宿だけじゃなくて今後学校にも来ないでくださらない?」


抗議の声が次々と2人の口から出続ける。
私も4人揃って行けることを楽しみにしていたから残念だな…

すると、ここまで無言でいた先生が、しょうがないとでも言うように渋々、口を開いた。


「わーったよ…てめーらのために最後のチャンスをくれてやる。」


「最後のチャンス、アルか?」


先生の突然の言葉に神楽は目を少しだけ輝かせた。


「3日後…再テスト受けさせてやる。もし、その時も今回みてーな点取りやがったら今度こそしめーだからな」


「さ、再テストアルか!!!」


「ちなみに合宿に来れなかったやつは、夏休み中毎日学校に来て課題をやり続けることになる。そうなりたくなかったらてめーら今度こそ死ぬ気で勉強しろ」


「は、はい!!ありがとうございます先生!お妙さんの水着姿を見たい一心で一生懸命勉強します!!!」


「先生、近藤さんだけ再テスト受けさせないでください。」




さっきまで抗議の声が上がっていたのに、もう今は喜びの声に変わっていた。
先生は大きくため息をつき、小声で
またテスト作らなきゃなんねーのかよ…
と、不満をこぼして教室の後ろの扉に向かっていく。
私は横で喜ぶ神楽たちから離れ、先生を追って廊下に出た。



「先生、」


声をかけると先生は立ち止まって首だけを動かして、私の方を向いた。


「…先生、やっぱり優しいね」


「はあ?なんだ急に…」


眉と眉の間に皺をつくり、私を見る。


「だって、2人のためにまたテスト作ってくれるんでしょ?わざわざ。」


居心地が悪い、というような顔をする。


「……あの合宿はな、毎年やってるわけじゃねーし、思い出作りってわけじゃねーんだよ。今年たまたま金が余っちまうから、仕方なくやるだけで別に参加するのだって自由だし、でもあのバカ校長ができるだけ多くの生徒を行かせろってうるせーから」


「嘘。そんなわけないじゃない。夏のクラス合宿は毎年あるって私知ってるよ?」


「……これだから優等生は嫌なんだよ」


また大きなため息をついた。
見透かされて今度は少し不機嫌な顔をした。


「元、だよ」


「おい、このことあいつらには言うなよ。言ったらあれだから、言ったら今後お前が日直の時嫌という程こき使ってやるからな」


「うわ、それはやだー」


私だけじゃないけど、普段から日直の時はこき使われているのにこれ以上こき使われるのはやだな。
でも…ふふ、とつい笑ってしまう。口止めするために脅している先生の顔がほんのりとピンクに染まっていたから。


「そんなこと言われなくても別に言わないよ。」


「絶対だぞ。もし言ったらお前の名前使って手当たり次第にラブレター書いて…」


「わかったって!ていうかそれは本当にやだからやめて!」





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