ジーザスとルーナを迎えてくれたのはクラウンの司令、陣川鼎だった。意外だったのは司令が若い女性であったこと、そしてここまでフランクに話していることだった。
「アンタが…クラウンの司令、なのか?」
「ええ。ロギアから話は聞いてるよ、ジーザス・オズボーン君。それと…ルーナ・グレイシアちゃん。どうやら大変なことに巻き込まれてしまったようね」
そう言うと鼎はデスクに広げた書類を見つめる。そこにはジーザスやルーナのことが書かれているようだ。
「ルーナちゃんは自分の意思でジーザス君に着いて行ったのに…どうやらそれを利用してオズボーンファミリーの誘拐に仕立て上げた人物が居るみたいだね」
「そこまでご存知なんですか…」
「ウチね、世界中に支部があって色々と情報が入ってくるの。しかも、ルーナちゃんが
氷麗の体質者だってわかったから、余計に知っておかなくちゃってね。あ、アタシも体質者だから、安心して」
「えっ、そうなんですか?」
「うん。アタシの能力は『
予言』。不規則だけど、近い未来に起きることがわかるんだよ」
「す、すごっ…」
予言なんていうミステリアスな能力が実在していたのか。驚くジーザスとルーナにニコリと笑いかける鼎。体質者が司令というのはやはりクラウンという組織は只者ではないようだ。
「あの…クラウンって一体どんな組織なんですか?わたしが体質者であったことと…何か関係があるんですか?」
「そうね。まずはクラウンについて教えておかなきゃいけない。あ、座って座って。説明するからさ」
鼎はジーザスとルーナを部屋の中のソファーに座るよう促す。ロギアはいつの間にか人数分のお茶を用意していて、ソファーの前のデスクに並べていく。色と香りからして緑茶のようだ。
「とりあえず。こっちの二人も紹介しておくね。えっと、この眼帯の方はガイスト・スタウロス。クラウンの全部隊を統括する『総隊長』。で、こっちは
陣川冬一。副司令で、アタシの兄です」
「えっ、お兄さん…なんですか?」
「まあな」
陣川冬一…顎髭の男は煙草を吸いながら、何故かルーナの顔をあまり見ずに答えた。
「ごめんねー、兄さん、女嫌いなんだ。でも悪気はないから」
「えっ」
「オイ、鼎!余計なこと言うな!」
鼎の明るい口調ながら意外に衝撃的な発言にルーナは驚き、冬一は鼎を咎める。女嫌い、とはどういうことなのか。
「コイツはよ、今まで星の数ほどの女が告白してきても全部突っ撥ねるし、女遊びも一切しない。むしろ女に近付こうとしねぇのさ」
「ガイスト、テメェまで!別に…すべての女が嫌いって訳じゃねえさ。昔嫌な思い出があっただけだ」
くつくつと低く笑う赤髪の男、ガイストにも怒鳴る冬一。どうやら一種の身内ネタのようだ。だが、確かに冬一はルーナと少し距離を取っているように感じた。本当に女嫌い…むしろ苦手、なのだろうか。
「ま。兄さん弄りは楽しいけど置いといて」
「オイ!」
「…改めて。能力統制情報管理協会トリニティ・クラウンについて説明するわね。ウチの組織は何百年も前から存在してる、『体質者の保護と、能力者の起こす事件・事故の捜査』を目的とした特殊機関。世界中で起きる体質者や魔物に関するあらゆる事案を管理しているの」
「魔物の事案まで…」
ジーザスが呟くと、途中から冬一が入り、鼎の言葉の続きを言った。
「…魔物ってのは、動物が死んだ後に転生したり、物体に人間の邪念が宿ったりして生まれる魔性の生き物だ。人間を襲うこともあるし、並大抵じゃ手出しできねえような奴もいる。そういった魔物退治も請け負ってるぜ」
