足技の囚人
歩いていたら、レイラの耳に足音と鎧の音が聞こえてきた。
コレットも同時に足を止めて、不安げに告げる。
「何か……遠くから足音が聞こえる……」
「俺さまには、何も聞こえないけどなぁ」
「コレットは、天使としての聴覚機能をまだ持っているのね」
ゼロスは訝しげ、リフィルは感心する。
「……やっぱり足音です。あと鎧の音。たくさんいるみたい。あっちから聞こえるよ」
コレットが指差す方向は皆の行こうとしていた方向だ。
「まずいな、あっちはアルテスタが住んでる方だ。まさか、さっきの連中の仲間か?」
「多分、そうだろうね……」
木々に阻まれて、目を凝らしても確認できない。でも音は確実にこちらに近付いている。
「コリンを偵察に向かわせるよ」
呼び出されたコリンは即座に向かっていった。
その直後、木の上から誰かが降りてきた。
「こいつ、メルトキオの下水道にいた奴だ!」
下水道で会った囚人兵。今回はたった1人のようだ。
「次から次へと教皇の奴! そんなに俺さまが邪魔かっつーの」
「私はお前達と戦うつもりはない。その娘と話がしたいだけだ」
囚人兵はプレセアを見てそう言う。
「プレセアと?」
「冗談じゃない! ボクらの命を狙ってたくせに」
「他の者たちは知らないが、少なくとも私はお前達の命など狙っていない。私が命じられたのは、コレットという娘の回収だ」
コレットが首を傾げる。
「……私?」
「……あの時は、ゼロスを人質にコレットを連れていこうとしていた、ということ?」
言われてみれば、この男は直接の攻撃はしてこなかったが。
「今はお前達に危害を加えぬ。プレセア……と言ったか? その娘と話をさせてくれ」
プレセアの胸元で光るエクスフィアを見た途端、男の様子が剣呑なものになる。
「エクスフィア!? お前も被害者なのか!」
プレセアのエクスフィアに手を伸ばそうとして、プレセアが手を払い、暴れだす。
「プレセアが危ない!」
「何が何だか分からねぇけど、とりあえずあの男を止めよう!」
こちらの敵意に気付いた男が応戦すべく構えた。
「天月旋!」
両手を手枷で制限しているが、代わりの足技はかなりのものだ。
「鷹爪蹴撃!」
「わっ!」
空中から急降下してきて、レイラは思わず飛び退く。
「魔神剣・双牙!」
負けじと距離をとって攻撃を加える。
「秋沙雨!」
「ピコピコハンマー!」
その後の攻撃で、男は気を失った。
「……ちょっと不憫かも」
仕掛けたのはこちらなのもあり、少しだけ男に同情した。
「どうやら事情がありそうね。捕虜にしたらどうかしら。色々話も聞けそうだわ」
倒れた男を見ながらリフィルが提案した。
その時、コリンが戻ってきた。慌てた様子だ。
「しいな! たくさん兵士がいた。みんなこっちに向かってる。急いで逃げて!」
「コレットの耳は正確だね」
「うん……足音、どんどん大きくなってる」
こうしてる間にも、教皇騎士団は確実に迫ってきている。
「まずいんじゃねえのか?」
「でも、このまま戻ったって教皇騎士団がいるだろ」
逃げようにも八方塞がりだ。
「……仕方ない、ミズホの里に案内するよ」
しいなが提案する。
「おいおいおい、しいな。ミズホの里は外部に秘密の隠れ里なんだろ?」
「だけど、このままじゃ挟み撃ちだよ。里に逃げ込むしかないだろ」
「そうだな。頼むよ、しいな」
「じゃあ、ゼロス。そのでっかい男を運んどくれ」
ゼロスが目を丸くしながら、男を持ち上げようとする。
「俺さまが!? こんな大男、俺さま1人で運べるかっつーの!」
当然、持ち上がらない。
「私、手伝うね。ゼロス1人じゃ大変だもの」
「コレットちゃんは優しいな〜、同じ神子同士だもんな〜」
「うん、そうだよね」
コレットは徐に、男を片腕で軽々と持ち上げた。
男たちがそれに驚く。
「思ったより軽いみたい〜。私1人でだいじょぶだよ」
「はは……そう……」
「昨今の男性ときたら……嘆かわしいこと」
「ほんと、だらしない……」
リフィルとレイラは呆れてしまった。
「ほら、とっとと行くよ!」
しいなの先導の元、ミズホの里へと進路を変えて向かった。