子守 1
「よし、よし……」
泣き叫ぶ赤子を抱き上げ、揺りかごのようにゆったりと揺らしあやす。
それでも泣き止まなくて、ミリアの方もつられて半泣きになる
「泣き止まない……どうしよう、ニアルチ」
「お、落ち着きなされ。おしめは汚れていませんな?」
「……大丈夫だ」
「なら、お腹を空かせておられるのでしょう」
ニアルチがてきぱきと哺乳瓶にミルクを入れる。
ミリアが受け取り、赤子に飲ませようとするが、上手くいかない。
「あぁミリア嬢様、そうではなく……」
ニアルチに指摘されるが、どうも要領よくいかない。
「ニアルチ……」
「そのような眼差しをなさっても、爺めにはどうしようもできませんぞ」
傍らで補助はするが、あくまで世話するのはミリアという姿勢を決して崩さない。
本当に泣きそうになりながらどうにか飲ませてやる。とんとん、と背中を叩いて、げっぷさせたら、また揺りかごに戻してやる。
「……はぁ、可愛いんだがな……」
何事もなかったように眠る、白翼と黒翼の双子を眺める。この世の何よりも大切な2人の子供。世話は大変だが、愛おしくないはずがない。
*
「……私に子守なんて無理だったんだー!!」
「……って、俺たちに泣きつかれても困るんだけどよ」
「……仕事を決して放棄しない、と王に誓っただろう……」
「確かに誓った、誓ったが! 子守をさせられるなんて思わなかった! 想定外だ!」
ヤナフとウルキに気分転換に、と飲みに誘われて乗ったはいいが、酔いのせいかミリアは泣き叫びだしてしまう。流石の2人も同情はするが、だからと言っても困ってしまう。
「ただでさえ体力を奪われる出産を鷺の民の身で行ったから、体力が戻るまで絶対安静……その間の世話役が必要なのはよく分かっている……分かっているんだ……」
突っ伏してぶつぶつと、自分に言い聞かせるようにぼやく。分かっている。仕方がないこと。
「だが、わざわざ私がやる必要はないだろう! 乳母でもない私が、どうしてこんな!」
ミリアから乳は出ない。せめて乳母として、なら収まるべき役割に収まっているのに。
起き上がって叫んだと思ったらまた突っ伏して、泣き出す。
「と言ってもな……爺さんだってお前らを育ててやったんだろ。そういう文句は通じないと思うんだけどよ」
「だったらニアルチがやればいい! どうせ長生きするんだからあの爺さん、先がないとか大嘘だ!」
どうして私が、などとまたぶつぶつと愚痴る。
ふと、部屋の扉が開く。ウルキは元から足音が聞こえていたのか特に意に介していない。ヤナフは扉へと目を向ける。
「おいおい、丸聞こえだぞ。お前が赤ん坊みたいに泣いてどうする」
「あっ王。こいつ、子守が嫌みたいで」
半ば呆れながらティバーンが入ってくる。
「大体聞こえてたから分かってる。いいかミリア」
突っ伏した態勢はそのままに、ティバーンを恨めしそうに見やるミリアにため息が出てくる。
「ネサラもリアーネも、お前だからあいつらを任せられるんだ。爺さんがいくら死んでも死ななそうと言っても限界がある。不慣れでも、お前が一番信じられる」
いつの間にか、先程までの狂乱はなりを潜めていた。ティバーンの言う事は何だかんだで素直に聞き入れる所は子供の頃から変わってない。
「ま、お前は要領はいいんだ。じっくり慣らしていけばいい」
ぽん、と頭に手を置けば、少し嬉しそうに頬を染め、こくり、と頷く。
「よしよし、素直な奴だ」
そのままわしわしと撫でると、ミリアは嫌そうな声を上げる。
「かみ……やめろ……」
そのまま、酔いと泣き疲れと安心が押し寄せたのか、寝息をたてる。
ようやく嵐が去ったかのように、ヤナフとウルキは息をついた。