ヴェルヌの首都ノイシュベルツにあるヴェルヌ警察本部。その長官執務室にはヴェルヌ警察のトップ、警察長官ネレイド・デルスフィアが
小型電素通信機で誰かに電話をかけていた。
「…私だ。…ジーザス・オズボーンとルーナ・グレイシアを追跡していたレンツと連絡が途絶えた。まさかとは思うが、ヤツらに気付かれたのかもしれない。至急、ブリタナへ行き、現状を探り次第、私に連絡をしろ。気付かれた場合は殺せ。ただし、ルーナ・グレイシアは殺すなよ。貴重な『エネルギー源』だからな」
ネレイドは電話口の何者かにそれだけ伝えると、電話を切った。その目はひどく不気味に光って見える。
「…おのれ、オズボーンファミリー……邪魔はさせぬぞ…」
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その頃、ジーザス達はロギアの転移術で再びブリタナ島に帰ってきていた。行きとは違い、ロギア、ハザードという新たな仲間を加えての帰還。四人が降り立ったのは屋敷から少し離れた人気の無い丘の上。ちょうど夕方で空と海はオレンジ色に染まり、街も温かな光で照らされているのが美しい。
島は変わらずに豊かな自然と人々の笑顔で溢れているようだが、夕方ということで少し落ち着いている。
「帰ってきたな」
「うん。二日ぶりだね」
ジーザスとロギアが笑っているとロギアが二人の横に並び、沈む太陽の眩しさに手を当てながらも嬉しそうにブリタナの街を見渡した。
「おおー!すごい眺め!」
「ムキュー!」
ロギアもそうだが、ルーナの肩に乗る白い狐の
憑神、
雪も驚きの鳴き声をあげる。ロギアによると、雪はまだ子供で、クラウン本部から出たことはなかったらしい。外の世界を見て興奮しているようだ。
「ロギアはブリタナに来たことあるの?」
「うん、結構前にねー。でも前よりもずっと賑やかになってるみたい」
「ハザードは来たことある?」
「…来たことはない」
ルーナの質問に対し、ロギアとハザードが答えた。ロギアは前にも来たことがあり、ハザードは無いという。ロギアは活動的に見えるし、特務の隊長ということもあって世界の様々な場所に行っているのだろうが、ハザードは明らかに引きこもりがちで世界各地へ行ったことなど無いように見えた。納得できる返答である。
「とりあえず…親父にお前達を紹介するからさ。こっちだ」
ジーザスが先頭を歩き、オズボーンファミリー邸へ向かう一行。丘から屋敷までは五分程度で到着した。オズボーンファミリー邸の正門に近付いてくると、門番として警備にあたっている二人の構成員がジーザス達に気付いた。
「!若!お帰りなさいませ」
「ルーナ様も…無事に治療なされたのですね」
「ありがとうございます。わたしはもう大丈夫です」
「よお、お前ら。留守中、問題無かったか」
門番の構成員達は
氷麗の体質能力が発現した影響で発熱したルーナのことを気にかけていたようだ。ルーナが笑顔で感謝を述べ、ジーザスは留守中のことをたずねる。
「問題ございません。先程、テルボロ様とシェンノ様がお戻りになられたこと以外、何の変わりもなく」
「お、テルボロの叔父貴とシェンノの叔父貴が」
意外と早かったな、とジーザスは呟いた。そこで構成員達はロギアとハザードの存在に気付く。
「若、その方々は」
「客人…いや、俺の仲間になる奴らだ。詳しいことは親父と叔父貴達と話す」
「かしこまりました。ボス達をお呼びします」
構成員の一人が屋敷の中へ入っていき、もう一人がジーザス達を案内する。歩き出す直前、ジーザスはロギアとハザードに向かって小声で言った。
「知ってると思うが、俺の親父は今のボスだ。で、不在にしてた叔父貴達…幹部の二人も戻ってきてるっていうから、三代目オズボーンファミリーが勢揃いで待ってるってことだけどよ。…正直、親父よりも幹部の一人がめちゃくちゃ怖いから、変な態度で怒らせないでほしいんだ」
「あれ、そんな怖い人ってオズボーンファミリーに居るの?」
「オズボーンファミリー唯一の体質者、テルボロの叔父貴だ。あの人は本当に怖ェから…機嫌を損ねないようにしてほしいんだ」
「…オズボーンファミリーにも本物のマフィアらしいヤツがいるのか」
