大変なことになった。わたしが氷麗ひょうれいの体質者として目覚め、ジーザス達オズボーンファミリーを誘拐犯に仕立てようとする「黒幕」がいることがわかって、今、わたし達はクラウンっていう能力者を守る組織にいる。
元の刑事としての生活が簡単に戻ってこないのはわかってるけど、それでも。刑事として、オズボーンファミリーを嵌めようとする黒幕は許せない。だからわたしはジーザスと一緒に戦うって決めた。そして、現在、わたしはクラウンの特務部隊隊長、ロギアと一緒にクラウン本部の廊下を歩いている。ここに来るまでにクラウン本部の色々な施設を見た。ロギアによると、百階のこの塔の中、それぞれの階に広い闘技場、書庫、武器庫など色んな施設があるらしい。五十階に着き、ロギアが大きな襖をスライドして開いた。

「ここが五十階、食堂だよー。広いでしょ!」
「わぁ!」

ロギアに案内してもらったのは和モダン風で広い食堂。木製のテーブル席がいくつも並んでいて、クラウンの制服を着た人達…クラウンの隊員さん達が食事を楽しんでいた。一番奥にはカウンターのような場所があって、奥には料理人らしきおじさんやおばさん達が料理を作っている厨房の様子が見える。

「すごいね…こんなに広い食堂、初めて見たよ」
「でしょでしょ!クラウンは隊員が千人単位でいるからね。食堂もその分大きいんだよ。それにここの料理はめちゃくちゃ美味しいの!折角だからルーナ、デザートでも食べていかない?」
「デザート…!いいの!?」

ハッ。…思わず目を輝かせてしまった。昔からわたしは甘いものが好きで、実家では自分でも手作りしていた。だからロギアの誘いは本当に嬉しくて。ロギアは面白そうに笑うと、わたしの手を引いて食堂へ入る。そして中央付近のテーブル席につくと、メニュー表をわたしに見せてくれた。

「じゃあ、何食べる?色々あるよー」
「わ、ほんとだ…どれがいいんだろう」
「じゃあアタシのオススメ。ジャポンのデザート、あんみつとかどうかな?」
「あんみつ…わたし、食べたこと無いの!じゃあ、それにしようかな」
「オッケー!おばちゃーん!あんみつ二つおねがーい!」
「あいよーロギアちゃん!可愛いお客さんだねぇ」

ロギアの注文を聞いたおばさんが元気よく答えながら厨房へ向かった。なんだか褒められたようで恥ずかしい…。でもあんみつ、楽しみ。そうしていると表情に出ていたみたいで向かいの席のロギアが笑った。

「ルーナ、嬉しそうだね」
「…ハッ。顔に出てた?」
「あはは、思いっきり。…でも…ルーナはすごいね」
「えっ?」
「…辛い目に遭っているのに…自分を見失っていない」

そう言ったロギアはどこか遠い眼差しでわたしを見た。確かに…今のわたしは普通なら冷静さを失ってもいい状況なのかもしれない。でも今はあんみつのことを考えていたり、ロギアと話して笑ったり…意外と普通の反応をしている。確かに不思議かも。

「…多分、皆がいるからかな。わたし一人だけでは多分どうしようもなくなってた。でもジーザスが守ってくれて…ハザードが助けてくれて、ロギアや鼎さん達が色々なことを教えてくれた。だから頑張れるの」
「やっぱり…ルーナは強いと思うけどな。そんな風に思えるなんてさ」

ニカッとロギアは微笑む。ああ、やっぱりロギア相手だと話しやすいな。

「そういえば…ロギアは昔からずっとクラウンに所属してるの?」
「うーん、まあ複雑なんだけど、一応そういうことになるかなあ。隊員の中ではベテランの方だよ」
「やっぱり。なんだか鼎さん達とも親しげだったしね。それに鼎さんのこと、先生って呼んでた」
「そうそう。先生はアタシの育ての親みたいなものなんだよ」
「…え?育ての親?」

ん?なんだかおかしい。鼎さんはどう見ても二十代後半、ロギアはわたしと同い年くらいかちょっと下くらい。育ての親と呼ぶにしても年が近すぎるような。わたしが思わず首を傾げているとロギアは苦笑いした。うまく説明できないみたい。

