悲劇の少女

「……あなたたち!」

地下室に行き、そこにいる人の中のひとりが、ロイドたちを見つけて目を丸くした。

「約束通り、仲間を助けてプレセアを連れてきた」

ケイトはリフィルとジーニアスをしばらく見つめ、やがて確信を持って頷いた。

「……ええ、間違いないわ。エルフの血と人間の血が融合した、この不思議なマナ。ハーフエルフが仲間だっていうのは本当だったのね」
「話は聞いてよ。プレセアはクルシスの輝石を体内で作らされているとか?」
「ええ、そうよ。私たちはエンジェルス計画と呼んでいるわ」
「エンジェルス計画……!?」

その名前を聞いて、レイラの心臓が跳ね上がった。
普通のエクスフィアからクルシスの輝石を作り出す計画。デリス・カーラーンの天使たちの噂話から、ディザイアンの中でレイラをエンジェルス計画の実験体に使おうという動きがあったことはそれとなく知っていた。その話を小耳に挟んだ際に、その存在を知ったのだ。
結局いつの間にかそれは白紙になって、レイラは何もされないままここにいるけれど。
ディザイアンのいないこのテセアラにどうしてその名前が伝わっているのか。

「俺の……母さんが関わってた計画と同じだ」

そして何より、ロイドの母親が死ぬ元凶となった計画。
プレセアはその恐怖が刻み込まれているのか、ケイトが近寄るとひっぱたき、距離を取って俯いた。

「あのエクスフィア自体は珍しい物ではないの。ただ要の紋に特殊な仕掛けがしてあって、本来なら数日で行われるエクスフィアの寄生行動を数十年単位に延ばしているの。それでエクスフィアはクルシスの輝石に突然変異することがあるらしいわ」
「まさか……プレセアの感情反応が極端に薄いのは、エクスフィアの寄生が始まっているからなの?」
「それじゃあ以前のコレットと同じだよ」

天使たちと同じに見えたプレセアの様子は、ある意味当たりとも言えたのだ。

「このままプレセアを放っておいたらどうなってしまうんですか?」
「寄生が終わると後は……死んでしまう」
「そんなの酷いよ! 助けてあげてよ! プレセアが一体何をしたって言うのさ!」
「……何も。何もしていないわ。ただ、適合検査に合っていただけ」

それだけのことで、プレセアはこのような目に遭ってしまっているのか。彼女自身に罪はないのに。

「……約束だ。プレセアを助けてくれるな」
「……ええ。分かってる。あなたたちはハーフエルフを差別しなかった」
「ケイト! いいのか! そんなことをしたらお前が……」

このことがバレてしまえば、ケイトは無事ではいられないだろう。別の研究員が止める。

「約束は約束よ。プレセアを助けるためには、ガオラキアの森の奥に住んでいる、アルテスタというドワーフを訪ねるといいわ」
「この世界にもドワーフがいるのか!」
「ええ。彼と私たちは教皇に命じられてこの研究に関わっているの」
「やっぱりあのヒヒじじいの差し金かよ」

ゼロスが吐き捨てば、ケイトがゼロスをきっと睨む。

「……ヒヒじじいなんて言わないで!」
「おっと、ハーフエルフが教皇の肩を持つとは珍しいな」

ゼロスの言い草にケイトが激昂するケイトの目は、何となく、レイラにも心当たりがある気がした。どんな目に遭っても、どうしても憎めない存在を想う時の目。
でも、教皇はハーフエルフを差別する法を自ら作った人物の筈。それなのにどうして、あのような目をするのだろう。

「……別に、肩なんて持ってないわ。
とにかく、彼女の要の紋をアルテスタに修理してもらって」
「ロイドじゃ直せないの?」

ロイドはこれまで、いくつもの要の紋のメンテナンスをしてきていた。
ロイドも何かできないかとプレセアの要の紋を見るが、首を横に振った。

「……正直言って、普通の要の紋とどこが違うのかわからねぇや。そのアルテスタってドワーフを捜した方が早そうだな」
「じゃあ話は決まりだね。ガオラキアの森に向かおうか?」
「そうだな。それにしても……まさか教皇とディザイアンたちは繋がってるのか?」
「……そうね。気になるわ」

何故このテセアラでエンジェルス計画の、その名前を聞くことになったのか、真相は、全く見当がつかない。

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