ロギア達が衝力の体質者の刺客、キャスリンを倒してからすぐ、オズボーンファミリーの構成員達が四人ほど駆けつけてきた。騒ぎに駆けつけるのが遅れてしまい、申し訳なさそうに頭を下げたが、ジーザスは苦笑いしてすぐに許す。
そしてすぐに構成員達は倒れているキャスリンを起き上がらせ、オズボーンファミリー邸の近くにある犯罪者用の留置所に連れて行こうとする。バレリアスで襲ってきたレンツ同様、今回の一件の刺客はクラウン本部で逮捕することになった。この後、ブリタナの留置所で一時的に置いた後、転移術式を使って送還するつもりだ。
構成員達に両脇を固められたキャスリンは意識はあるらしく小さく呻いたが、体に力が入らないらしい。連行しようとしたところをロギアが止めた。
「あ、ちょっと待って。……ねえ、キャスリン。アンタの依頼主って誰よ。もう負けたんだから依頼主に忠誠誓わなくたっていいでしょ?それにコッチに捕まれば、悪いようにはされないよ。ねっ?ジーザス」
「ああ。勿論だ。命は取らねえし。とりあえず依頼主…一連の黒幕を教えろ」
「っ………そんなこと…言ったら…私の命が……『ソイツ』に消される…」
キャスリンはぼんやりとした意識の中でも困惑と戸惑い、その中にどこか恐怖を抱いた口調だった。依頼主を明かせば自分は消されかねない…それはつまり依頼主の存在がそれほどまでに大きな権力を持った人物ということだろう。
「け、消されるって…」
「…相手は大物か」
怯えたようなルーナの隣に歩いてきたハザードが呟く。
「どっちにしろ、計画に失敗した暗殺者は始末されるよ。だったら、クラウン本部に逮捕された方が絶対いいと思うけどね」
「…………っ」
クラウン本部で既に逮捕されているレンツも依頼主について話していないらしい。あの男は見かけによらず口が固い。だからこそ今、キャスリンに聞いている。キャスリンは迷っているような表情で、もっと押せば聞き出せそうだった。
「…私のことは…必ず保護してくれるのよね…」
「約束するよ。オズボーンファミリーもクラウンも必ずあなたの身の安全を保障するわ」
このロギアの言葉がトドメになった。依頼主の正体を明かしてこの一件から足を洗い、クラウンに安全を確保された状態で逮捕される。その方が暗殺されるよりずっと良い。キャスリンは小さな声で話し始めた。
「…………『白雪計画』…」
「?しら…ゆき?」
「キュ?」
「!何だと……」
本当に小さな声だったが、キャスリンが呟いた声をルーナが聞き返し、それをさらに彼女の肩に乗る雪が鳴いて聞き返す。それは誰もが知る童話のタイトルのようだったが、何故それがここで出てくるのか。
しかも、最後に「計画」という妙な言葉まで付いている。その言葉にルーナやジーザスはハテナマークを浮かべ、ロギアは何か考えていたようだったが、唯一人、ハザードだけがあからさまに動揺していた。ハザードのこんな姿は誰も見たことがない。
「お、おい、ハザード、お前何か知ってんのか?」
「………何故、貴様がその言葉を知っている……」
ハザードはジーザスの問いには答えず、凄まじい表情でキャスリンを睨んだ。冷静なハザードとは思えないほどの強烈な意志。明らかに何かを知っている表情だった。ロギアが続きを促す。
「……説明してくれるかな。キャスリン」
「…私の…依頼主の…目的よ…。奴は…そのお嬢さんを使って…やばい計画を実行するつもりよ…。それが『白雪計画』…」
「白雪計画……。一体何をする気だよ…」
ジーザスには見当もつかない。ただ、レンツやキャスリンがルーナを連れ去ろうとしていたのは、依頼主がその計画にルーナが必要だったからだとわかる。
「私も詳しくは知らないわ…ただ、聞いたのは……『体質者を使った兵器』を作る計画ってこと…」
「!体質者を使った兵器だとッ!?」
思わずジーザスが叫んだ。
