少女のきっかけ 1
「あんなに衰弱していたのに、もうすっかり治ったようね」
レイラの具合を看ていたリフィルがもう大丈夫、と診断する。
「予想より断然早いわ」
「きっと体が丈夫なんです」
レイラは適当にごまかす。治りが早いのは左手にある宝石――エクスフィアのおかげだ。エクスフィアのことをむやみに話して波風立たせても仕方ないため、ただの飾りということにしている。
ようやくベッドの住民から解放され、レイラは久方ぶりの外の空気を満喫していた。
「大体1か月ぶりくらいか。お日様に当たるのも」
感慨深いものを感じながら大きく伸びをする。
「さて……自分の腕前を確かめないと、出ていくにしてもどこにも行けない」
自分が持っていた剣を取り村の外れへ向かう。手入れは時折ロイドがやってくれていてばっちりだ。
「はっ! ……それっ!」
村の外れで剣の素振りをする。
剣の使い方などは体が覚えているようだ。きっと相当厳しい鍛錬の元叩き込んであったのだろう。
「はあ……はあ……」
が、感覚はわかっても体がついていかない。長らくベッドの上で過ごしていたことによる衰えは避けられない。
「……とりあえず、体力つけないと」
剣を鞘に収め、少し安定しない足取りで元いた空家へ戻ろうと歩き出す。
そこにコレットが駆け寄り、レイラを引き止める。
「少しお散歩しよ? 今日はお天気もいいから森の中とか、気持ちいいよ?」
「うん……いいけど……」
水を飲み軽く休憩した後、コレットはレイラを連れて森の中へ入っていった。
「何だか、不思議な感じ……」
森の密度はそう高くなく、木々の隙間から木漏れ日がよく入ってくる。空気も澄んでいて、気分が落ち着くようだ。
「魔物はいるけど小さいし、ホーリィボトルも持ってきてるからだいじょぶだよ」
普段はおっとりしているコレットだがその実しっかり考えており、魔物についても彼女なりに対策していた。
「山道をまっすぐ行くとロイドのおうちに行けるんだよ」
「確か、ドワーフのダイクさん、だっけ。ロイドのお父さん」
「うん。とってもいい人なの」
ロイドを見ればどんな人柄なのかは自ずと見えてくる。
「会ってみたいな」
「今度皆で遊びに行こっか」
コレットはレイラが村にずっといてくれると心から思っているようだ。だが村の人から奇異の目で見られ、怪我も治った以上村に留まる理由はない。
歩き続けながら、レイラは複雑な面持ちになる。
「この森の雰囲気は好きなのに……何だか、ここにはあまり近づきたくない……」
「えっ?」
「……よく分からないけど……この森で何かあったのか……」
「そういえば、レイラはこの森の中で倒れていたんだよね……」
レイラの気分はよくなく、コレットもそんな彼女に気を取られていて気づかなかった。
魔物が、2人を虎視眈々と狙っていることに。
「きゃっ!」
「コレット!?」
コレットに襲いかかったのは虫型の魔物。大した強さでないが毒を持っている。幸いコレットは毒を受けなかったが。
「下がって! ていやっ!」
レイラは剣を抜き応戦する。
頭のイメージと実際の動きの乖離に悪戦苦闘しつつも魔物を退けること自体は問題なかった。
「ごめんね、私のせいで……」
「コレットのせいじゃない。私がもっとしっかりしていたら……」
ホーリーボトルを撒き直し、帰る道を辿っていく。
「神子さま! お怪我は平気ですか!」
「だいじょぶです。転んで擦りむいたくらいに軽いものですから」
コレットが受けた怪我は軽いものだが、再生の神子に大事があってはならないもの。コレットがいくら弁明してもその責任は一緒にいたレイラに負わされた。
「レイラは私を守ってくれたのに、みんなレイラにばっかり怒るんだ……」
「何でだよ。別にあいつは悪くないじゃん」
翌日、塞ぎ込んでいるコレットからその理由を聞いたロイドは憤慨したのであった。