出会い 3

記憶喪失。リフィルの出した結論がそれであった。

「私は医者ではないからあまり詳しいことは言えないけど……恐らく、傷の後遺症か、何か強い精神的なショックがあったのでしょうね。原因が分からない以上手の施しようがないわ」

最初こそ戸惑ったものの、落ち着いてくればレイラは存外冷静であった。

「何か持っていたものに身分が分かるものでもあれば……」
「残念だけど……」

リフィルが差し出したのは真新しい荷物袋。

「失礼を承知で、中身を見せてもらったわ。めぼしいものは何もなかったわ」

その言葉を確認するためレイラは袋を開く。
中にあるのはグミやボトル、食料などで、レイラが期待したようなものはなかった。

「それと、この剣だけど……どこにでもあるようなありふれた品ね。手がかりにはなり得ないわ」

手がかりは一切なし。

「……旅をしていたか、傭兵か何かをやっていたか……分かるのは私が剣士であることだけ……」

ここまで何もないと流石に落胆するしかない。

どこから来たのかも分からないよそ者を村に置くことに村長などはいい顔をしなかった。だが、行くあてもなく、怪我も治りきっていない少女を放り出す訳にもいかない。療養という名目でレイラはイセリアに留まることとなった。寝床として空き家に場所を移し、レイラの療養は始まった。
まだ子供なのにこのような目に遭ったレイラに村の人達は世話を焼いてくれた。だが、得体の知れないレイラから距離を取る者も少なくない。
そんな中で、ロイド、コレット、ジーニアスの3人の子たちは学校が終われば毎日つきっきりでいた。

「それでロイドが適当に答えて、姉さん、カンカンでさ」
「宿題、俺だけたくさん出されちまった」
「ふぅん」
「頼むから手伝ってくれよ〜」

宿題が片付かなくて泣きつくロイド。レイラからしたら量こそ多いが問題自体は大したことないように見えるが……

「手伝うことないからね。ロイドの自業自得なんだから」
「ねえ、ここの解き方がよく分からないのだけど……」

コレットがやっている問題を覗いてみる。こちらはロイドのものよりかは難易度の高いものだ。

「それは……これを移項して……」
「違うよ。そこは……」

レイラの傍で宿題をやることは日常茶飯事。
レイラも時折見てやるが数学がおぼつかない。とはいえ村の子たちに比べれば頭のいいレイラがこのままでいるのはジーニアスには勿体無いと感じている。

「いっそレイラも学校に通う? 姉さんも喜んで教えてくれるよ」
「それもいいけど……私がいること、村長とかにとってよくないみたいだから、怪我が治れば出ていくことになるかな」
「そんなのダメ! 私がおばあさまたちと一緒にお願いしてみるから!」
「ありがとう、コレット」

微かに笑みを浮かべるレイラ。小さな表情の変化に注目してみるとレイラは案外感情豊かなことに3人は密かに気付いていた。そしてそれは、3人の中の暗黙の了解と化しているのであった。

これが、全てを忘れた少女の始まり――

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