フレンとユーリ


それは彼にそぐわないものだった。彼の涙を見たのは僕もはじめてで、思わず息を飲んで見惚れたようにぼやっとしてしまった。女性の涙でも、こんなには綺麗に写らないだろう。彼に不釣り合いな涙は、彼を可憐に、美しく見せていた。
「わり、泣くつもりはなかった」
本当に、思いがけない涙だったらしい。原因が原因なだけに、ぼくは口を閉じて彼の珍しい一面を凝視していた。
「人が失恋して泣いてるってのに、おまえちょっと悠長としすぎだぜ」
美しい容姿とは不釣り合いな言葉たちが、ぼくの喉元をしめた。
「すまない」
ぼくの初恋は紛れもない、ユーリであった。
ユーリの初恋は綺麗な女の人だったけど、一度きりの恋よりも、ぼくを思ってくれていることを知っている。それが、いつの間にか愛だの恋だのにすり替わっていたことも、けれどもユーリがぼくと手を繋いで歩いていくつもりなど微塵もなかったことも全て知っていた。知っていたからこそ、ぼくは彼と共には生きられないと、はっきりと言い切ったのだ。
「謝るなよ。おれじゃないってことは最初からわかってたさ」
「どうして、告白を」
彼は決してぼくの不運を喜ばない。心から、安らかな日差しの下幸福でいることを望んでいる。だから、きっとぼくが悩むような、ぼくの心を揺るがすようなことはしないと、勝手に思っていたのだ。彼の顔を見て、酷なことを言ったと思った。すぐにでも撤回せねばならないと思った。
ユーリが、笑む。普段ひょうひょうとして、悪態をつくためにあるような唇がわなわなと震えている。ユーリは涙をひっこめようとして、うまくいかずに唇をかみ締めた。ああ、ぼくも彼と同じ気持ちであるはずなのに、こんな見え透いたことを問いかけるぼくは最低だ。
ぼくは彼が好きだ。これはきっと彼に筒抜けている。彼はぼくをすきだ。これもとっくにわかっていたことだ。どちらも、後戻りはできなかった。親友というまどろみから、肩書きから、背負った罪からも。ぼくらはとっくにそのことに気づいていたのだ。それでもこうして、冗談みたいに告白を告げた。
ユーリは、そっとぼくの名を呼んでそうして暗闇の中へ身を翻した。
「おれは、おまえがしあわせならそれでいいんだ。そこにおれがいなければ、きっともっと」
「消えるつもりなのか」
「主役が登場するまで、居座ってやろうと思ってたんだ。でも、おれがいちゃその妨げになるってこと、気付いたんだよ」
「きみはもう一生、ぼくのそばにいるって思ってたよ」
「ばかいえ。おれがいつ、おまえのそばにいたよ」
「こころは、いつだって」
小さい頃から、難はあったが心はそばにあった。たとえ距離が遠くとも、立場が違えども、心は通じていた。それはこの先だって、同じだろう?
ユーリは、眉を顰めて困ったように笑った。そんな、子供にするような顔をしないでくれ。それではまるで、否と言っているようじゃないか。
「ほんとおまえって、おめでたいヤツだな」

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