魔物退治ならジーザスも経験したことはある。それにバレリアスのハザードのもとへ向かう時、狼の魔物を蹴散らした。確かに並の人間では驚異的な存在だろう。鼎は苦笑いしつつ続ける。
「まあそういった魔物退治とかもあるし、事件の捜査とかもあるし、仕事が山程あってね。それで、クラウンにはたくさんの『部隊』があるの。世界中を巡って情報を収集する『諜報部隊』、便利な道具や建物、武器・防具を作る『技術部隊』とかね。で、ロギアが居るのは通常とは異なる特別任務を任される『特務部隊』」
「さっきロギアから聞いたやつだね」
ルーナの言葉にロギアは頷き、鼎は続きを語りだす。
「そっか、ロギアから多少は聞いてるんだね。あとは『魔術』の研究と使用の管理とかね」
「ま…魔術?」
聞きなれない言葉にジーザスは問いかけた。それに答えたのはロギアだった。
「ああ、さっきアタシが使ったでしょ。転移の術。ああいう術のことだよ」
「ロギア、転移術でジーザス君達を連れてきたんだね。空気中のクロノを利用して人間の思念と空間を繋げる原理なんだけど、体質能力とは違って、修行すれば誰でも使える術なのよ。まあ、勉強やスポーツと一緒で向き不向きがあるから世界的にも魔術師は少ないんだけど。ウチの組織には体質者の他にもそういった魔術を専門に扱う『魔術師』も結構所属してるの」
「魔術師…体質者以外にもそんな人達がいるんですね」
へえー、とルーナは鼎の言葉に聞き入っている。体質者だけが特別な力を持つ存在かと思っていたが、他にも似たような存在がいる。確かにロギアが使った転移術のすごさは自分達の身で実感したが。するとガイストが笑いながら言った。
「魔術は体質能力とは違って様々な種類があり、修行すりゃあ色んなことができるようになる。戦闘や日常においても色んな活用法があって便利なんだが、威力は体質能力には敵わないのと、使いすぎると体力を根こそぎ持っていかれて最終的には回復するまで使えなくなるっつーのが玉に瑕だがな」
「…よく言うぜ。魔術行使しまくってる野郎がよ」
ガイストに対し、冬一が呆れたように言った。どうやらガイストもまた魔術師ということらしい。
「ま、色々と仕事はあるんだけど、体質者のケアも重要な仕事の一つなんだよ。ルーナちゃんみたいに体質者が突然、能力を発現したりして、危ない目に遭ったりしないように保護もしてるし、能力の制御とかもフォローしたりしてるんだけど、ルーナちゃんは…もう大丈夫みたいだね」
「えっ…」
「ここに来る前にハザード・ディザリウスに会ったんでしょう?それで発熱も治ったようだし、ハザードから薬も貰ったみたいだし。彼が見てくれたなら安心だよ」
「ハザードと知り合い…なのか?」
ジーザスが尋ねると、鼎はどこか寂しげな笑顔を浮かべた。その表情の真意は読み取れない。
「…まあ、ちょっとね。…ところで、ジーザス君、ルーナちゃん。これからどうするつもりなの?」
「これから、ですか?」
確かにこれからどうするべきか。ルーナを誘拐されたと誤解されている現在、ルーナがこのままヴェルヌに帰ってもオズボーンファミリーの誤解はそう簡単に解けない。ルーナが言ったとしても、誘拐犯であるジーザスに脅されてそう言わされているだけ、と思われるだろうし、何より…レンツを雇い、ルーナが連絡することを阻止しようとした「誰か」がどうやってもオズボーンファミリーが誘拐犯だと仕向けるだろう。
「レンツがその娘の本国への連絡を遮断したっていうのは誰か黒幕がいるのは間違いないな」
「だとしたら、その黒幕を捕まえなきゃ今回の事件は全面解決しねえってことだ」
