崩壊

ジーニアスが喜び、駆け寄る。

「やったね、ロイド……」

が、隠し持っていたある物がひとりでに飛び出す。

「う、うわぁ!」

それはミトスのクルシスの輝石。救いの塔からずっと壊せずに持っていたそれが、輝石と同化していたミトスの意識が、今動き出した。
輝石がロイドの体に装着される。

「時間がない……お前の体を借りる!」
「や……やめ……ろぉー!」

マーテルにやろうとしていたように、ミトスは他者の体を奪い活動しようとしている。

「いけない! ミトスよ! クルシスの輝石に宿って生きていたんだわ。このままでは、ロイドの体が乗っ取られてしまう!」
「ロイド!」

それを聞いたコレットがロイドから輝石を引き剥がす。
だが、それによって、対象がロイドからコレットに変わっただけ。
そのまま、コレットが乗っ取られてしまった。

「くそ、邪魔されたか! まあいい。この体は貰っていく」
「コレット!? 待て! コレットを返せ! 約束したんだ……世界を統合したら、2人で旅に出るって……コレットを返せ!!」
「あはははは、知るもんか! ボクはこの汚らわしい世界から出て行くんだ!」

そのまま、コレットの体を乗っ取ったミトスはこの場から消えてしまった。

程なくして、大きな地響きが起こる。
その地響きの源は、救いの塔から。
そして、塔全体に亀裂が走り、崩れていく。崩れた瓦礫は周辺に降り注ぎ、破壊してく。

「救いの塔が崩れる!?」
「ミトスだ! デリス・カーラーンへの進路を塞いだのだ!」
「くそ! とにかくエルフ達を避難させよう! このままじゃ、村は壊滅だ!」

瓦礫の被害は、救いの塔に程近いこのヘイムダールにも及んでいる。
急いで村へ戻らなくては。

村のエルフ全員の避難が完了したのと同じ頃合いに、塔は完全に崩れ去り、常にそびえ立っていた姿は跡形も無くなってしまった。
そして塔の代わりのように、空に紫色の巨大な物体が現れる。
世界中を覆うほどの巨大さ。まるで、空の色が変わったようにさえ思わせる様相。

「あれは……何だ!?」
「あれが……デリス・カーラーンだ」
「まさか! あんな所に星が存在できる訳がないわ!」
「その不可能を可能にするのがエターナルソードだ。救いの塔から発せられていた障壁によって隠されていたが、4000年間、常にあの場所に存在していたのだ」

エターナルソードなら、物理法則を無視して星を繋ぎ止めることも容易だろう。
そんな話をしている傍ら、意外な人物がこの場に駆け付けて来る。

「そうです。そして今、ミトスは大いなる実りを持ってデリス・カーラーンごと、この大地を去ろうとしています」
「タバサさん! 元気になったんですね」
「……ええ」

何事も無かったかのような状態のタバサ。でも、タバサが直ったことはともかく、それよりも重大な事態だ。

「ちょっと待ってよ。デリス・カーラーンってのはマナの塊なんだろ。でもって、大いなる実りは大樹の種子なんだよね。どっちも持ってかれたら世界はどうなるのさ?」
「マナ不足で滅びます。確実に」
「世界統合どころの騒ぎじゃないよ!」
「なーに言ってんだお前ら。大事な仲間が攫われたんだぞ! おい、ロイド! どうするんだ!」
「決まってる! ミトスを追いかけるんだ!」
「しかし……救いの塔は……崩壊したのだぞ」

デリス・カーラーンとを繋ぐ救いの塔が無い今、ミトスの元へは向かえず、止めることすらできない。

「エターナルソードだ。お前が真にオリジンと契約を交わしたなら、エターナルソードは必ずお前に応える。その時間と空間とを操る強大な力で……」

エターナルソードの力なら、地上から直接デリス・カーラーンへ移動することはできる。でも、今のままでは使えない。契約の指輪が無くては。

「しかしアルテスタはまだ起き上がれまい。契約の指輪は誰が作るのだ」
「……親父だ!」

この地上で、動けるドワーフは、まだひとりいる。

「ダイクおじさん!?」
「ああ。親父に賭けるしかない。シルヴァラントへ行こう!」

そうと決まれば、すぐに向かわなくては。事態は一刻を争う。

「待て……。私も……行かせてもらう」
「……ああ、分かった」

クラトスも加えて、皆はシルヴァラントへ、イセリアへ急ぐ。

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