ハザードが腕を組みながら言った。ルーナはジーザスのその言葉を聞いて、体質能力が目覚めた時にジーザスやアーロン達から聞いた、「体質者の幹部」のことを思い出す。
(確か、わたし達がブリタナを出た時には居なかったんだっけ…)
彼が居ればルーナの体質能力のことももっと早くにわかったのでは、という話題が上がっていた。そんな人が戻ってきていると思うと、ルーナも緊張してしまう。するとロギアがルーナと肩を組んでいつもの笑顔を見せた。
「問題無いよ、ジーザス。うまくやるって」
「………」
「おい、ハザード。お前も頼むぞ」
正直、ジーザスはハザードだけが心配だった。眉間にシワを寄せ、人間嫌いを前面に出したあの態度を出されたら第一印象最悪だ。ジーザスにとって、ある意味勝手にロギアとハザードを連れて来たのだから、二人をオズボーンファミリーに置くことの許可、部屋の割り当てなどもアーロンに頼まなくてはいけない。そのためには少しでも印象は良くしておかなければ。返事の無いハザードに対し、ジーザスはかなり不安な気持ちでため息をついた。
(大丈夫か…コイツ…)
居間には酒を酌み交わす四人の男性が座っていた。そのうち一人はコートを肩から羽織ったアーロン、もう一人はガウンを着たムイ。後の二人はルーナも見覚えの無い人物だった。年頃的には二人ともアーロンと同じくらいの中年男性。
(あれ…アーロンさんと……後の二人は誰だろう…)
居間に入り、ジーザスが声をかける。
「親父!帰ったぜ。それに叔父貴達、お帰り」
「おお、ジーザス。ルーナちゃんは良くなったな。顔色も良くなった」
「よっ、ジーザス坊!話は聞いたぜ」
「どうやら大人数でお帰りのようだな」
アーロンに続いて声をかけたのは、ムイと同じ赤髪に眼鏡をかけた男性と、昔のマフィア映画に出てきそうな口髭を生やし、顔に古い傷跡がある渋い男性だった。すぐにわかる。おそらく、この渋い男性が噂の「テルボロの叔父貴」だろう、と。ルーナは思わず渋い男性の方をじっと見ていたが、彼もまたルーナを見て目が合ってしまう。
「!」
「…その金髪の彼女が…ジーザスが連れてきた娘だな」
「!はっ、はい…!は、初めまして!ルーナといいます…!」
「キュ!」
自分のことを言われて驚きのあまり、声が裏返りかけながら頭を下げた。 ルーナの肩に乗る雪も可愛らしく挨拶をした。その様子を見てロギアとハザードは、ルーナがこの男と初対面なのだと察する。
ルーナがオズボーンファミリーに一度足を運んでいることはロギアもハザードもジーザスから聞いていたのだが、誰とどこまでの面識があったかまでは把握していなかった。渋い男性とルーナのやりとりに、アーロンが笑顔で頷いた。
「そうそう、言った通りすごく可愛いだろ?うちのバカ息子も大人になったねぇ」
「アーロンの美人好きには困ったもんだ」
ルーナにメロメロなアーロンに、隣のソファーに座っていた眼鏡の男が苦笑いしながら言う。そんな中年達をスルーして、ムイがジーザスに声をかけた。
「ジーザス!ルーナに加えて活発系ボーイッシュ女子も加えて戻ってくるなんてな!」
「ムイ…お前なぁ」
「ボーイッシュ系女子の彼女、お名前は?」
ムイがロギアを見てにやついている。ルーナとはまた違った魅力のロギアも好みなのだろうか。それを見てロギアはにこりと微笑みながら挨拶する。
「どーもぉ♪クラウンの特務隊長、ロギア・デュークスでーす!宜しくお願いします」
「おぉ、クラウンの特務隊長!噂には聞いていたよ。私がオズボーンファミリーのボス、アーロンだ。鼎さんには世話になったよ」
(やっぱ親父と鼎さん、顔見知りだったのかよ…)
握手をするロギアとアーロンを見てジーザスは溜め息をつく。そしてちらりとハザードを見る。この男は本当に大丈夫かどうか…。すると、ジーザスの後ろからハザードがスッと前に出た。ジーザスが「あ」と驚く間もなかった。
「…初めてご挨拶します。私、ハザード・ディザリウスと申します。バレリアスにて体質者および体質能力の研究をしておりました。この度、息子さんとルーナ・グレイシア嬢と会い、縁あってこちらに馳せ参じた次第でございます」
「っ…!?」
「!?」
(なんかめっちゃ礼儀正しい!!?)