ガイストと冬一の言葉通り、黒幕を探し当てない限り、ルーナはヴェルヌに戻れないだろう。それでもジーザスは自分のせいでルーナが故郷へ帰れない状況になったことを負い目に感じていた。
(俺がブリタナに連れて行かなければ…ルーナはこんなことにはならなかったんだ…)
レンツとその裏にいる黒幕が完全なる悪なのはわかっている。だが、そいつらが関与させるきっかけを作ったのは間違いなく自分の行動だ。それを感じたのか、ロギアがジーザスに笑いかける。
「大丈夫だよ。黒幕をおびき出す良い方法があるんだ」
「黒幕を…おびき出す?それってあのレンツを取り調べて聞き出すってことか?」
「それもするけど、多分…吐かないだろうね。あの様子じゃ」
ジーザスの言葉にロギアはため息をつきながら答えた。レンツは黒幕の名前を答えないだろうという推測は確かに正しそうだ。それにレンツはルーナ自身を連れ去ろうとしていた。それは恐らく、黒幕の指示だったのだろうが。
「じゃあ黒幕をおびき出す良い方法って何なの?ロギア」
「ルーナ。後でアタシの言う時間にお父さんに電話をかけてくれるかな?」
「えっ。お父さんに……」
「そうそう。体質者の能力っていうのは射程距離があるからね。特にレンツの雷殿の能力は近い距離じゃないと使えない。レンツを捕まえた今、ルーナは自由に電話で連絡ができるんだよ」
「あっ、そっか!…でも、ロギアの言う時間っていうのは?」
「お父さんも確か刑事だよね。お父さんが警察署に確実に居る時間に連絡してほしいんだ。…ルーナがお父さんに連絡を入れて、無事だってことをまわりの刑事にも伝えられる時間帯」
「まわりの刑事にも…」
ルーナは最初、それがまわりにも自分の無事を一度に伝えるためかと思った。だがロギアの反応は違っていた。
「…もしかしたら、黒幕はルーナやお父さんの側にいるのかもしれない」
「えっ…!まさか警察に?」
「断言はできない。だからルーナ、お父さんに連絡を入れる時は出来る限り短い時間で電話してほしいんだ。自分は無事、オズボーンファミリーは無実、ってことだけを伝えて。もしお父さんのまわりに黒幕が居るなら、ルーナが連絡を入れてきて、計画に支障が出たことをすぐ察知して必ず動き出すはずだよ。そして、何らかのアクションを起こした時点で捕まえる」
「な、なるほど…」
確かに良い作戦かもしれない。ルーナ自身は警察に黒幕が居るとは考えたくないが、オズボーンファミリーを嵌めようとしている人物…つまり、オズボーンファミリーを良く思っておらず、誘拐犯という冤罪で陥れたがっている人物であるが、それが警察関係者であるという可能性は少なくない。鼎はロギアの作戦に頷く。
「それがいいわね。黒幕はまず状況確認をするはずよ。レンツに連絡を入れるでしょうけど、勿論レンツはウチが捕縛したから連絡は取れない。となれば次の刺客を送り込んでくるか、レンツを取り戻そうとするか。どちらにせよ、動きはある。ルーナちゃん、これからもあなたの身には危険が及ぶかもしれない。しばらくは日常の生活には戻れないと思うけど…耐えられる?」
「……はい。わかってます。どうしてこんなことになったのか…わからないけど、わたしはこれでも刑事です。オズボーンファミリーは何も悪くないのに、誰かがジーザス達を嵌めようとしている。そんな『悪』を見過ごすわけにはいきません!わたしも黒幕を暴くため、協力します!」
(ルーナ…)
そう答えるルーナの青い瞳には強い意志が感じられた。そんなルーナを見て複雑な心境のジーザス。それもわかっているのか、鼎は優しく微笑んでジーザスの方を向く。