「強い体質能力を持つ体質者から生きたままエネルギーを抽出して動かす魔導力兵器…そのエネルギーになるのがそこのお嬢さんって話よ……」
「わ、わたしが…兵器の…っ…」
ルーナは自分の身がそこまで恐ろしいことに利用されようとしていたことを知り、顔面蒼白になって思わず口に手を当てた。生きたままエネルギーを抽出するというのはどういうことなのか。どんなことをされるのか。怯えるルーナの肩を抱き、宥めるジーザス。
「ルーナ…!そんなことはさせねえから…落ち着け」
「キュゥゥ」
雪も不安そうにルーナの頬に擦り寄って慰めようとしているらしい。その隣で今まで静かにキャスリンの話を聞いていたハザードが突然、声を荒げた。
「…貴様。その話を…誰から聞いた!誰がその計画を進めている!!」
「ハ、ハザード!お前も落ち着けって!」
急にハザードはキャスリンに怒鳴りつける。先程から冷静さを失っているハザードをジーザスが止めるが、本当に彼はどうしてしまったのだろうか。白雪計画の名を聞いてから様子がおかしい。だがキャスリンは小さく不敵に笑う。
「…滑稽ね。依頼主…白雪計画の首謀者はお嬢さんもよく知ってる男なのに」
「えっ…?」
「依頼主もよく友人の娘を誘拐して兵器に転用しようとするわよ…やっぱりおかしいわ…」
「…!ま、待って!…友人の娘って…」
ルーナは既に嫌な予感がしていた。強い権力を持ち、自分の親の友人となれば…ただ一人しか思い浮かばない。それをわかっているのか、キャスリンはニヤリと笑い、その名を口にした。
「…ヴェルヌ警察長官…ネレイド・デルスフィア……それが私の…依頼主、よ…」
「!!ちょ、長官が…そんなっ…!」
「…ヴェルヌ警察のトップだねぇ」
驚きを隠せないルーナと、冷静に呟いたロギア。
そう、ルーナを狙い、オズボーンファミリーを嵌めようとしていたのは…ヴェルヌ警察を率いる長官にしてルーナの父、ジムの親友…ネレイド・デルスフィアだった。同時に…白雪計画という恐ろしい計画を進めている張本人。さすがにジーザスも驚きを隠せない。まさかのヴェルヌ警察そのものがそこまで進めているとは。
「ヴェルヌの警察が…こんなことしでかしていいっていうのかよ!警察は正義の味方だろうが!ルーナを誘拐して…そんな馬鹿げた兵器の計画を進めてるっていうのかよっ!」
警察は人々を守り、犯罪者を捕まえる正義の象徴でなければならない。オズボーンファミリーと違い、「光の正義」であるべき存在だ。その頂点に立つ人物がそんな恐ろしい計画の首謀者であること、オズボーンファミリーに罪を着せて悪役にしようとしていること、何よりルーナを危険な目に遭わせたことが許せなかった。
「まさかヴェルヌ警察の長官が黒幕とはねぇ。なかなかの大物だわ」
「ちょ、長官は…お父さんの昔からの友達なのよ。そんなっ…長官がこんなことするなんて信じられないよ…!」
「でもまあ、最初はルーナが誘拐されたって噂を流してオズボーンファミリーに誘拐犯の罪を着せることだけが目的だったんだろうね。だってルーナが体質能力に目覚めたのってブリタナに来た時でしょ?それまでは向こうも、ルーナが体質者だってことは知らなかったんだろうし」
「た、確かにそうだと思うけど…」
ロギアの推測通り、ルーナが体質者だとわかって初めて、白雪計画に利用することを思いついたのだろう。オズボーンファミリーを誘拐犯に仕立て上げること、ルーナを連れ去り、白雪計画のエネルギー源として利用すること。ネレイドにとっては二つの目的が一度に達成できてしまう、ちょうどいい機会だったのだろう。
「でもこれで…敵はハッキリしたんだ。…ネレイド・デルスフィア…俺が必ず倒す!」
「………」
決意を口にしたジーザスだったが、ハザードは今度は考え込んでしまった。その間にキャスリンが力尽きて意識を手放す。どうやら気を失ったようで、黒服達が慌てて抱えて留置所へ走っていった。連れて行かれる際、ロギアが黒服達に「後でクラウン本部へ転移させるから」と言っておいた。
