天使のための子守唄
※人間夢主・機体縮小化
「なぁに、じっと見つめて」
何も身につけておらず無防備になった、なだらかな首すじから背中にかけて、じっとりと睨めつけるような視線を背後から感じて、彼女は苦笑した。
「わかんのか」
「そりゃ、そんなに熱心に見つめられちゃ、ねぇ? 流石に気づくよ」
身なりを整える女の何が面白いのか、サンダークラッカーの視線は指摘しても尚、痛いほど彼女の背中に突き刺さっている。それこそ、背中に目がついていなくても気がついてしまうほどに。
「いやなに……人間ってぇのはつくづく奇妙な作りしてるな、と」
「気になる?」
「表面は繋ぎ目がねぇくせに、その割には所々俺たちみたいに角ばってやがる。ここなんか特に……」
サンダークラッカーは彼女の質問を聞いているのかいないのか、するりと指先で彼女の背中を擽るように撫でては離れ、もう一度撫でてを繰り返す。彼女はくすくす笑いながら擽ったそうに身を捩るも、サンダークラッカーの手を止めたりはせず、静かに彼の話に耳を傾けていた。
両肩のすぐ下にある羽にも似た薄らと浮き出る骨が、サンダークラッカーは一層気になるようで、そこをしきりに撫でている。
「そこは肩甲骨って言って、鎖骨とかに繋がってて……そういえば、ここは天使だった時の名残とも言われてるらしいよ」
「天使?」
「人間が天使だった頃、ここから羽が生えてたんだって。今はもう羽はなくなっちゃったけど、その名残として肩甲骨が残ったって話」
「なんで無くしちまったんだ?」
「さぁ、飛びたくなくなっちゃったんじゃない? そもそも御伽話だしね」
彼女はささっと背中を覆う肌着を身につけると、サンダークラッカーの腕を自身の体の下に巻き込みながら、ゆっくりと寝返りをうった。そうして「もうお話はおしまい」とでも言うように、サンダークラッカーの胸の中に埋まりながら目を閉じた。金属でできた体は、彼女の熱が移ったのか生温かった。
サンダークラッカーは彼女のなんともないように言った話を反芻して、心底不可解に思った。例えそれが、嘘っぱちの御伽話だったとしても、だ。
「もったいねぇ。羽があったらお前とも一緒に飛べたのに」
サンダークラッカーは天使というものがどういった生き物かは知らないが、もしも彼女の羽が生えていたとしたら、きっとそれは輝かしいほどに美しく、見事で立派なものが生えていたであろうことが容易に想像できた。彼女に今からそれを生やすことは不可能だが、サンダークラッカーは彼女のありもしない姿を想像せずにはいられなかった。
サンダークラッカーのぼやきのような言葉に、彼女は少しだけ身動いだだけだった。
「なんだ、もう寝ちまったか?」
「んん……。私は……サンダークラッカーに乗せてもらうの、好きだから……。羽が生えてなくてよかったと思うよ」
「そうかァ?」
「……そうだよ」
眠そうに、それでも精一杯伝えようと、言葉の一つ一つを聞き逃さないよう、サンダークラッカーは黙って聞いていた。彼女から紡がれるそれは、ただの本心だろうに、どこか祈りのようで、妙な重みがあった。
「…………だから……これからも一緒に飛ぼう、ね……」
一呼吸置いて、ほとんど夢うつつのまま彼女から発せられたそれは、サンダークラッカーの不満を打ち消すのに十分なものだった。これ以上反論するつもりは全く消え去って、その上同意しようにも、その宛先はもうすっかり夢の中へと旅立ってしまったようだった。
穏やかな寝息の中、サンダークラッカーはゆったりとした気持ちで彼女の寝顔を盗み見た。
そうだ、明日は休みだし、彼女を乗せてどこかに飛んでいこうか。そう考えた後、もう一度だけ羽の生えた彼女を想像して、穏やかに眠る天使に倣って、スリープモードに移行したのだった。