「ジーザス君、ルーナちゃんを守ってあげてね」
「!あ……は、はい」
思わずジーザスは鼎に敬語で答えた。何となく、この鼎という女は全てを見抜いているような気がする。
そしてルーナはロギアに言われた通りに父、ジムに電話で連絡を入れ、短い時間で切ったのだった。
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ルーナが電話をして戻ってきてから再びお茶会となったジーザス達。冬一、鼎、ガイストが並び、ロギア、ルーナ、ジーザスが並んで座って緑茶と茶菓子をつまむ中、ガイストが面白げに笑ってジーザスに向かって言った。
「…ククク!なあ、ジーザス?色々大変だろうが、良い女を見つけたじゃねえか。マフィアの女になろうって女、そうそう居ないぜ?」
「…ちっ違ぇよ!?別にルーナはそんなんじゃねぇよ!」
「わ、わたし達はそんな関係じゃないです!」
ガイストの冗談じみた言葉にジーザスとルーナはほぼ同時に叫んだ。しかも二人とも顔を赤くしている。そして互いにハッと顔を見合わせ、顔を反らすのも同タイミング。明らかに意識している。中学生のカップルのような反応だ。
「なんだ、まだそういう関係じゃないってか。だったら俺にもチャンスはあるかな。色白美人ってのもなかなか」
「ガイストー?」
突然、笑顔の鼎からピリッとした殺気が飛ぶ。そこでジーザスは初めて鼎とガイストの関係に気付いた。
(あれ、もしかしてこの二人…)
「なんだぁヤキモチか、鼎?心配しなくても最後にはお前の元に戻ってくるからよ」
「は?最後?最後も何も浮気はダメだよねぇー?浮気は何回目かなー?燃やしてあげようかー?」
(……やっぱりそういう関係みたいだな)
ジーザスの思考の途中で既にガイストと鼎は痴話喧嘩のようなトークを繰り広げている。二人とも笑顔なのが妙に怖い。どうやらガイストと鼎は恋愛関係らしいが、ガイストは何度か浮気経験があるらしい。そういえば初対面の時もルーナに対して怪しい視線を送っていた。
(つーかルーナに手ぇ出したら許さねえし!)
無言でガイストへの牽制をするジーザスであった。一方ではルーナは未だ頬を染めて少し俯きがちにソファーに座っていた。
(そ、そういえば…今までいろんなことがあって…無意識だったけど…いつの間にかわたし、ジーザスに頼りきってる…)
ブリタナに来た時も、体質能力の発現で発熱し、バレリアスに行く時も、最近ではすっかりとジーザスを信頼し、頼っていることに気付いた。最初こそ警戒していたはずなのに、いつの間に…。ジーザスはいつもルーナを気遣い、守ってくれていた。だからルーナもジーザスを信用して全てを任せていた。少し前まではオズボーンファミリーは悪、というのが常識だったというのに。
(わたし…どうしてこんなにジーザスを信用しているんだろう…なんだか、必要以上に…)
いくら良い人だといってもまだ出会って五日ほどしか経っていない。だが、それでも…ジーザスの側に居るとなんだか心が安らぐ気がした。なのに今こうしてジーザスとの関係を勘ぐられると頬が熱くて胸が高鳴る。今のルーナはまだこの感情を理解できていない。
「ルーナ、どうしたの?具合悪い?」
「!ロギア……う、ううん。大丈夫」
顔を覗き込んできたロギアの動きでハッと我に帰るルーナ。そして未だ続く鼎とガイストの痴話喧嘩もどきの中、冬一が溜息をつきながら話題を変えた。
「…とにかく!黒幕の動きがあるまでお前達はブリタナに戻って大人しくしてるといいだろうな。その方が安全だ」
「兄さん。…ゴホン!そうね!