「…はぁー。でも困ったね。相手は警察のトップだよ。ここでジーザスが黒烏握って警察署に殴り込みに行っても、ネレイドに会えないまま絶対すぐ逮捕されるよ。しかもネレイドの目的の一つにオズボーンファミリーを嵌めることが入ってるでしょ。やってない罪とかも乗せられて危険だと思う」
「う……確かに…」
「でも…長官はなんでオズボーンファミリーをそこまでして…」
「……おそらくだが。…オズボーンファミリーは世界で悪党や魔物の退治をしている。その中の事件で、ネレイド自身が関与していたか、触れられては困るものがあったのだろう。これ以上続けられると自分の邪魔になる…そこで友人の娘の刑事がオズボーンファミリーと行動を共にしていたという情報を得て、オズボーンファミリーに誘拐の罪を着せて逮捕、または殲滅する大義名分を得たということにしたいのだろうな」
「まあそんなところだろうね。問題はネレイドをどうやって捕まえるか。正面からは難しいだろうし」
ハザードの推測通りならば、いずれネレイドは警察として攻め込んでくるのではないか。ブリタナが銃撃戦の現場になることは避けたい。
そしてロギアの言葉のように、ネレイドを捕まえて真実を知らしめる方法を考えなくては。うーん、と悩むジーザスとルーナ。その様子を見て、ハザードはしばらく無言になった後、改めて三人に言う。
「……ちょっといいか」
「ん?どうした、ハザード」
「…ハザード?どうかしたの?」
どことなく、ハザードは緊張しているように見える。先程まで激情的だったかと思えば、今は落ち着いている。
だが、何かを決めたような雰囲気でもある。一体、何を考えているのだろうか。キャスリンの口から白雪計画の名を聞いてから、ハザードの精神が落ち着いていないようだった。
「……屋敷に戻り次第、話したいことがある。…それは俺の過去に関することだ。……もう二度と人には語らないと決めていた。だが………これを話さなくてはならない時が来たのだ」
「えっ……ハザードの、過去…?」
「な、なんでそれを今、俺達に…」
「……」
戸惑いを隠せないルーナとジーザス。今、ネレイドのことで悩んでいた状況で、突如としてハザードが自らの過去を語ると言う。その話を聞き、ロギアだけが何も言わなかった。
「…これは…今後に関わることでもあるからだ。ネレイド・デルスフィアを倒すための手がかりになるかもしれん」
そう言ったハザードの表情はどこか悲しみを帯びているように見えた。思い出したくない過去を語ろうとしている…そんな思いが溢れているようで。ジーザス達は何も言うことができなかった。
ハザードは出会った時から今まで、謎だらけの人物だ。何故、たった一人、バレリアスの外れで体質能力の研究を続けているのか。家族はいないのか。
素性が知れないにも関わらず、ジーザスが彼を誘ったのは剣術の腕だけでなく、その心の根底にある何かを感じ取ったからでもあったが…その心を隠す何かが今、晴れようとしている。
「…そして、これは……ルーナ。お前にも深く関わってくる」
「えっ。わたしに?」
自分の名前を出されて思わず驚くルーナ。ハザードの過去にどうして自分が関わっているのか。勿論、ルーナ自身はハザードと会ったのはバレリアスのホロウグレーでの一件が初めてだ。
「ああ。…とりあえず、屋敷に戻るぞ。全てはそこからだ」
そう言うとハザードは屋敷へ向かって歩き出す。屋敷に戻り、アーロン達に報告もしなければならない。
ジーザス、ルーナ、ロギアは顔を見合わせたが、すぐにジーザスの後を追って歩き出した。ハザードの過去がどのようなものなのか、白雪計画やネレイドとどう関わっているのか、不安と謎を心に宿して。
