チャロアイト xx先輩がクスクスと笑うのをふくれっ面で見上げる。 「お、起きてたのか!」 非難めいた口調でわずかばかり語尾を強くすれば、xx先輩は「しーっ」と人差し指を自身の唇にあてた。そうだ、今は深夜だった。きまり悪く感じながら、ベッドの横にそっと座る。 気持ち悪いと思われていないだろうか。女の子同士で、あんなに顔を近づけて。友達の域を超えて触れようとした。彼女は、どう思っただろうか。ボクが彼女に劣情を孕んだ恋心を抱いているのを、知られてしまっただろうか。いや、きっとまだだ。知っていたら大人しく寝たふりなんてできるはずがない。 xx先輩は黙り込んだボクを見て首を傾げた。 「寝ないの?」 丁寧に布団まで捲って、少しだけ乱れたナイトウェアから膝が覗く。ゴクリと喉が鳴った。ああ、まただ。自己嫌悪に苛まれた。 「ごめんな」 思わず洩れた謝罪の言葉は、存外軽く聞こえた。そのことに何故だか妙に安堵して、へらりと笑って見せる。冗談にしてしまえばいい。 「どうして謝るの? 変な真純ちゃん」 再びベッドへ潜り込んだボクにxx先輩がまたクスリと笑った。 「べつに」 また揶揄われる気配がして、寝返りをうってxx先輩に背を向ける。 「ジョーダンとはいえ、ああいうのは好きなひととするもんなんだろ。悪戯が過ぎたと思っただけさ」 理由はそれだけではないけれど、あらいざらい吐き出せるはずもない。拗ねをのせて呟く。聞こえているかどうか怪しい声量だったが、xx先輩はしっかりと拾ったらしい。その証拠に控えめな笑い声が響いた。 「わたしは真純ちゃんのこと好きだよ」 息が止まった。一瞬にして、自分の喉元で心臓の動きが自己主張を激しくする。すっと彼女の香りが強くなって、頬に滑らかな冷たさが触れた。xx先輩の、頬が。ボクの、頬に。数秒にも満たない間だけ、重なる。チークキスというやつか。違う気もするけれど。 「出会ってからそんなに経っていないけれどね、真純ちゃんのこと大好きだよ。これからも、ううん、これからもっと、仲良くなろうね」 嬉しいはずの言葉に頭が冷えた。彼女が触れた頬の温度の所為だろうか。好きだと言われて幸福には変わりなく、けれども自分の求めているものとでは本質が違うのだと冷静な自分が嗤う。 「そうだね」 xx先輩の髪を一度梳いて、それだけを返した。 眠れない夜になるのだろうかと危惧していたが、いつの間にか意識は飛んでいたらしい。カーテンの隙間から差し込む朝日がいやに眩しくて眉を寄せた。 ベッドから這い出てカーテンをゆっくりと開ける。しゃ、と小気味のいい音がして光が強くなった。ただでさえ眠気で上がり切らない瞼のまま、目を更に細める。いくらか落ち着いてしっかりと窓の外へ視線を投げれば、三月だというのに銀世界が広がっていた。 「わぁ」 ボクのものではない声がした。振り返ればxx先輩が起き上がって目を輝かせている。 「おはよ」 ふわりと口元をほころばせてから、ボクの隣まで来た。 「雪だね」 朝のかすれ声にさえ、どきりとしてしまう。 邪な気持ちを振り払うようにもう一度一面の光を眺めた。米花に降るのも三月に降るのも、相当な珍しさだ。異常気象だろうかと少しだけ不気味に思う。 一方xx先輩は目の前の光景にすっかり心を奪われているようだ。ただでさえクラリと輝く瞳がキラキラと銀世界を反射している。それからはっと飛ぶようにクローゼットを開けて上着を二着取り出した。 「行こう!」 ぱしりとボクの手をとって駆け出す。広くはないが狭くもない中庭まで来て、上着の一着をボクに手渡した。彼女自身も上着を羽織って、ガラリと硝子戸を開ける。 「xx先輩!?」 素足で勢いよく外へ踏み出すものだから驚いて叫んだ。彼女はそんなボクを誘うように手招きをする。 こほり。踏みしめれば音がした。数センチの積もった雪は冷たく、けれども高揚する。先輩だというのに、ボクよりも少女の顔で楽しそうに足跡を付けていくxx先輩を眺める。白魚のような手指が、清純で艶めかしい足先が、これでもかという程に煌めいていた。たまらなく愛しい。 「好きだよ」 雪は音を吸い込むらしい。それを思い出して、試しに呟いてみた。何度目の告白だろうか。なんて、一度だってきちんと伝えたことはないけれど。 xx先輩からの返事はない。本当に吸い込まれたのか。いっそ、この気持ちも一緒に染み込ませてくれればいいのに。そうしたら、楽になれるだろうに。 「ふふ、わたしも」 地に落としていた視界に、白い肌をじわりと赤くした素足が映った。ぱっと顔を上げる。いつものように、太陽を思わせる笑い方をするボクの好きなひとがいた。 聞こえていたらしい。きっと、ボクの好きと彼女のそれはまるきり性質が違う。苦しくはあるけれど、それでもいいと思った。この関係があまりに心地よいからそう思うのかもしれないし、ただボクが臆病なだけなのかもしれない。怖いからもう一歩踏み出すことは諦めて、しばらくはこのままで。 本編終了。 ありがとうございました。 back to top |