はじめまして
カナエが死んだ。案外同期の死というものは心にくるようで、さすがの自分でも胡蝶に会いたいという意思はおろか、会おうという考えはできなかった。
そのおかげで一週間ぶりに蝶屋敷にきたはいいが、変に緊張してしまっている。
任務中に負った背中の傷は大して深いものでは無いが、痛覚がやたらと刺激されて歩く度に刺されるような感覚が襲ってくる。
胡蝶はこの一週間、どうしていたのだろうか。
あいつ、カナエのこと大好きだからなあ。泣いて、目を腫らしたままなんじゃないか。
そういうことばかりが無駄に頭に浮かんでは消えていく。軽く見えるかもしれないが、俺は俺で彼女の死で気がおかしくなっているのだ。許してほしい。
意を決して蝶屋敷の戸を叩く。
いつも通りに、軽い口調で、声は震えないように。
「胡蝶〜」
元気?
元気なはずないじゃないですか。
よし、これでいこう。このやり取りができたらきっと少しは前を向ける。強引に目の前を見据えて声を出した。悲しいことに、その考えは打ち砕かれることになるのだが。
「こんにちは」
穏やかな声。一週間前とは似ても似つかない、カナエのような優しい声色だった。
「お疲れ様です」
ああ、
「お久しぶりですね」
きみも死んだのか。
それに気づいた瞬間、涙が出そうになって、目を細めた。心臓を取り巻いていた楔は毒に変わり、左心房から身体中へと麻痺を広げる。
「やっほ、元気?」
「はい、おかげさまで」
胡蝶は微笑んだ。美しい笑みだった。
痺れ出した唇はもうほとんど動かなくなっていた。
「なんで泣いているんですか?」とこちらへ問う彼女への返事もろくに出来ず、ただ背中の痛みだけが俺を生かしていた。