「あー…うーん…ちょっとそこも複雑で…実はね、先生は実年齢より若く見えるんだ。ほんとはもっと年上でね」
「嘘!?あんなに若く見えるのに…」
「そうそう。先生をはじめとしたクラウンの幹部の皆がアタシを育ててくれたんだ。冬一さんもガイストさんもね」

まさか冬一さんとガイストさんも若く見えるってこと…?クラウン幹部が皆揃って実年齢より若く見えるなんて、そんなこと実際にあるのかな…。

「なんだか…クラウンってすごい組織…。もしかして若返りの霊薬とか作ってたりするの?」
「あはは、まさかぁ。…まあ先生達とアタシくらいだよ、そういうのは。でもまあ、クラウンがアタシの家で故郷って感じかな」
「故郷…」

確かにロギアにとってこのクラウン本部というのはとても大事な場所なんだと思う。キョウの街も、クラウン本部でもロギアはたくさんの人達に愛されているようだった。オズボーンファミリーがブリタナで愛されているのと同じように。

「…『能力は人のために使うもの』。アタシが先生から最初に教わった、クラウン本部の信条だよ。というか体質者としての心得、だね」
「人のために使う…か」

なんだか素敵な心得。なんだか刑事としての心得に似てるかも。わたしの氷麗の力も人のために使うことができたら良いけど…でも…物を凍らせる力なんて、何の役に立つのかな。それに…あれ以来、わたしは能力を使ってない。バレリアスにいた時、ハザードが「念じれば体質能力を使うことができる」って言ってたけど…。でもわたしは少し怖かった。わたしの体質能力は…もしかしたら人を傷つけてしまう力かもしれなかったから。
…するとそこで、おばさんがトレーの上にあんみつを二つ乗せて運んできてくれた。

「はいお待ち!あんみつ二つ!」
「わぁ!」

テーブルに置かれたあんみつはとても可愛くて美味しそうだった。色とりどりのフルーツとジャポン特有のスイーツ、アンコが乗った小皿。写真では見たことあるけど、食べるのは初めて。ロギアがニコニコしながらこっちを見た。

「じゃ、食べよっか!初あんみつ、どーぞ!」
「いただきますっ」

スプーンで一口食べると、優しい甘さが口に広がった。これがあんみつ…ジャパニーズスイーツ!

「とっても美味しい!」
「でしょー!特にここのあんみつは美味しいんだよねぇ」

わたしとロギアはあんみつを食べながら笑った。…本当に、今わたしが置かれた状況を忘れてしまうほど、のどかな体験。これから先、わたしはどうなるんだろうとか、そういったことも忘れてしまいそうになる。

「あ、ルーナ。この後なんだけど、癒されに行く?」
「癒される?」

突然、ロギアがそう言ってきた。癒されに行くってなんだろう?

「一階の裏に庭があってね。ジャポン庭園とかあるんだけど、その隣にもう一つ良いところがあるんだ」
「良いところ…なんだかよくわからないけど、興味あるかも」
「そうでなくちゃ!」

一階にあるジャポン庭園の隣ということは地上、つまり外。ジャポン庭園っていうのも気になるし、何よりロギアの言う「癒されに行く」というのがとても気になった。どうやらこのクラウンという組織は本当に楽しいことがいっぱいみたい。



ロギアに連れられてわたしはクラウン本部の塔の外にいた。さっきまで五十階にいたのにエレベーターですぐ着いちゃった。外の涼しげな風に吹かれて気持ち良い。そしておもむろに振り返って塔を見上げると…やっぱり塔の先が見えない。来た時と一緒だ。
ロギアについていくと、塔の裏手にすぐジャポン風の庭園が広がっていた。本や写真でも見たことがある。庭石が置かれて、広い池があって、小さな赤い橋が架かっていたり、色とりどりの花や草木が生い茂っていたりして、とてもきれい。

「すごい!ジャポン庭園、初めて見た!あ、鯉!」
「ルーナはあんみつといい、ジャポン関連は初めてなんだね。だったらこの後、すっごい喜ぶかも」

赤い橋を渡り、橋の下の池を泳ぐ鯉達を見ながらロギアが言った。この後、何が待っているんだろう。そう思ってロギアが案内してくれたのは庭園の奥にある木製の扉。ロギアがそれを開くと、もうひとつジャポン庭園があった。ただ、こっちには池が無く、代わりに苔のある草地が広がっていて、大きな木が印象的。その庭の奥にはジャポン風のこじんまりとした屋敷が建っている。どうやら庭と自由に行き来できるようだった。そして何より、庭に入って一番驚いたのは…庭で戯れているたくさんの生き物!

