命の欠片
「エクスフィアが、人間の命からできていたなんて……」
「これ、マーブルさんの命なんだ……」
各々、自らが装備していたエクスフィアを見つめる。そこには様々な想いが沸き上がってきた。
「こんなもの……こんなもの!」
エクスフィアを外したロイドが、それを投げ棄てようと腕を振り上げた。
「待って、ロイド。これを取ってどうするの? このエクスフィアはロイドのお母さまの命でもあるんだよ」
その手をコレットが取り押さえる。
「でもこんな、人の命を弄ぶようなもの……」
「しかし、これがなければ、我々はとうに負けていた」
「分かってるよ、そんなの!」
「本当か? 今、エクスフィアを捨てて、この旅を無事に終わらせることができると思っているのか?」
ロイドは振り上げていた腕を下ろした。
「……そうだよ! こいつがなけりゃ、俺たちはただの弱い人間だ。これがあるから戦える。そんなこと分かってる。でも確かにエクスフィアは、誰かの命を喰らってここに存在してるんだ!」
クラトスはそれを諌め続ける。まるで、そのエクスフィアが捨てられることを誰よりも望まない様子で。
「それがどうした。犠牲になった者だって、好きで犠牲になった訳でも、エクスフィアとなった挙げ句、捨てられることを望んだ訳でもないだろう」
「そんなことをしたって、誰も、喜ばない。ただ苦しい想いをするだけ……」
複雑な想いがロイドの中で廻っている。母親がそうなっているから、尚更。
「私、自分がエクスフィアを使っていないから、こんなこと言うのかもしれない。でも聞いて。今、私たちがエクスフィアを捨てれば、ディザイアンに殺されちゃうと思う。そしたら、これからも沢山の人たちが、こんな石に命を奪われるんだよ。私、そんなのいやだよ。何のために世界再生の旅に出たのか、分からないもの」
「コレットの言う通りだ。エクスフィアを捨てることはいつでもできる。しかし今は、エクスフィアの犠牲になった人々の分まで、彼らの想いを背負って戦う必要がある筈だ。お前はもう迷わないのではなかったのか?」
ロイドは思案するが、すぐ顔を歪ませる。
「駄目だ……! 理屈ではわかってるんだよ。でも今は……。頼む。しばらく1人で考えさせてくれ」
そう告げて、離れた場所に行ってしまった。
「……大丈夫。きっと、決めてくれる。ロイドは強いから……」
レイラは、そっとしておくことにした。
そんなロイドに言葉を伝えようとするクラトスをただ見送るだけにし、そのまま、夜を明かすことにした。
*
「さて、どうする?」
翌朝、ロイドの顔は昨夜のような怒りや哀しみがない混ぜになったものではなくなっていた。
「1つだけわかったことがある。
本当は母さんだって、きっともっと生きたかったに違いないってことだ。だから、この左手に宿る母さんの分まで、俺は生きてやる」
その目には、強い想いが宿っている。
「それは、戦うということだな」
「ああ。そしてこの連鎖を断ち切る。母さんやマーブルさんみたいな人を増やさないためにも。コレットの世界再生を手伝う」
「……うん。そうだね。ボクもマーブルさんの分までがんばる」
「私も。私も早く世界を再生する」
ジーニアスとコレットも頷く。リフィルやしいな、レイラも強く前を見据える。
「よく決心したわ、ロイド。人は業が深い生き物。だからこそ、業を背負い続ける覚悟がいるのよ」
「生命は生命を犠牲にする、か。上手く言えないんだけど、エクスフィアを作るために犠牲になった人たちはそれとは違う気がするよ。違うからこそ、余計に許せないんだ」
「何をしても失われた命は戻らない。でも、だからこそ、私たちは戦う。戦わないといけない。彼らのためにも」
ロイドの決意も固まり、レイラは胸のつかえが取れたような気分になった。