心を無くした少女

長いこと――それも十数年という単位でろくな掃除もされてないようで、木くずや埃は床に大量に溜まり、蜘蛛の巣が張っている。家具も壊れたまま修繕されていない。
そんな異様な部屋の中プレセアは淡々と作業をしている。

「……この臭い……」

隣室に入ってすぐ、異常な臭いが鼻についた。肉か何かが腐ったような――

「あれ……っ!」

ベッドの1つが膨らんでいる。プレセアはそこに眠る人を看病している様子だ。
リフィルがそれを覗き込む。そして――

「……なっ……なんてこと……」

異臭の原因はつまり――

「おいおいおい。シャレになんねーぞ」
「どうしてこんなことに」

皆、この場で何が起きているのか察した。誰もが顔を引き攣らせ、プレセアを見やる。

「おそらく、エクスフィアの寄生のためよ。あのベッドの中の人間がどうなっているのか、プレセアには分からないのね」
「そんな……」

心を無くして、異様な家に違和感を抱くことも、家族がどうなっているか分かることもできない。なんて、酷なことだろう。

「プレセア。一緒に来ないのか?」
「仕事……しないといけないから……」

一緒にいる間は帰ることだけに、そして今は仕事だけに固執するプレセア。

「……プレセアは置いていきましょう」
「こんなところにか!?」
「今のままではまた彼女が暴れるだけよ。私たちだけでアルテスタの所へ行って、要の紋の修理について聞いてきましょう」
「……そうだな」

抵抗がない訳ではない。でもそうするしかない。
死臭の中、プレセアを置いて家を出る。置き去りにされることにもプレセアは何の感慨も抱いていなかった。

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