「う……うわあぁぁぁ!!なぁにこれ!」
「可愛いでしょ?癒されるでしょ?ここはクラウン本部で飼育してる魔物達の施設なんだよ」
「ま、魔物!?魔物なのこれ?」

庭には犬っぽい生き物、猫っぽい生き物、ウサギっぽい生き物などが普通の動物のように遊んでいる。でも確かに…よく見ると犬のようで犬ではなかったり、猫のようで猫ではなかったりと…現実に存在している動物とは少し外見が違ってる。魔物と言われれば確かにそうかもしれないけど、わたしの知ってる魔物はもっと凶暴で人を襲う怖い生き物ってイメージ。こんなに可愛い生き物が魔物だなんて信じられない…。

「魔物の中には人を襲わない、普通の動物のような種類もいるんだよ。この子達がそれなんだけどね。そういった魔物で、体質者や魔術師に取り憑いて力を上げることができる子達を『憑神ツキガミ』っていうの」
「憑神……」
「憑神は昔から体質者や魔術師に仕える生き物だったんだ。クラウン本部でもたくさんの人達が憑神のおかげで力を上げてるんだよ」
「でも、取り憑くってどういうこと?おばけじゃあるまいし…」
「ほんとにパッと取り憑くわけじゃないよ。憑神が特定の人間を『自分の主』と認めて力を貸すことを『憑依』って呼ぶの。憑神が憑依すると、能力が上がるんだよ。だから昔から体質者や魔術師といった能力者と憑神は共に生きてきたの」
「へえ…」

わたしがロギアに憑神について教えてもらっているうちに見えてきた何人かの人影。庭にはクラウンの隊員が何人かいて、その憑神という魔物達の写真を撮影していたり、何やらレポートを記していた。その人達はロギアに気付くと、にこやかに挨拶した。

「あっ、デュークス隊長!こんにちは。そちらの方は?」
「うん、ヴェルヌからのお客さんだよ。憑神達の体調管理はバッチリ?ちょっとアタシ達も見てもいいかな」
「はい、どうぞ。今、庭には子供の憑神達を放しています」
「ルーナ、この人達はウチの生物部隊だよ。憑神の保護と飼育を担当してるの」
「宜しくお願い致します」
「あ、よ、宜しくお願いします!」

生物部隊という隊員の人達から、ぺこりと頭を下げてもらったのでわたしも頭を下げて挨拶した。わたし達が庭の奥へ進んでいくと、近くに憑神達が「ミーミー」とか「キュゥキュゥ」と鳴きながら寄ってくる。隊員さんの言う通り、子供の憑神らしく、とても小さくて鳴き声も可愛い。

「わあああ…可愛いっ!」
「お、ルーナに寄ってきてるね。憑神は人を見極めるっていうから、ルーナは何かあるのかも」

ロギアが感心したように笑った。何かあるって…わたしは特に普通なんだけどな。でも憑神って本当に色んな種類がいるんだ…。小鳥っぽい憑神も亀っぽい憑神も。その子達を撫でていると、隊員さんが説明してくれた。

「ここにいる子供の憑神達は皆、クラウン本部で生まれた子達なのです。クラウンでは憑神の希少種を保護し、飼育して数を増やすことも仕事の一つですから」
「そうなんですか…この子達、ここで生まれたんだ…」

庭石に座りながら猫に似た憑神を抱えながら呟く。この子もクラウンの恩恵を一身に受けてるんだ。すると、足元で小さく「キュー!」というか細い声がした。ん?なんだろう…。

「あれ、この子…」
「あ、ユキだね」
「ゆき…?」

ふと足元を見ると、他の憑神よりも小さな白い生き物がいた。ぱっと見、白いオコジョに似ていて細長い胴体だけど、キツネのようにもふもふして大きい尻尾。わたしのブーツによじ登ろうとしているのか、小さな手でカリカリしているけど、力が弱くてよじ登れていないみたい。…なんだかその言動が可愛い。

「『九尾きゅうび』っていう狐型の魔物の幼体だよ。先月生まれたばっかりなんだ」
「狐なの!?オコジョっぽいけど…」
「大きくなるともっと狐っぽくなるけど」

ロギアが笑いながら雪っていう子を抱えてわたしの膝に乗せた。ようやく上に登れて嬉しかったのか、雪は尻尾を思いきり振っている。可愛い…。

「キュー、ムキュゥ!」
「ふふふ。そんなに嬉しいの?」

頭を撫でると気持ちよさそうに鳴いた。体は両手から少しはみ出す程度のサイズで、尻尾だけがまるごと両手から出るくらい大きい。尻尾だけ見れば狐かな?そんな様子を見てロギアが言う。

