大樹暴走

各地の祭壇からマナが溢れかえり、それに呼応するように救いの塔の周りの大地の下を何かが走る。
隆起し、割れた大地から飛び出したのは、巨大な木の根。
根は更に大地から伸ばしていき、街――パルマコスタを襲う。
建物も、人も、全てを潰さんとばかりに伸ばしていく。
そうして街を、祭壇を、潰しながら伸ばした根は救いの塔を覆っていった。

おぞましい、化物のような根の束の中に、何かが見えた。

(女の人……?)

樹の中に覆われ、まるで拘束されているようなそれは、女性に見えた。どこかで、会ったような。

崩れる祭壇から咄嗟に脱出して避難したが、そこから為す術もなくおぞましい樹が成長していくさまを見ているしかなかった。

「一体何が起きたんだ!」
「めちゃくちゃじゃねぇか……」

想像していた光景とはまるで違う有様に、皆言葉を失う。

「ねぇ……あれが……大樹カーラーンなの?」

楔を抜いて発芽した樹。普通に考えると、あれが大樹カーラーンということになる。とても、信じたくはないが。

「あの女の人……」
「……誰だろ。どこかで……会ったような……」

コレットも、レイラも既視感を感じている様子だ。
ユアンが恐ろしいものを見たかのような、震えた声で呟く。

「……マーテル!?」
「マーテル? あの木に取り込まれようとしている女性が?」
「……誰かに……似てる……。あれは確か……」

コレットはこの既視感に、心当たりがあるようだ。

「何故マーテルが、あのようにグロテスクな大樹と復活するのだ!?」
「やはり……こうなってしまったか」

クラトスは、この事態を予期していた。そのために、契約を止めようとしていたのだ。

「どういうことだ!」
「大いなる実りが、精霊の守護という安定を失い暴走したのだ」
「そんな馬鹿な! 精霊は、大いなる実りを外部から遮断し、成長させないための手段ではなかったのか?」
「それだけではない。2つの世界は、ユグドラシルによって強引に位相をずらされた。本来なら、互いに分離して、時空の狭間へ飲み込まれてしまうのだが、2つの世界の中心に大いなる実りが存在しているからこそ、それは回避されている」
「そんなことは貴様の講釈を受けなくても分かっている!」

大いなる実りは2つの世界を安定させるのに作用していた。だが、それだけでは終わらない。

「大いなる実りは、離れようとする2つの世界に吸引され、どちらかの位相に引きずり込まれようとしている。故に、いつ暴走してもおかしくない不安定な状態にあった」

大いなる実り自体の不安定さを指摘され、ようやくユアンは合点がいったようだ。

「……待て! それでは、精霊の楔は大いなる実りを2つの世界の狭間に留まらせるための檻として機能していた。……そういうことか」
「その通りだ。安定を失った大いなる実りに、お前達がマナを照射した。結果、それは歪んだ形で発芽し、暴走している……融合しかかったマーテルをも飲み込んでな」

楔は、不安定な状態にあった実りをどうにか留めていた。それを取り払ってマナを照射してしまった。それが、今のこの結果ということだ。

「理屈はどうでもいい! このままだと、どうなるんだ!」
「……クラトスの言葉が真実なら、シルヴァラントは暴走した大樹に飲み込まれ、消滅する。シルヴァラントが消滅すれば、聖地カーラーンと異界の扉の二極で隣接するテセアラもまた、消滅する」
「……みんな……死ぬんですね」
「あの歪んだ大樹と、デリス・カーラーンに住む天使以外はな」

この大地が、全て消滅してしまう。ここにいる全員、このままでは世界と共に死んでしまう。

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