3
「相馬紅河。よろしく」
何を思ったのか険しい表情から一転して笑顔になった彼女はそう言って手を差し出して来た。
▽▼▽
「それで、何で貴方達は夏目に引っ付いているの?学校まで来ていたでしょう」
私が冷ややかにそう言うと、妖達は2人同時にぎゃーぎゃーと喚きだした。
この妖達はどうやら八ツ原の方で遊んで面白おかしく暮らしているらしいのだが、最近やって来たという強力な霊波を放つという人間のせいで低級たちも困っているとか。
そこで妖力の高い夏目に頼みに来たらしい。
「叶え屋は最近願いを聞かなくなったという噂もあり…友人帳の夏目様にならとお力を借りに来たのです」
「友人帳…?」
何となく聞き覚えのあるその言葉。
それを反復して言うと夏目がぎょっという表情で私の肩を勢いよく掴んだ。
「相馬、友人帳を知っているのか?」
「いつだったか、願いを叶えた代わりに秘密をもらった時にね、」
『友人帳のレイコをご存知ですか?私はあの者に名前を託したのですが…中々呼ばれないのです』
何度もその妖は、つまらぬやら退屈だやら、とても寂しそうに、それでいて楽しそうにその話をしていたのを妙に覚えている。
当時の私はそれをとても羨ましいと思った。
ふと顔を夏目の方に向けると、また切ないあの顔をしていた。心臓を押し潰すようなあの顔。
「…何か不味いことでも言ったかな?」
「いや…レイコは俺の祖母なんだ。友人帳は今俺が譲り受けている」
そう言って、夏目は友人帳に預かった名前を今妖達に返しているということも話してくれた。
何となく、妖の本当の名前を縛るのは駄目だという話を聞いたことがあるのでこれはきっと秘密にしなければいけない話なのだろう。
そんな話を初対面の私にしてくれた夏目は多少なりとも私を信頼してくれているのか、それとも私同様仲間意識からだろうか。それはわからないが、何だか擽ったい気持ちになった。
今思えば、妖に対価で秘密を聞いたのも、相手に秘密を話してもらえるのは何だか信頼されていると感じられて、それに浸りたかったという意味もあった気がする。
next