喪失 4
仕事もひと段落つき、ミリアは少し長めの休暇を取れた。それを利用し、かつてキルヴァスだった島に来ていた。
「……こんなに過ごしにくい場所だったんだな」
セリノスの快適な環境に慣れると、生まれ育った地なのに随分厳しい環境に感じた。
目的の物に辿り着き、そこに佇む。
「……ネサラ」
そこにはかの人はいない。あるのは、彼が身に付けていた耳飾りだけ。
「お前とは、生まれた時からずっと一緒で……死ぬ時も一緒だと思っていたのに、先に逝かれてしまうなんてな。本当なら、今すぐにでも追いかけたいくらいだ」
ミリアの言葉を咎めるように、突風が突き抜ける。
「……大丈夫、本当に追いかけたりはしない。何せこれからなんだから。今死ぬなんて勿体無い」
目元が、じわりと熱くなる。
「……何人もの民たちを見送ったのに、お前ひとりいなくなるだけで、私は壊れた」
頬を、雫が伝う。
「……それだけ、大切だった。唯一無二だった」
声が震える。
「……こんなこと、今更気付きたくなかった……」
膝をつき、俯く。
「どうして、今までのように、当たり前に、傍にいてくれないんだ……」
当たり前のことに、気付いてしまうのがこんなに苦しいなんて、知りたくもなかった。
涙も落ち着いた。目元はきっと酷いことになってるだろうけど、構わない。ここには、誰もいないのだから。
「……さようなら、ネサラ」
ミリアは墓標に背を向け、この地から飛び立ち去って行った。次にここに来るのは、天寿を全うした後。