ひとときの憩

ダイクは自身の技術は自身が一番よく分かっているようで、最初は難色を示していた。
だが、クラトスがテセアラ中を巡り集めてきた道具を見て、承諾してくれた。
ダイクがエターナルリングを作るまでの待ち時間、皆は家の外で待つことに。
世界は一刻を争う事態で、コレットの安否も知れない。でも焦っても何もならないことはよく分かっている。戦いに向けて今は疲れを癒やし気持ちを落ち着かせて時間を過ごす。

レイラは母の墓の前に座り込み、祈っていた。どうか最後まで、見守っていてくださいと。
ゼロスが傍に来て、声を掛けられる。

「思ったより落ち着いてるな。てっきり焦ってるかと思ってたぜ」
「焦っても何もならないしね。そもそも、いつも焦ってたらとっくに折れてると思う」
「あー、言われてみりゃそうか。でも俺さま、初めて会った時からずっと、レイラって何かと思い詰めてるイメージしかねぇんだけど?」

レイラは呆気にとられる。そんなこと、言われたことも思ったこともなかった。

「……そう?」
「原因作ってた俺さまが言うのも何だけど、あんまり表に出さないから落ち着いてるように見えて、全然落ち着いてねぇの」
「よく見てるね。自分でも全然分からなかった」
「よく見てるっつーか……みんな気付いてると思うぜ? レイラって結構分かりやすいから、しばらく一緒にいるとすぐ分かる」
「え!?」

思いもよらなかったことを指摘されて、驚く。

「分かりやすいって……私が?」
「そこも気付いてなかったか……。今だって肩の力が抜けてて落ち着いてるって分かるのによ」
「そんなこと言われても……」

ゼロスは半ば呆れたように指摘するが、自分の姿を自分で見られない以上、気付く方が難しいだろう。

「けど、そっか……そう見えてたんだ。ゼロスには、私が」

面映ゆいような、そんな気持ちになる。

「そうそう。周りのことばっか見て自分が見えてないし、何考えてるかすぐ分かるし、ほんと見てて危なっかしいの」
「…………」

そういう風に言われると、あまりいい気はしない。

「そうむくれるなって。それだけ真剣に目の前のことに向き合ってて、素直だってことだし」
「……調子のいいこと言って、はぐらかそうとしてない?」
「俺さま、レイラのいいとこ言ってるだけなんだけどな〜」
「はいはい」

いちいち反応していたら、今度は何を言われるかたまったものではない。

「けど真面目な話、そういう危なっかしい所も、真っ直ぐな所も、全部ひっくるめて俺はレイラのこと好きなんだぜ」
「なっ……」

思わぬ告白に、さっきまで以上に動揺してしまう。

「分かりやすいからこそ、周りの――俺のことにも真剣になっていたって分かるしよ。自分の行く末を委ねてもいいな、って思えるくらいに」
「そ、そう……」

嬉しいやら恥ずかしいやらで、顔を上げられなくなる。
ゼロスはそんなレイラの傍にしゃがみ込み、手をレイラの頬に添える。
流石に、何をする気かなんて分かる。咄嗟に振り払う。

「そういうの……今は駄目。この戦いが終わってから……」

こんな話をしているが、今は急を要する状況なのだ。
本当は、こうして浮かれている場合なんかじゃない。

「だよな……。その言葉、ちゃんと覚えておけよ」

言外に、この旅が終わってからも共にいると、約束したようなものだった。

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