突然の事態にジーザス、ルーナ、ロギアは唖然とした。そこにいたのは先程までの陰険堅物科学者の顔ではなく…そよ風のような爽やかさと笑顔を浮かべ、物凄く丁寧な口調で挨拶をするハザードの姿であった。もはや誰だ。何者だ。ハザードなのか。本当にハザードなのかこいつは。あまりの衝撃に固まる三人だが、元のハザードを知らないアーロン達には好印象のようで…。
「おお、バレリアスの科学者とは君だったか。それでは、君がルーナちゃんを治してくれたのか。ありがとう、我がファミリーの客人を救ってくれたこと、礼を言う」
「とんでもございません。苦しむ体質者を救うのは我が務めの一つにございます。この度は聡明なご子息から誘われまして」
いや確かにハザードはルーナを救った恩人だが。普段のハザードなら絶対に「聡明なご子息」なんて言わない。あまりにも違いすぎる!かなりキャラを作っている!ジーザスが事前に感じた不安は全く当たらなかった。ハザードも大人ということだったのだろうか。きちんと態度を整える場では整える。そのハザードの様子にアーロン側の二人も自己紹介を始めた。
「おっと、こちらも名乗らせてもらうよ。俺はシェンノ・カルヴァスと申す。こちらは倅のムイだ。オズボーンファミリーでは一応幹部をやらせてもらっているよ」
「チーッス!ムイでーす。ロギアちゃん、あとで連絡先交換しようぜ」
ムイと、彼の父親のシェンノ。オズボーンファミリーでは天才的なハッカーとして知られ、息子同様に機械などにも詳しいインテリ幹部。年齢的にはアーロンやもう一人の男と変わらない中年男性だ。そして息子のムイはちゃっかりロギアに手を振っている。
「…俺はテルボロ・ハーロックという。俺もまた一幹部に過ぎないが、宜しく頼む」
「またまた~こんなこと言ってるけどテルボロはウチじゃ唯一の体質者なんだよ。そして組織一番の戦闘要員だからね」
「ほう。差し支えなければ、どんな体質能力なのか教えて頂けませんか」
体質能力の研究者として知識欲があるのか、ハザードはアーロンが言ったテルボロの能力が気になったようだ。
「我が体質能力は『
地紋』だ」
「地紋…大地の力を借り、小規模な地震や岩石を使役できる能力ですね」
「へえ…」
テルボロの言葉にハザードが能力の内容を一発で当てる。そこはさすがに体質能力研究の科学者。さらに二人の会話を聞いてルーナが小さく呟いた。ルーナにとっては出会う体質者すべてが未知の存在。テルボロも声を発したルーナの方を向く。
「…アーロンから聞いてはいたが、我らが不在の間にヴェルヌの刑事がやって来ているとは。しかも、その娘が氷麗の体質者とはな」
「だが、ジーザスらしくて良いではないか。発熱したと聞いたが、ハザード殿のおかげで治ったようだしな」
テルボロもシェンノもアーロンから事情は全て聞いているようで、今になってルーナを置くことに異存は無いらしい。後はここからだ、とジーザスが説明する。
「親父、テルボロの叔父貴、シェンノの叔父貴。頼みがあるんだ」
「なんだ?お前が頼みごとなんて珍しい」
アーロンは笑みを浮かべつつ、ジーザスを見る。だが、息子の表情がいつにもなく真剣なもので、すぐに笑みを消す。
「……俺達の戦うべき敵がいるんだ。…ハザードがルーナを治してくれた後、俺達は体質者の刺客に襲われたんだ」
「!体質者の刺客だと…何者だ?」
「そいつは誰かに雇われていたみたいだった。ルーナ自身を攫おうとしてたんだが…ハザードが助けてくれてよ。背後にいる黒幕は、俺がルーナを誘拐したってことにしたがってるヤツなんじゃねえかって。その後、俺達はこのロギアと会って、ジャポンにあるクラウン本部へ行ったんだ。そこで司令の鼎さんと話をした結果、オズボーンファミリーを嵌めようとしている黒幕を誘き出すことにしたんだ。必ず黒幕は動き出す…そこを捕まえるってな」
「……事態はそこまで動いていたか」
アーロンは真剣な表情になって息子の言葉を聞いた。テルボロとシェンノの二人もアーロンの顔をじっと見つめ、話を聞いている。いつの間にか三人の顔はマフィアそのものになっていた。