クラウン本部に居て、行方が掴めないよりかはブリタナに居た方が向こうも手を出してきやすいだろうし。でも、いざという時、護衛が必要だね。…ロギア!ルーナちゃんの護衛としてブリタナについていきな」
「え。いいんですか?先生」
ロギアは鼎の言葉に少し驚いたようにきょとんとして返事をする。ロギアは特務部隊の隊長だ。ルーナの護衛のためについていって留守にしても大丈夫なのかとジーザスは思った。ロギアもそれは思ったようで鼎に問いかけたようだ。
「今回、ルーナちゃん達を見つけてきたのはロギアだし、しばらくは特務の任務も無いでしょう。それにジーザス君だけでは黒幕の手勢に打ち勝てないかもしれない。相手は体質者の刺客をよこしてくるかもしれないしね。だからロギア、アンタが適任よ」
「…わっかりましたぁ。確かにルーナ達は心配だしね。…じゃ、改めてジーザス。ルーナ。宜しくね!」
「ロギア…。…おお、わかった。これから宜しく頼む」
「宜しく、ロギア」
ロギアはジーザス、ルーナとそれぞれ握手を交わす。ロギアはしばらくの間、ルーナの護衛として共にブリタナに居てくれるようだ。
「ふふ。なんだか…同年代の女の子が側に居てくれると心強いな」
「あれ、ジーザスが守ってくれるから安心できるんじゃない?」
「もぉ!そ、そういうのやめてよ!」
ルーナとロギアはいつの間にかけらけらと笑い合っている。ルーナはしばらく同年代の女性と接することがあまりなかった。刑事として男社会の中で生活し、この五日間もオズボーンファミリーやハザードといった男性としか接していない。オズボーンファミリー邸で着替えを用意してくれたメイドが居たが、客人としてもてなされ、ほとんど話もできなかったくらいだ。こうして対等な関係で話せる同年代の女性は特別に感じる。それを見た鼎はロギアに言った。
「ロギア、ルーナちゃんを連れてクラウンを案内してあげたら?本部は安全だし。ブリタナに帰るのは明日でも遅くないはずだよ」
「おっ、そうですねー。ルーナ、行ってみる?」
「うん!是非!」
「じゃ、そういうわけで。先生、冬一さん、ガイストさん、ジーザス。行ってきまーす」
「行ってらっしゃーい」
「あんまり振り回すなよー」
明るい顔でロギアはルーナの手を引いて部屋を出て行った。この百階建ての塔を案内となるとわりと時間はかかりそうだ。二人が出て行った後、部屋に残されたのはジーザス、鼎、冬一、ガイスト。しばしの間、沈黙があった。だがその沈黙を破ったのは冬一だった。
「…お前、その刀。妖刀、黒烏だな」
「!わかるのか……お前も刀を持ってるからか?」
「まあな。俺は刀には詳しい方だが、その黒烏はこの二十年近く、所在不明になってた名刀だ」
「えっ。そうなのか」
ハザードも言っていたが、黒烏は一般人にはそう簡単に手に入れられないものらしい。だがそんな刀を何故、父のアーロンは手配できたのだろうか。
「出た、刀オタク」
「そんなもん詳しく調べてんだったら女の一人でも作れよな」
「うるせぇな!別に良いだろうが!」
鼎とガイストが若干引いた目で冬一を見ている。それに対し、冬一はムキになって怒鳴りを入れた。そしてゴホン、と咳払いしてジーザスに続けた。
「…ったく。で、お前はその刀、どこで手に入れたんだ?」
「……親父が武器屋の主人に手配してくれたんだ。確か、ジャポンのある人から譲ってもらったとかで…よくは知らないんだがな」
「ある人、か……」
「…お前のその刀ももしかして」
「ああ。お前のと同じ、ジャポンの妖刀でな。『
八咫守・黒帝』だ」
「八咫守…あれ、それって黒烏と同じ…」
