滅びの理由

アルテスタの家に着くと、アルテスタたちは皆を待っていた。
そして、何があったのかを話し始める。

「……わしはクルシスに所属する要の紋の細工師だった」

かつてクルシスにいた。その言葉にロイドが反応する。

「あんたも天使の……ユグドラシルの仲間なのか!」
「ユグドラシル様を知っているのか!?」

逆にアルテスタが驚いた様子を見せる。敵であるユグドラシルを敬うような姿にロイドやジーニアスが憤る。

「ふざけるな! 何がユグドラシル様だ! あいつのせいでシルヴァラントもテセアラも、お互いのマナを奪い合うような歪んだ世界にされちまったんだぞ!」
「ロイド、落ち着いてって……」

そのことでアルテスタを責めてもどうにもならないのだ。クルシスにいるドワーフはただ命令のままに要の紋のメンテナンスを行うだけなのだから。
アルテスタはしばらく押し黙っていたが、コレット――の胸元にある輝石を見て目の色を変えた。

「それはクルシスの輝石……。そうか、お前さんたちは……衰退世界の神子たちか」

合点がいったようで、ふむ、と頷く。

「これも運命の巡り合わせかのう。……オゼットがあんなことになったのはわしのせいなんじゃ……」
「どういうこと……ですか」

プレセアが僅かに声を震わせる。

「わしは間接的にでも人の命を奪うような仕事が嫌になってな。クルシスから逃げ出してオゼットに身を寄せたのだ。しかしロディルというディザイアンに捕まって命と引き替えに、クルシスの輝石製造を命じられたのじゃ」
「すると何だ、プレセアちゃんの研究はロディルと教皇が手を組んであんたやケイトたちにやらせていたってことか?」
「……そうじゃ。ロディルはクルシスの尖兵たるディザイアンでありながらクルシスへ反逆を企んでいるのじゃ。それにわしが荷担したから……だからユグドラシル様がお怒りになって、オゼットを……わしを助けたオゼットを滅ぼしたんじゃ!」
「それでプレセアが――私の遠い思い出を映すこの少女が巻き込まれたというのか。あまりにもやるせない」

リーガルは静かに首を振った。

「すまん。謝っても謝りきれんが今のわしには……それしか言えん」
「……私の時間は……戻ってきません……村の人もパパも生き返らない」
「プレセア……」

何も、戻らない。その事実は何をしても揺るがない。

「すまん……」
「謝らないでください。謝られても……今の私には許すことができないから」

プレセアは俯いてしまう。アルテスタはいたたまれなかったのか、家の中へ入っていってしまった。

「……私は、違うと思う」

レイラはつい、思ってたことが言葉になって出てきた。

「どういうことですか?」
「……こういう言い方は乱暴だけど……たかがドワーフの1人や2人、裏切っただけならユグドラシル様はそこまでしないと思う。あの人、よほど重要な人……たとえば四大天使の面々くらいしか興味が無いように見えたから」

五聖刃クラスの者ですら、単なる手駒としか思ってない、そんな節すらあった。もっと気にかけていたなら、ロディルはあそこまで暴走できなかっただろう。

「そうでなかったら、私なんて今頃放置されずに殺されてる」

ユグドラシルの人格を完璧に把握できるほど接してはいなかったが、今のレイラの状況を鑑みればこの考え方の方がしっくり来る。

「オゼットが滅んだのは別の思惑がある……ということですか?」
「……これも違うかもしれないけど」

何が正しいのかは、ユグドラシルに直接聞きでもしないと分からない。
もしかしたら本当にアルテスタが原因かもしれないし、違うのかもしれない。

「もしそうだとしても……私の時間が奪われたことには変わりません」
「……そう、だね」

彼が村が滅んだ原因でなくても、プレセアは既にアルテスタが要因で大きなものを失っている。その事実は揺らがない。

「プレセアサん……あなたが失ってシまったものは大きいと思いまス。でもどうかあなた自身まで失わないでくだサい」

タバサはそれだけ、言葉をかけて家の中へ戻っていった。
それを見ていたミトスが1つ、声をかける。

「ボク……少しだけプレセアさんの気持ちが分かります。どうしたって戻ってこないものはある……それを謝られても……許してあげたくても、自分ではどうにもならないんです」
「許されないこと……それが罰なのかもしれぬ」

リーガルがミトスに同意するが、ロイドは首を横に振った。

「……俺は違うと思う。許すとか許さないとか、そういうのは、罰ではないよ。上手く言えないけど……」
「まあまあ、そんな哲学っぽい話しは置いとこーや。プレセアちゃんも無理に許してやる必要はねーし、俺さまたちも、前向きに物事ってのを考えようぜぇ」

今はできることはアルテスタからクルシスのことを聞くこと。
話を聞かせてほしいと乞えば、アルテスタも長くなる、前置きし、話してくれることになった。

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