「おー、懐かれてるね、ルーナ。雪と相性が良いんだと思うよ」
「そうなの?」
「憑神は能力者の力を上げるって言ったでしょ?憑神にはそれぞれ体質者みたいな特殊能力が備わってるんだけど、雪はその名前の通り氷雪を操る力を持ってるの。ルーナの氷麗と一緒だね。もちろん、体質者に比べたら力は弱いけど」
「!氷雪…確かにわたしと一緒だ」

わたしの体質能力、氷麗と同じ力を持つ生き物。そんなものがいるなんて。すると雪が反応するように「キュゥ!」と鳴くと二本足で立ち、両手をバンザイするように上げた。すると雪のまわりに粉雪が降る。

「!粉雪!」
「ね。雪って名前はその力から取ってるんだよ」
「すごいね、雪!」
「ムキュゥ!」

えへん、と言わんばかりに雪が小さな手を腰に当ててみた。憑神ってやっぱりすごい…。そして雪はそのままわたしの胸に飛びかかると腕を伝ってひょっこりと肩に乗ってきた。尻尾をはち切れんばかりに振ってくるから、首に当たってくすぐったい。

「わっ」
「あはは、すごい懐きようだねぇ」

その様子にロギアも笑っていると、奥にある屋敷から誰かの声がした。なんだか落ち着いた女性のような声。奥の屋敷に誰かいるのかな。

「ロギア。雪が懐いているその女性にお会いしたい。連れて来てくれないかい?」
「あっ。はーい。ルーナ、お呼びだよ」
「えっ、あの…奥に誰かいるの?」
「うん。まあ会ってみればわかるよ」

どこか嬉しそうなロギアに背を押されて奥の屋敷へ入っていく。肩には未だに雪が乗ったままだけど、なんだか雪も嬉しそう。そこでわたしは驚いた。屋敷は木の温もりが溢れる一部屋だけの広い空間だった。住宅というより、ジャポンの神社の中のような、どこか神々しい空気があるような…。そのさらに一番奥に少し高台になった座に、大きな二匹の狐に似た生き物…おそらく憑神がいた。二匹はそれぞれ白と黒の毛並みで、白い方は鎮座しており、黒い方は白い方に寄り添うように立っていた。その姿は伝説の動物のようにとても荘厳で美しく、わたしはしばらくその場に立ち尽くしてしまった。さっきの声はこの屋敷から聞こえたけど、この憑神以外に何者もまわりにはいない。ということは…やっぱりさっきの声は…。そう考えていると、白い方の憑神が穏やかな目でわたしを見た。そして驚くことにその白い方から声がした。

「…あなたが…ルーナさんね」
「!は、はい!」

思わず驚いて声が裏返った。やっぱりさっきの声はこの白い方の憑神のものだったんだ!まさか憑神とはいえ動物が喋るなんて。優しく優雅な女性の声で、その憑神がメス…女の人なんだと気付く。

「ふふ、そんなに緊張しないで。憑神は成体となると人の言葉を話せるようになるのです」
「そ、そうなんだ…」
「…ふむ。その娘がロギア、お前の連れてきた氷麗の体質者か」
「うん、ルーナっていうの」

白い方の憑神の後に黒い方の憑神が声を発した。こちらは低い男性の声だった。オスなんだろうな。ひょこっとロギアがわたしの後ろから顔を出す。どうやらロギアはこの二匹と親しいみたい。…そりゃクラウンの隊長なんだからそうかな。
すると、わたしの肩に乗っていた雪がぴょんっと飛んで二匹の憑神のもとへ向かった。そういえば…雪ってこの二人と似てるかも。毛並みの色的にメスの白い方と似てる…?
雪は白い方に擦り寄り、喉を鳴らしている。白い方も雪をペロペロと舐めて毛繕いをしているのを見ると…やっぱりこれって…。

「もしかして…あなた達は雪のお父さんとお母さん?」
「ああ。雪は我らの子のうちの一匹。我が名はコク。そしてこちらがハク。我らは揃って鼎に憑依する憑神である」
「鼎さんの?」

