エクスフィアの真実
逃げ込んだ先はエクスフィアがコンベアで運ばれている部屋。
とにかく、道なりに部屋の奥へと逃げていく。
そして、そこで、驚くものを見た。
「な……何だ、これは……」
人がコンベアで運ばれ、何かの機械を通すと、そこから出てくるのはコンテナ。
「培養体に埋め込んだエクスフィアを取り出しているのですよ」
追いついたクヴァルの答えに、皆は驚愕に目を見開く。
「まさか、エクスフィアは人の体で作られているの!?」
「少し違いますね。エクスフィアはそのままでは眠っているのです。奴らは人の養分を吸い上げて成長し、目覚めるのですよ。人間牧場はエクスフィア生産のための工場。そうでなければ、何が嬉しくて劣悪種を飼育しますか」
「ひ……酷い」
「酷いだと? 酷いのは君たちだ。我々が大切に育て上げてきたエクスフィアを盗み、使っている君たちこそ、罰せられるべきでしょう」
あくまで人の命を命と思っていない冷酷な物言いだ。
部屋の片隅に追い詰められて、今度こそ完全に逃げ場を失う。
「くそ! 囲まれたか……」
「ロイド。君のエクスフィアはユグドラシル様への捧げ物、返して貰いましょうか」
すかさずリフィルが覚えのない名前を反芻する。
「ユグドラシル……それがあなたたちディザイアンのボスなのね」
「そう。偉大なる指導者ユグドラシル様のため、そして我が功績を示すため、そのエクスフィアが必要なのですよ!」
「またか……俺のエクスフィアは、一体……」
こうもロイドのエクスフィアにディザイアンがこだわる理由が全く分からない。見た目には他と同じに見えるのに。
「それは私が長い時間をかけた研究の成果……。薄汚い培養体の女に持ち去られたままでしたが、ようやく取り戻すことができます」
「ど、どういうことだ? 培養体の女って、まさか……」
ロイドがその言葉に疑念を抱く。いや、薄々分かっていたけど、認めたくなかったのかもしれない。
「……そうか。君は何も知らないのですね。そのエクスフィアは母親である培養体A012、人間名アンナが培養したものです。アンナはそれを持って脱走した。もっとも、その罪を死で贖いましたが……」
「お前が母さんを……!」
ロイドの顔が怒りに染まるが、クヴァルは動じない。
「勘違いしてもらっては困りますね。アンナを殺したのは私ではない。君の父親なのですよ」
「嘘をつくな!」
クヴァルの言葉にロイドは激昂し、喚き叫ぶ。
レイラは内心ぎょっとしていた。父親が、母親を。そんな、あってはならないことが。自分だけでなく、ロイドにも。
「嘘ではありません。要の紋がないままエクスフィアを取り上げられ、アンナは怪物となった。それを、君の父親が殺したのです。愚かだとは思いませんか」
「……死者を愚弄するのはやめろ」
らしくもなく怒りを滲ませたクラトスの言葉に、クヴァルは肩を震わせる。
「くくく……! 所詮は2人とも薄汚い人間。生きている価値のないウジ虫よ」
「……くっ! 父さんと母さんを馬鹿にするな!」
今にもクヴァルに飛びかかりそうなロイドの腕をレイラは咄嗟に掴んで引き止めた。
「何するんだ、レイラ!」
「今、飛び出しても殺されて、エクスフィアも奪われるだけ。落ち着いて」
「でも!」
レイラとて、今ここで剣を抜きたいくらいの気持ちだ。それでもそれを抑えてロイドを止める。そうしなくてはロイドが殺される。
「レイラだと? くくく……これは愉快だ! まさか生きていたとは!」
「えっ……?」
突如クヴァルがレイラを見やったことに戸惑う。
「我々と共に来てもらいましょうか。そのエクスフィアと共に」
レイラは視線を鋭くし、クヴァルを睨みつける。
「……断る、と言えば?」
「力づくでこちらに来てもらうだけです」
ディザイアンにさらに追い詰められていく。
「ここはあたしに任せな!」
そこに、しいなが前に出た。そして懐から1枚の札を取り出し、一目、それを見つめた。
「……おじいちゃん。最後の1枚、使わせてもらうよ」
札を投げつけ、式神を顕現させる。式神の力によって、その場から脱出し、気がつけば牧場の前にいた。
「しいな、ありがと」
「いや、そんなことはいいけどサ。……どうするんだい?」
「一度ルインへ引き上げましょう」
「それがよかろう」
「……うん」
突きつけられた残酷な事実。今彼らに必要なのは、休息だった。