心を戻す手がかり

アルテスタの家に行けば、少し奇妙な雰囲気の少女が出迎えてくれた。

「どちらサまでスか?」
「あの、ここにドワーフが住んでいると聞いたんですけど会えますか?」
「マスターアルテスタへご面会でスね。どうゾ」

少女がアルテスタのいる部屋へ案内してくれた。
ロイドたちの姿を見たアルテスタは眉を顰めた。

「何じゃ、お前たちは」
「俺、ロイドって言います。サイバックのケイトから教えてもらって、プレセアのことで来ました」

プレセアの名前を耳にした途端、アルテスタは剣呑なのに様子になる。

「……帰れ!」
「え?」
「あの子のことはもうたくさんじゃ! 出ていってくれ!」

部屋から追い出されてしまった。
ロイドが納得いかないように複雑な表情をしていると、少女が申し訳なさそうに出てきた。

「何なんだよ!」
「スみまセん。マスターはプレセアサんに関わるのを嫌がっておられるのでス」
「そんなぁ! じゃあプレセアが死んじゃってもいいっていうの!」
「ソうではないのでス。マスターは後悔シているのでス」
「だったらプレセアを助けてください。要の紋さえどうにかすれば助かるんでしょう?」

頼み込んでも、少女は首を横に振るだけだった。

「……ソれが本当に彼女のためになるのか私には分からないのでスが」
「どうして! 死ぬとわかっていて、あんな酷い暮らしまでしててそれがいいことなもんか」

レイラは、少女の言い分が理解できる気がした。

「……長い間世界から切り離されていた人が、突然世界に放り出された時、どんな気持ちになると思う?」
「え?」
「……プレセアを正気に戻すということは、かえって彼女に辛い思いをさせるだけかもしれない……」
「レイラ……?」
「でも、だからといってあのままにしておくことが1番いいなんてことはない……」

何が最善かは全く分からないけど、少なくともあのままにしておくことではない。
少女は、こちらが本気なのを汲み取ってくれたのか、どうすればいいのか教えてくれた。

「ソうおっシゃるのなら抑制鉱石を探スといいでス」
「プレセアの要の紋は抑制鉱石じゃないのか?」
「はい。あれは……」

少女の言葉はアルテスタの怒鳴り声で遮られた。

「タバサ! 何をしている! 奴らを追い返せ!」

タバサは慌てたように振り返る。

「スみまセん、戻らないと! また今度来てくだサい。アルテスタサまを説得シてみまスから」

手がかりは掴めたのだ。これ以上留まってタバサに迷惑をかける訳にもいかない。素直に家から出て行った。

「抑制鉱石ってどこにあるの?」

リーガルがその疑問に答えてくれた。

「アルタミラからユミルの森へ向けて斜めに続く1連の鉱山地帯で採れる……と聞いた。もしもプレセアに要の紋を作ってやるのなら協力させてほしい。私はお前たちを鉱山に案内できる」
「あんた、プレセアとどういう関係なんだ」
「関係は……ない」
「その割には随分と気にしているようね」
「まあいいさ。今までだって別に不審なことはなかったんだ。このまま一緒に来ればいいよ」

ロイドはリーガルを信用することに決めたようだ。

「抑制鉱石はエクスフィア鉱山の比較的表層で採掘される。私が知っている鉱山はここから海を越えた南の大陸だ」
「アルタミラの方って言ってたな。いいなあ、アルタミラ! ついでにアルタミラにも寄ろうぜ!」
「あんなちゃらちゃらしたリゾートに寄り道してる暇はないよ」

しいなにゼロスが怒られてる傍ら、リフィルが心なしか虚ろな顔付きになる。

「海……また海なのね」

そんなリフィルにロイドたちはどこ吹く風、だ。

「よし。じゃあ鉱山に向かおうぜ!」
「そうだね。急ごう」

「なあレイラ、さっきの話のことなんだけど……」
「……ただのたとえ話だよ。忘れて」
「え、レイラ?」

初めてシルヴァラントに降り立ったあの日、あの空気を感じた時の気持ちなんて、知る必要はないのだ。レイラはそれを話すことは後にも先にもないだろう、と思った。

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