けん玉騒動

「それっ!」
「うわぁ。ミトス、上手だね!」

ジーニアスのけん玉で遊んでいたが、見た目より難しく上手くできない。そんな中ミトスが興味を示したので渡してみると、鮮やかに玉は剣先に、皿に、振るたびにころころと場所を変えながら収まる。
これには普段けん玉を使い慣れてるジーニアスも驚く。

「……もしかしてけん玉って、ハーフエルフの作った遊びなんじゃねーの」
「流石に偶然でしょ?」

ロイドは斜め上の発想に行きつく。レイラは失笑する。ハーフエルフじゃなくてもけん玉の上手い人はいるだろうに。

「私もやってみていいかなぁ」

コレットがわくわくと、楽しそうに訊く。そのままけん玉を受け取り、

「せーの。それっ! えい! たぁ!」

こちらも慣れてないからか少しおぼつかない。そしてそのうちに。

「……あ!」

勢いをつけすぎて手からけん玉が抜けてしまう。

「やべ、先生に当たっちまう!」

離れた場所で本を読んでいるリフィルの方へ飛んでいく。

「危ない!」

が、突然不自然にけん玉が方向を変える。
そしてちょうど部屋に入ってきたゼロスの上に、

「あいてて! なんでけん玉が降ってくるんだよ!」

見事に落下した。

「不思議だねぇ」
「コレットの力のせいかな」
「コレットだもんね」
「不思議なこともあるんだね。でも、リフィルさんね怪我がなくてよかったよ」

みんな訝しむが、投げてしまったのがコレットだから、と思うと不思議と納得できてしまう。リフィルに当たらなくてミトスはほっとしている。

「俺さまはいいのかよ、とほ〜」

誰も心配してもらえないゼロスはひとり落ち込んでいた。
特に気にすることもなくまたけん玉の遊びを再開する。

「えいっ!」

レイラも試すが、玉は宙をあちこち跳ねたりするだけで上手くいかない。

「うーん……ジーニアスは詠唱の時にけん玉を使うけど、かえってリズムを取れないと思う」

詠唱のリズムを取るためにけん玉を使うというのは聞いていたが、いざやってみようとすると絶対に上手くいかないと思える。

「それはレイラがけん玉を使えないからだよ。ボクはけん玉がある方がやりやすいから」

ジーニアスが本格的に魔術を覚えた頃、既にけん玉が得意だったからそれを使ったものになったのだろう。レイラにはよく分からない感覚だ。

「レイラは詠唱の時は姉さんと同じで精神統一するんだったよね。同じ魔術でも人によってやり方は違ってくるよ」

コレットは神に祈ることで集中する。2人とはまた全然違い、祈りが習慣として身についてるコレットならではだ。

「例えば、姉さんはそこで集中して本を読んでるけど、ロイドが同じ本を読んでも集中できないでしょ? それと同じだよ」
「そっか、なるほど!」

ジーニアスの例えにレイラは疑問が解けてすっきりする。

「ちょっと待て、どういう意味だよ!」

引き合いに出されたロイドがムキになってしまったが。

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