秘密の対話
ミトスを交えて遊んで浮かれて疲れて就寝の時間になった。
だというのに、今日はあまりに様々な出来事に直面して疲れてるにも関わらず、どうにも眠れなかった。
どうしても眠れない時は睡眠を遮断すれば疲れ自体を持ち越すことはないのだが、そういった感覚を遮断してしまうのは抵抗があった。
仕方が無いから星を数えて時間を潰そうと、少しでも見やすい場所を求めて寝室から出る。
「……?」
作業場の明かりがついていて、金属を削るような音が聞こえる。
何だろう、と足がそちらの方へ向く。
覗き込んでみると、アルテスタが何やら作業していた。
「あのー……?」
「ん?」
つい声を掛けてしまった。アルテスタは作業を中断してレイラの方を見やる。
「お前さん、確かレイラと言ったな。眠れんのかね?」
「そんなところです……。アルテスタさんは何を……?」
作業机に視線を向けてみる。
「……要の紋?」
作っているのはまじないの刻まれた独特な形のアクセサリー。要の紋に間違いないだろう。それも、プレセアのものと形が同じもので。
「お詫びと言うには簡単すぎるのじゃがな。今のわしにはこれくらいしかできん」
「いえ。有難いです」
いずれ必要になるものではあったが、今のアルテスタに頼むのも気が引けてしまっていた。まさかアルテスタの方から作って貰えるとは。
「……お前さんは」
アルテスタは薄明かりの中でレイラの顔をしげしげと見つめる。
「わしの知ってるお方に、面差しがよく似ておるな」
「…………」
誰、とは言われなくても分かった。
「……生まれはシルヴァラントですが、物心ついた頃にはクルシスにいました。何故かはわからないけど、多分、私の父の立場が関係している……」
「では、やはりお前さんは……!」
レイラが何者なのか、アルテスタはその言葉で察した。
「このことは、みんなには言わないでいてください。きっと、混乱させてしまうから」
クラトスが父と知れば、ロイドはきっと混乱してしまう。そんな思いはさせたくない。それを汲み取ったアルテスタは深く頷く。
「分かった。それにしても、わしが逃げ出してから、色々あったようじゃな……」
レイラたちが生まれるまでの経緯がただならぬものであったであろうことは嫌でも察せられる。
「……お邪魔して、すみません」
「構わんよ。それより、お前さんの要の紋を見せてもらえんかね? 少し気になることがあってな」
「え? はい……」
取り外してアルテスタに渡す。それをざっと検分すると、アルテスタはひとり頷く。
「……ふむ、やはり。まじないが不完全じゃ」
「え……!?」
「このままでは効果が不安定で危険じゃ。少し待ちなさい」
アルテスタがレイラの要の紋を修復する傍ら、レイラは考えていた。
レイラがクルシスの輝石に一時的に支配されたのは要の紋に問題があったからということだ。それまで何事もなかったのが奇跡である。
それほどまでに、信用されてなかったということだ。ユグドラシルの采配1つで、いつでも心無き尖兵になれるようにしておくくらい。
それなのに何もせず放っておかれた。本当にレイラに興味がなかったのだろう。もしかしたら要の紋の仕込みすら、レイラをよく思わない別の誰かに指摘され渋々だったのかもしれない。
「さあ、これで大丈夫じゃ。明日からまた旅が続くのじゃろう。お前さんもゆっくり休みなさい」
「はい……ありがとうございます」
要の紋のこと、秘密を守ってくれること、そしてささやかな気遣い、色んなことへのお礼を込めて。
「あれ、レイラ?」
「ミトス? どうしたの、こんな時間に」
外からミトスが家の中に入ってくる。互いに目を丸くする。
「ちょっと眠れなくて、夜風にあたってたんだ。レイラは?」
「昨日今日で、村が滅ぼされたり、色々あったもんね。私も似たような感じ。何だか目が覚めちゃって」
「そっか。おやすみ、レイラ」
「うん、おやすみなさい」
レイラは眠気がくるまで、と外に出て星を見ようとした、が。
「……何してるの」
ドアの横の外壁に、ゼロスが寄りかかっていた。
夜は、まだ続いている。月は傾き始めていた。