やっぱりこの二匹は雪の親なんだ。確かに全体的なフォルムは似てる。ただ大きくなると、より一層狐っぽい。しかもどことなく神様みたいな神々しさを持っている気がした。さっきロギアが言っていたとおりなら、憑神は能力者に取り憑いて能力を上げることができる。鼎さんは確か未来を見通す『予言よげん』の体質者。ということはこの黒と白が鼎さんの体質能力を上げているんだ。

「我らは鼎がクラウンの司令になった頃より憑依し、長い年月に渡って共に戦い、共に人を守ってきた」
「そうなのです。わたし達は勿論、他の憑神達もこのクラウンで良い生活を送ってきました。ロギアのことも小さな頃から・・・・・・知っていますよ。そんなロギアが氷麗の体質者のお客さんを連れてきたって聞いたので是非お会いしたかったのですよ」

黒と白がわたしを興味深そうに見て言った。いつの間にか、わたしの存在はクラウンで有名人になっているみたい。どうしてそこまで話題になってるのかな。

「わたしに…?」
「この子、雪も氷雪の力を持っているので、もしかしたら相性が良いのではないかと思っていましたが、どうやら想像以上にこの子が懐いているようですね」
「ムキュ!」

肯定するように雪はひと鳴きし、ルーナのもとへ戻ると肩にひょっこりと乗ってきた。雪は嬉しそうで、本当に懐いてくれているようで本当に可愛い。それを見てロギアは確認するように黒と白にたずねた。

「じゃあ黒、白。問題なさそうだね?」
「ああ。ここまで相性の良い関係はなかなか無い」
「はい、その方と一緒にいる方が雪も幸せでしょう」
「キュー!ムキュゥ!」
「?ど、どういうこと?」

何か話がまとまりつつあるけど、どういうことなんだろう。ロギアがわたしの隣に立って笑顔で言った。

「要するに、雪をルーナに任せようっていうのよ」
「えっ!?雪を!?わたしに?」
「そっ。雪をルーナの憑神にするの。憑神は子供でも十分に能力者の力を上げることができるしね。ルーナとこんなに相性が良いなら十分だよ」

ロギアの言葉に雪も尻尾を振って頬に擦り寄ってくる。黒と白もそれを望んでいるかのようだった。

「…でもわたし…今、色々とあるから、雪を危険な目にあわせてしまうかも…」

今、わたしはオズボーンファミリーを嵌め、わたしの身柄を狙う何者かと戦う道を選んでいる。そんな状態でわたしの側にいたら雪だって危ない。憑神とはいえこんな小さな子なんだし…。すると、父親である黒が言う。

「憑神は人よりも頑丈だ。それに、お前の事情も聞いた。ならばより一層、雪の力が必要になってくるはずだ」
「…そこまで言うなら……雪、わたしのところに来る?」
「ムッキュ!!」

雪は大きく鳴いた。これで雪はわたしに取り憑いた…『憑依』ってことになるのかな?光がパーッと出たりする演出があったり…とか思ってたけど特に何とも無いみたい…。

「宜しくね、雪」
「キュゥ!」
「これでルーナの氷麗の力も上がるね」
「ありがとう、ロギア。ここに連れて来てくれて」

本当にロギアには感謝しなきゃいけない。ここに連れて来てくれなかったらわたしは雪と会えなかった。

「ルーナに少しでも楽しんでほしくてね。結果的に戦力増強になったね!」
「あはは、確かにね」
「ムキュッ」

そう笑っている時。
ドカァァァァァァァン!!!
外から凄まじい爆音が聞こえ、屋敷全体が大きく揺れた。「お」と小さく黒が呟き、天井を見上げ、白は動じていない。雪はビクッと震え、わたしの肩にしがみついてくる。

「ロギア!これ、何なの!?」
「外で何か起きたようだね!」

ロギアがすぐさま外へ出たから、わたしも慌てて後を追った。庭では煙が立ち、庭にいた隊員達が憑神の子供達を避難させている。

「デュークス隊長!」
「何があったの!」
「ト、トカゲモドキが!暴走しました!!」

隊員が叫ぶのを聞いてロギアが正面の煙の向こう側を見た。煙の中に見えてきたのは建物三階分くらいの巨大なトカゲのような生き物だった。おそらく憑神なのだろうが、明らかに暴走して目つきがおかしい。尻尾を振り回し、大きな咆哮をあげた。

