愛する者たち

「……大事ないか? ジョルジュ」
「……はい、リーガル様」

ヴァーリに会長と呼ばれ、ジョルジュに敬われるリーガル。

「おい……会長ってどういうことなんだ?」

ロイドが問えば、リーガルは改めて皆に向き合い答える。

「私はリーガル・ブライアン。陛下より公爵の地位を頂いた、レザレノ・カンパニーの会長だ。神子は……ご存知のようだが」
「前に王女の誕生パーティーで見かけたな」

リーガルに視線を向けられて事も無げに言うゼロス。

「そうか……。忘れてたけど、こいつも上流階級の人間だったよ」
「うひゃひゃ」
「……やっぱり」

知っていたじゃないか、とレイラはゼロスをじとりと見やる。

「……じゃあアリシアの仇のブライアンって」
「あ、あれ? まさか……リーガルさんが……?」

まさかこんな近くにいたとは思わなかった。コレットらは驚きを見せる。
リーガルは墓に向き合い、呼びかける。

「アリシア!」

呼びかけに答えるように、アリシアの姿が浮かび上がる。

『リーガル様。消える前にお会いできてよかった……』
「すまなかった。死して尚、それはお前を苦しめているのだな……」
『いいんです。リーガル様は悪くない……』

リーガルとアリシア。2人の様子は、皆が想像していたようなものとは全く違っていた。穏やかで、苦しんでいる。

「アリシア……どういうことなの……?」

プレセアは何が起きているのか分からない、と困惑を滲ませた声を漏らす。

「アリシアと私は愛し合っていた」
「それを執事である私が出しゃばり……無理矢理引き離してしまったのです」

身分違いの恋。ただ引き裂かれるだけならよくあることだったのに、それだけでは留まらなかった。

「アリシアはヴァーリに引き渡された。奴はアリシアでエクスフィアの実験をするつもりだったのだ」
「それってもしかしたら、クルシスの輝石を作る実験ですか?」
「どうやらそのようだ。しかし実験は失敗した」

リーガルはその顛末を回想する。


「約束だ。鉱山はくれてやる。だからアリシアを返してくれ!」
「……ああ、返してやる! あんな失敗作はこっちから願い下げだ!」

ヴァーリの背後から現れたのは人とは思えぬ化け物。彼の家の使用人の制服を纏った。

「……こ、これは……」
「これがアリシアだ! こいつはエクスフィア実験に適合しなかったんだよ! こいつの家族では上手くいってるのに、何がいけなかったんだ……」

吐き捨てるヴァーリをよそに、アリシアから、苦しみに満ちた声が響く。

『リーガル様……私を……殺してください……』

アリシアは理性を失いつつあり、リーガルに鋭い爪を振るっていく。それでも彼は抵抗しなかった。

「で、できぬ。我が手でお前を……殺すなどできぬ!」

たとえ愛する者の頼みであっても、愛する者を手にかけるなどできなかったから。

『愛しているからこそあなたにとどめを……刺して欲しいのです!』

けれどもアリシアは愛する者の手にかかることを望む。
彼女は最期の想いから、リーガルを懐に抱きとめた。
そして彼女の望むまま、彼はその手で、アリシアを――

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