「そうだ。黒烏と黒帝は同じ刀匠が作った兄弟刀だ。ま、作られた年月は違うがな。黒帝の方が古いが、どちらも違った良さがある」
冬一が上着をめくり、腰にさした刀を見せる。ハザードの鬼神よりも大きめの太刀のようで、黒烏と似て全体的に黒い。
「コイツが黒帝だ。良い刀だろ。お前の黒烏は軽さを追求し、素早い攻撃ができる。俺の黒帝はその大きさ故の強さが売りだ。大きい分、重いのが難点だが一振りで魔物の群れも一掃できるぜ」
「す、すごっ…」
魔物の群れを一掃するとはどれほどの威力なのか。ジーザスは黒烏の力を知っているが、狼の魔物相手に一体ずつしか仕留められなかった。唖然とするジーザスの向かいで、嬉しそうに黒帝のことを語る冬一は少年のようだった。
「まあお前も妖刀使いなら修行を積むこったな」
「修行、か…」
確かにジーザスは刀については素人。拳銃や殴り合いならともかく、ジャポンの刀は基礎もできていない。これからこの刀を使っていくのであれば、修行が必要なのはジーザス自身もわかっていた。その時、なぜか脳裏に浮かんだのはあのハザードだった。
(ハザードは…一人であの体質者を倒した。あの剣術……体質能力で敵の攻撃を『見ていた』とはいえ、あの戦いは…本人の剣の腕があってこそだ。あいつのように…強い剣が使えたらもっと…)
ハザードは強かった。体質者ということを除いても十分に強い剣士。性格は嫌味な奴だったが、その腕前には一種の憧れのようなものを感じていたことは事実だった。もし、もう一度会えたら…。
「ところでよ」
しばし考え込んでいたジーザスにガイストが近付き、にやりと笑った。
「お前、あの嬢ちゃんに惚れてんだろ」
「え。……はああああ!?なっ、なっ、なんだよいきなり!?」
「お、否定は無しか。さっきは否定してたけど、嬢ちゃんがいたからか?」
「そ、そ、そ、それはっ…!」
確かに先程否定したのは、ルーナが側にいたのと、「マフィアの女」と言われたからだった。マフィアの女もなにも、まだ付き合ってもいないし、告白すらしていない。ジーザスは確かにルーナに一目惚れしたが、ルーナ自身の気持ちは何もわからないまま。
「こら、ガイスト!若者の恋愛に首突っ込まないの!」
「良いだろ別に。この様子じゃまだ告白もできてねえって感じだからな。恋愛のマスターである俺様に任せろよ」
「お前の恋愛遍歴は人並みじゃねえ」
鼎と冬一に揃って突っ込まれるガイスト。どうやら女性関係はかなり派手らしい。ジーザスは若干引き気味だ。
「いや、俺は…」
「まあ立場の違いはあれ、今はあの娘もお前のことを理解してくれてんだろ。どうだ、ここは『今夜、俺の部屋に来いよ』でイチコロさ」
「はああああ!?」
「ガイストー!セクハラだよ!」
明らかにアウトな発言のガイストにジーザスは驚き、鼎はガイストの脳天にチョップを食らわせた。アウトだ。明らかにアウト。
「痛ってぇな、鼎!」
「ジーザス君はジーザス君のタイミングがあるんだよ!そういう勝手なことしないの!」
「悪いな…アイツ、ああいう野郎なんだ」
「いや…まあ、いいけど…」
ぎゃあぎゃあと騒ぐガイストと鼎を見ながら慣れた目つきで冬一が二人を見つめながらジーザスに言った。どうやら日常茶飯事のようだ。
(…トリニティ・クラウン……体質者……魔術…俺の知らないことばかりだ。…ルーナを守るためにも…黒幕を倒すためにも…俺はまだ学ばなきゃいけない…)
ジーザスの中である決意が生まれた。真っ先に学ぶべきこと。それは剣術だ。そして…頼るのはあの男だと。…受け入れてくれるかはわからないが。
16.学ぶべきこと、知るべきこと
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