渡る手段
しいなの案内で訪れたのは町の一角に構えている精霊研究所。
「しいな! しいなじゃないか!」
「くちなわ! どうしてここに!」
ミズホの里の者と思わしき男がしいなを見て驚きを見せる。しいなもまた、その人物がここにいるとは思わなかったようだ。
「極秘の任務だ。で、そっちは?」
「ああ、ちょっと厄介なことになってね。仲間と一緒に封鎖された橋を渡りたいんだ」
くちなわが訝しげにこちらを見やる。
「仲間? ミズホの民じゃないな」
「例のシルヴァラントの連中さ。
ロイド、みんな! こいつはミズホの里の仲間、くちなわだ」
「しいなとは幼なじみだ。よろしく」
「よろしくな」
互いに挨拶を交わす。
「あたしは、研究所の連中と話をつけてくるよ」
しいなとくちなわは一足先に地下へと降りて行った。
「俺たちも話を聞きに行こう」
それに皆も続いて行った。
「そんな! 無茶だよ!」
地下に降りてまず聞こえてきたのはしいなの仰天した声。
「どうしたんだ?」
「聞いとくれよ。こいつら、あたしたちにエレメンタルカーゴで海を渡れって言うんだよ」
「はあ!?」
レイラもこれには驚きを隠せなかった。実物は見たことないが、確かそれは陸上を走る乗り物の筈。
「えれめん……何だって?」
幸いレイラの驚きはロイド同様にエレメンタルカーゴが何か分からない、ということで流された。
「エレメンタルカーゴ。通称エレカー。エクスフィアで制御された輸送用の小型乗用車。積載重量は操縦者体重を含めて最大1400kg。最大スピードはエクスフィア搭載型改良竜車の3倍以上。現在は主に、輸送会社による宅配便事業内容に使われている」
「おいおい、俺たちは小包かよ。毎度〜ねこにんマークの宅配便です……ってか?」
「エレメンタルカーゴは空気中のマナから地のマナを取り込んで大地に噴き出すことで反発の力を生み出して推進力にしてるんだ。だからその部分にウンディーネを利用すれば波乗りカーゴの完成ってわけだ」
海を渡ることにリフィルが唸る。
「な……波乗り……」
「それしか方法はないのか」
「橋は封鎖されている。定期船を使うにはあんたたちの身分証明書がない。おまけにハーフエルフが2人もいる」
「……またハーフエルフか」
「テセアラとはそういう国だ。……俺たちだってこの建物から禄に出してもらえない」
テセアラでは、ハーフエルフの迫害が当たり前となり、彼らも不満は抱えながらもそれを受け入れてしまっている。シルヴァラントでは多少当たりが強くとも、ここまで激しくなかったのに。
「どうしてみんな仲良くできないのかな……」
「それは……分からないね」
クルシスでは人間だからと、イセリアでは得体の知れないよそ者だからと蔑みの目を受けてきたが、考えたこともなかった。何故皆、自分とは違う者を差別するかなんて。
「まあまあ。暗くなってもしょうがねぇ。で、その改造エレカーは用意してもらえるのか?」
「一晩待ってくれればこちらで用意しておく」
「お〜け〜お〜け〜。んじゃまー俺さまの屋敷で休もうぜ」
「教皇の手先が待ち構えてやしないだろうね」
「どっちにしてもこの街で一晩過ごさなきゃならないんだ。危険はどこにいても同じだよ」
「それもそうだね」
ゼロスの屋敷なら宿屋よりは幾分か安全だろう。
メルトキオの上流区に構えてあるそこまで向かうこととなった。