「ロ、ロギア!これって…憑神、なの!?」
「トカゲモドキっていって、そのまんまトカゲの憑神だよ!憑神の幼体は普段は小さくて大人しいんだけど、時々、生まれ持って強大な力を持っている場合、体を上回って能力が暴走しちゃうことがあってね。今回も同じ系統の事案だよ。こういう場合は気絶させると元に戻せるから」

ロギアはわたしに説明すると、腰にさしてあった刀を抜いた。そういえばロギアもジーザスやハザードと同じジャポンの刀を持ってるんだっけ。

「峰打ちで終わらせるよ!『蒼月そうげつ』、抜刀!」

ロギアが抜いた刀は月夜のように輝く美しい刀。日の光を映すと銀色の光を宿していた。ロギアの言葉によると、蒼月という刀らしい。
トカゲモドキの尻尾がロギアに向かって振り下ろされたけど、瞬時にロギアは宙に飛び、蒼月でトカゲモドキの尻尾を斬る。峰打ちって言ってた通り、血は出ていない。さらにトカゲモドキが手でロギアを振り払おうとしたけど、ロギアはいつの間にか姿を消していた。

「え!?ロギア、どこに…」
「ムキュ!」

ロギアの姿を探していると、肩に乗った雪が別の方向を指差す。それはトカゲモドキの背後。そこにはいつの間にか蒼月を振りかざしたロギアが飛んでいた。

「一気に終わらせるよ!痛かったらごめんね!………大地に流れる力よ、我が刃に宿れ!『蒼翔月破そうしょうげっぱ』!!」

叫んだロギアの持つ蒼月が青く光り、トカゲモドキに振り下ろされると風を巻き込んだ凄まじい斬撃が放たれた。

「きゃっ…」
「ムキューッ!!」

その風圧に思わず雪が飛ばされそうになったのを捕まえる。斬撃はトカゲモドキに直撃し、そのまま地面に深く倒れこんだ。その衝撃もまた大きく、地震のように響く。その後、トカゲモドキは通常のトカゲの大きさに戻っていき、隊員に保護された。
ロギアも地上に下りてきて蒼月を腰におさめ、深いため息をついた。

「はぁー、なんとかなったね」
「ロギア!お疲れ様!すごかったよ…」
「あははー、まあ気絶させるだけだったから簡単だったんだよ」
「ううん、わたしにはあんな技出せないもの。やっぱり特務の隊長だね」
「アタシなんて先生達には敵わないし、まだまだだよ」

ロギアがあんなにすごいのに、鼎さんってどれだけ強いんだろう…。

「そういえばロギアの刀もジャポンの刀なんだよね。もしかして妖刀?」
「お、そうそう。アタシの妖刀は蒼月っていうのよ。あと、冬一さんも妖刀使いなんだよ」
「そ、そうだったんだ」
「ま、冬一さんとは流派は違うんだけどね。冬一さんは世界最強の剣士だから、アタシなんて足元にも及ばないよ」
「せ、世界最強の剣士?」
「冬一さんはね、そう呼ばれてるの。昔から剣の天才で、すごく強いんだよ」

そうなんだ…冬一さんは確かにジャポンの妖刀を持っていたけど、そんなに強い人だったなんて。世界最強の剣士なんて本当にすごい呼び名。ハザードも強かったってジーザスから聞いたけど、わたしのまわりの剣士は皆すごい人ばっかりだわ…。
でもさっきのロギア…すごい覇気だった。まるで何年も戦ってきた歴戦の戦士って感じで…。今笑っているロギアとは別人のような雰囲気だった。
ロギアを横目で見ながらしばらく考えていると、屋敷の奥から黒と白が歩いてくる。騒ぎが収まったことに気付いて様子を伺いに来たみたい。

「終わったようだな、ロギア」
「相変わらず早い解決ですね」
「まあねー!とりあえず後は生物部隊の人に任せようか。ルーナ、そろそろジーザスが恋しいでしょ?」
「ちょっ…!ロギア!何それ!」

ロギアが突然おかしなことを言ってきて困る…。ジーザスが恋しいなんて…そっ、そ、そんなことあるはずないのに!雪は状況がわかってないのか、わたしの肩に乗って首を傾げている。
さっきみたいな騒動もあるけど、やっぱりロギアや雪…クラウンの人達と出会ったことはわたしにとって大きな転機だったと思う。勿論…ジーザスも。


17.憑神の庭






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