古の技術と秘密
「ねえ、クラトスさんって知ってる? 最近よくこの街に来るんだけど、ちょっと影があって素敵なのよ」
「知ってる。この前見たけどかっこよかったわ」
サイバックの学生たちの話を小耳に挟んで、ロイドたちは足を止めた。
「クラトスだと!」
「ちょっと、ロイド……」
クラトスの名前を聞いてロイドが学生たちの話に割り込む。
学生たちも驚く。
「な、なに怒ってるの?」
「分かった。あの人が格好いい上に王立研究院のエリートだから妬いてるんでしょ」
学生たちの勘違いにロイドも唸る。
「あいつは王立研究院の人間なんかじゃないぞ」
「嘘よ。あの人、しょっちゅう王立研究院に出入りしてるもの」
今度は学生たちが驚く。
コレットとレイラは顔を見合わせた。
「おかしいね」
「うん。どういうこと……?」
クラトスと王立研究院。いまいち結びつかない。
「ちょっと調べてみる?」
「そうだな」
ロイドも気になるようだ。
王立研究院に出入りしているならば、ケイトが何か知っているだろう。話を聞きに地下室に再び戻った。
「なあ、最近クラトスって言うちょっとスカした男がここに来てないか?」
ケイトはすぐに思い当たったようで、すぐに答えが返ってきた。
「ああ、あのちょっと素敵な人ね。ええ、来てるわよ。何でも、ドワーフ族がよく使ったというアダマンタイトを捜しているとか……」
「アダマンタイト? 細工物の研磨に使う屑ダイヤのことか?」
ロイドもダイクから聞いたことがあるようだ。珍しく記憶していたくらいには興味を引かれる代物だったようだ。
「実はそのクラトスという人がここで精製したという話を伝え聞いているわ」
「まさか!?」
リフィルをはじめ、レイラたちも耳を疑う。
「ここには古代大戦の頃、アダマンタイトを精製したという魔科学の機械が残っているの。もう動かないと聞いていたけど、クラトスという人はそれを修復してアダマンタイトらしき物を作り上げたと聞いているわ。上ではもう大変な騒ぎよ」
「アダマンタイトなんて何に使うんだ」
「それは何かを細工するんでしょうけれど……」
「だとしても、アダマンタイトが必要になる代物なんて……」
古代の細工物を作ろう、などとでも言うのだろうか。何かの冗談にしか聞こえない。
「あいつは何を考えてるんだ……」
これ以上調べることもできなさそうで、この話はこれでおしまいだ。
クラトスの行動の意味が見えなくて、疑問はただただ増えていくばかりだ。