「…それで、ロギアをルーナの護衛として、ハザードを俺の剣の師匠として迎えたい。俺は…今回の一件で自分の弱さを再確認した。もっと強くなってルーナを守るために…ハザードに鍛えてもらいたい。ハザードの剣の腕の強さは確認済みだ。…この二人をファミリーに置いて、俺達が黒幕と戦うことを認めてほしい」
「ジーザス…」
ルーナは、ジーザスが自分を守ると言ってくれたことにほんのり頬を染めつつ、決意を父親達に伝えるジーザスの背中を見つめていた。しばらく押し黙っていたアーロン達。沈黙が続きかけたのを察し、ハザードが口を挟んだ。
「…私がここへ来たのも、ご子息のお話通りなのです。私はご子息に剣を教え、ルーナを守り、黒幕と戦うために来ました。…私はバレリアスで体質者の刺客と対峙しましたが、背後には何者かの陰謀を感じました。オズボーンファミリーを陥れようとする深い悪の気配です。…私は研究者故、オズボーンファミリーに深く関わる事はできません。ですが、この一件、研究者として、体質能力を悪用する輩を見過ごす事も致しかねる。…どうか、ご子息に協力させていただけませんか」
「……ハザード殿」
相変わらず丁寧だが、強い意志を持つハザードの話を聞いて、改めて深く考え込んだアーロン達。しばらくしてから、いきなりアーロンがむすっと口を尖らせた。
「ジーザスちゃん!なんでそういう重要な事、相談なしに決めちゃうかな*!本来ならボスである私に一言相談すべきでしょ!」
「う……それは…悪ィ……」
「全く。あとで鼎さんに連絡取っておくけどな」
「っ…」
確かに父親に相談しなかったのは間違っていたかもしれない。あの時はただひたすらにルーナを守りたくて必死だった。だがアーロンは再び笑みを浮かべた。
「…だが、よくやった」
「!親父……」
「俺でもきっとそうしていたさ。とりあえず、ルーナちゃんを守り、同時にオズボーンファミリーを嵌めようとしているその黒幕とやらを捕まえる。そして、ハザード殿、ロギアちゃん。君達をオズボーンファミリーの客員構成員として迎える」
客員構成員とは、正式な構成員ではなく、外部から迎える構成員のこと。ロギアはクラウン本部の特務隊長であるということもあり、オズボーンファミリーに正式加入はできないだろう。そしてハザードも先程本人が言った通り、オズボーンファミリーに深く関わる気が無いと言っていた。だからこそ、二人の待遇は客員構成員ということだ。アーロンは笑顔を浮かべつつ、テルボロとシェンノに意見を求めた。
「テルボロ、シェンノ。異存は無いか?」
「お前はそうするだろうと思っていたさ。…黒幕とやらの件だが、オズボーンファミリーに恨みを持つものは多い。これもまたそのひとつかもしれない。クラウンも特務の隊長を護衛に付けてくれただけあって、全面的に協力してくれるだろう。それにルーナ嬢自身が狙われていて、故郷へも帰れないのであれば、ウチで保護するべきだしな、俺は反対しない。…ジーザスが自分で決めた事なら尚更な」
「俺もテルボロに同意見だ。オズボーンファミリーは『人を守る』組織だからな。困っているお嬢さんがいる、そして俺達の組織が狙われている。二つも理由があるなら、動かない理由は無いぜ」
テルボロもシェンノもアーロンの方針に賛成らしい。ジーザスはほっと一息つく。
(よかった…これで親父達も協力してくれるな…。そうと決まれば…)
ジーザスは真剣な表情を浮かべたままのハザードを見る。
「ハザード。早速、鍛錬を始めさせてくれ!部屋に案内するから、荷物を置いたらすぐ始めたい」
「……」
先程までのアーロン達への丁寧な態度とは真逆に、ハザードは特に返事もせずに頷いただけだった。やはりジーザスへの態度はひどい。
「っ……じゃあ、ロギアも部屋に案内するから。ルーナは前に寝た部屋あっただろ?あそこを自分の部屋にしてくれていいから」
「オッケー。ありがとね」
「ありがとう、ジーザス」
ジーザスはロギアとルーナにも声をかける。そういえばルーナはブリタナに来たその日に体質能力を発現して倒れたから、自分の部屋に案内されていなかった。倒れたルーナが寝かされていた部屋は空き部屋だったので、そのままそこを自室として活用してもらおうというジーザスの意向だった。そこでムイがビシッと手を上げてロギアに駆け寄る。
