下水道

「神子様。残念ですがここをお通しする訳には参りません」
「誠に恐れ多いことながら、神子様とそのお仲間は現在賞金首として追われる立場でございます」

メルトキオの門は堅く閉ざされ、兵が立ち塞がっている。到底入れるとは思えなかった。
そんな中、ゼロスの案内で来た場所というと……

「うわ、ここ何?」
「下水道だよ。街の汚水はここから外に流してるんだ」
「よくこんな侵入口を思いついたな」
「メルトキオは夜になると封鎖されるんでね。よくここから家に帰ったんだ」

ゼロスの言葉に首を傾げたのはコレット。

「どうして夜までに帰らないんですか?」
「……んー、教えて欲しければ今晩ご教授するけど」

その言葉にしいなが顔を赤くして怒り出す。

「ジョークよジョーク。しいなもやきもち焼くなよ〜」
「……ふざけんじゃないよ!」
「どうしたんだろ、しいな」
「大人の話よ」
「最低……」

レイラはこめかみを押さえるしかなかった。何て神子とは思えぬ下品さなのだろう。

「敵の気配、あり。危険です」

プレセアが声をかけると、皆気を引き締めた顔つきとなる。

「ああ、注意していこう」

下水道内は当然、汚水の臭いが酷い。進むにつれ、レイラは不快感を募らせていく。

「ねえ、まだなの?」
「もう少しだからもうちょっとだけ我慢してくれよ〜」
「はあ……」

不意に、殺気と共に数人の男たちに行く手を阻まれる。

「何だ何だぁ?」
「殺気……です」
「……待っていたぞ、シルヴァラントの旅人とやら」
「お前たちを始末すれば、教皇が俺たちの刑を軽減してくれる」
「大人しく消えてもらおう!」

教皇の手の囚人兵たち。当たり前だが大した強さではなく、あっさり退ける。
ゼロスが彼らに詰め寄ろうとした時、

「うわっ!」

思わぬ伏兵に、抑えつけられてしまう。

「動くな……動けば神子から死ぬことになる。それでもいいのか?」

そう言い放つ青い髪の囚人兵は、他の囚人兵とは全く違う。所作に隙がない。

「おいおいおい、神子にこんなことをしていいと思ってるのかぁ?」
「……世界の滅亡を企む者は神子などではない」
「……あっそ。お〜い、ロイドく〜ん! 俺さまを見捨てたら化けて出るぞ〜!」

ゼロスの物言いにロイドが冷めた顔になる。

「……今猛烈に見捨てたくなったぞ」

そんな茶番をよそに、すかさずプレセアが走りより、斧を振りかぶる。囚人兵はそれを避ようと飛び退き、結果的にゼロスは解放された。

「た、助かった〜!」
「…………」

咄嗟に走り戻ってきたゼロスがロイドに抱きつく。抱きつかれたロイドは完全に冷めきった顔だ。
だが囚人兵はそれよりも、プレセアを凝視していた。僅かに目を丸くする。

「お前は……っ!?」

プレセアに気を取られている隙にジーニアスが魔術を放つ。囚人兵はそれを避けるが、流石にこの状況のままではまずいと思ったのか。

「……くっ。一度撤退する」
「……仕方ねぇな。こいつら強すぎる」

囚人兵たちは退いていった。追いかけるのは無駄だろう。

「助かったみてぇだな……」
「うん、良かったね。みんな無事で」
「そうだね。とりあえずはいいのかな」

また、あの男とどこかで会うことになるかもしれない。レイラはそんな予感を抱く。
街はもう目と鼻の先。皆は街中へと歩みを進める。

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