「じゃあロギアちゃん、部屋に荷物を運んだ後は俺がブリタナを案内するから!」
「えっ、いいの?ありがと、ムイ君!ルーナも一緒に行こ」
「う、うん。でもムイと二人で行った方が…」
「何言ってんの。アタシはルーナの護衛なんだから。それにルーナもろくにブリタナの街を回れてないんでしょ?だったら一緒に楽しもうよ!」
「美女二人に囲まれて散策なんて最高だぜー!」
ロギアとルーナを連れて街へ行く事が決まったようで、ムイは感涙している。その様を呆れた目で見るジーザスとハザード。
(あいつ…ルーナに手を出すなよな…)
(…やはり喧しい連中は嫌いだ)
その時、ジーザスはある事を思い出して父、アーロンに話しかける。
「あ…そうだ。親父、この刀…黒烏、ありがとな」
「おお。武器屋の親父さんにもらってきたか。どうだ、使い心地は」
「…俺は刀に慣れてねえから。だからハザードに習うんだけどよ」
「そういえばハザード殿の腰にも立派な刀がありますな。それももしやジャポンの妖刀かな?」
「…はい。鬼神といいます。…息子さんに聞きましたが。…よく、妖刀を手に入れられましたな。かなり希少で、手に入りにくいもののはずですが」
「まあな。俺の人脈も、じいさんの代から継いだものも多いからな。ま、ルートは秘密ってことさ」
肝心の妖刀の入手方法は明かさないアーロン。ハザードはそれ以上追求しなかった。オズボーンファミリーの人脈、それは初代ボスであるジェイムズ・オズボーンから受け継がれた広さがある。世界的に希少な妖刀を手に入れられたのも、そんな人脈によるものだったのだろう。ジーザスは思わず腰にさした黒烏に触れた。未だに妖刀にも謎が多い。それもハザードに教えてもらいながら鍛錬を積んでいきたい。
(これから始まる……俺達の本当の戦いが…。強くなって、必ずルーナを守るんだ……)
ハザードとロギアを仲間にしてオズボーンファミリーでの新たな生活が始まった。だが、ジーザス達はこの時まだ知らなかったのだ。既に黒幕が動き始めていることに。…ただ一人、ロギアだけは不思議な予感を感じていた。
(………何か…
来てるなぁ…。近くに…嫌ーな気配が……)
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ブリタナの街のとあるカフェ。普段から島の人々が楽しそうに午後のティータイムを楽しむ人気店だ。小洒落た内装で、屋外のテラス席からはブリタナの街並みと美しい海が見える。
現在、夕方に差し掛かる頃の時間帯は客が少なく、店内には何人かの客がいるが、テラス席には客がたった一人、若い女性しかいない。
その女性は、海がよく見える一番端のテラス席でアイスティーを飲みながら
小型電素通信機で誰かと通話をしていた。白いワンピースに鍔の広い白い帽子が特徴的な二十代後半くらいの女性で、通話する声色は女性にしては低めで落ち着いている。
「ええ。ブリタナに到着しました。…平和な街ですわ。…はい、問題ありません。ご命令通り、任務は遂行します。……小娘一人、どうってことありませんことよ。このキャスリンにお任せを」
キャスリンというその女は帽子の下でニヤリと不敵に微笑む。そして彼女が右手で持っていたアイスティーのグラスが突然、粉々に砕け散った。女性の細腕では絶対にこんなことできるはずがないだろう。グラスの割れた音に気付いた若い男の店員が店内から出てきてテラス席の様子を伺いに来た。
「…?あれ?確かに誰かいたような…」
店員がテラス席を見た時にはそこには誰もいない。残されていたのはテーブルの上に散らばった割れたグラスの破片とアイスティーの液体。席には誰もいない。その不可思議な状況に店員は首を傾げてしばらく立ち尽くしていたが、その場の片付けを始めた。既に、ブリタナにも魔の手が迫っていることを暗示させるような不気味さが漂う。その手がルーナに迫るのは近い…。
19.シンクロファミリシティ
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