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「大統領のサインも頂きました。明日、オズボーンファミリーを殲滅致します」
その冷たい言葉がヴェルヌ中央警察署の会議室に響いた。その場にいた刑事達や管理官達は突然の事態に驚きを隠せない。部屋の中にはルーナの父、ジムもいて、テーブルを強く叩いて思わず立ち上がる。その表情は怒りに満ち、真っ赤になって、まるで野生の熊そのものだった。
「ネレイド!!貴様!!ふざけるな!娘の命が懸かっているのだぞ!!オズボーンからのコンタクトも無い現状で殲滅戦だと!?娘が殺されでもしたらどうする!!!」
「落ち着いて下さい、ジム。コンタクトが無いからですよ。連中はルーナ巡査を交渉の材料にするつもりはないようだ。だとすれば彼女の身が危ない。だからこそ、早急に奴らを殲滅し、ルーナ巡査を救出するのです」
「知っているぞ、ネレイド!ヴェルヌ警察からはオズボーンに何もコンタクトをしていないそうだな!使者も送らず、メッセージも送らず!手をこまねいていただけではないか!!こちらから奴らにルーナを解放するようコンタクトすれば、何か事態が変わるのではないか!」
「もう遅いのです。奴らは所詮、島に引きこもる犯罪者だ。そしてあの島の住む連中も皆、犯罪者の手先。どうなろうと知ったことではない。我々が最優先すべきはルーナ巡査の命でしょう」
「貴様ぁ!!人の命をなんだと思っている!!島の人々も犠牲にするつもりか!」
「か、課長ー!!止めて下さい!」
「ダメですよ!落ち着いて下さい!!」
思わずネレイドの胸倉に飛びかかろうとしたジムを部下の刑事達が必死に止め、現場は騒然となった。
ジム自身は犯罪者であろうと、けして命を犠牲にさせないことを心に決めていた。犯罪は許せないが、犯罪者本人を殺すことはしなかった。逮捕し、更生させ、真っ当な人間になってほしい。それがジムの正義であった。
だからこそ、ブリタナを巻き込んでオズボーンファミリーを殲滅するというネレイドの考えには真っ向から反対した。それが娘の命が懸かっていたとしてもだ。それに、ヴェルヌ警察がルーナのために動いていないことは勘付いていた。本来なら、正式にオズボーンファミリーに対してメッセージを送っていてもいいはずだ。明らかにネレイドは何かを隠して行動している。
すると、部屋に突然ノックが響き、ネレイドが「どうぞ」と答え、十人ほどの人物達が部屋に入ってきた。その人物達の二、三人は白衣を着ていかにも研究者風の容姿であったが、残りは皆、カーキ色の殊部隊風の服装をした男達だった。
「な、なんだこの人達?」
突然の第三者の登場に驚く刑事達にネレイドが説明する。
「彼らは私の直轄の組織で、戦闘部隊と、研究チームです。今回の作戦に協力してもらうことになりました。ああ、戦闘部隊はもっと人数がいますので」
「協力…だと…?ネレイド…貴様、何を」
「オズボーンファミリーには強力な体質者が一人と、戦闘に長けた連中がいますから、ここにいる刑事課の皆さんだけでは不安なので召喚したのです。刑事課の皆さんは後方支援でもお願いします。戦闘部隊は体質者との戦闘にも長けている他、研究チームでは体質者のエネルギーを奪う装置を開発しました。それを持参し、共にブリタナに向かってくれます」
あからさまに刑事達ではなく、この直轄組織をメインで送り込む予定らしく、ネレイドは饒舌に話す。最早、刑事達などどうでもいいのだ。名目上、「刑事達によってルーナを救出する」ということにしておきたいだけ。
最早、勝手に事が進められ、しかもこんな荒々しい作戦が実行されようとしていることにジム達刑事は怒りと、どこか恐怖感を感じていた。
「ネレイド…!貴様、何をするつもりだ!」
「言ったでしょう、ジム。……君の娘を助けに行くのですよ。君とて、人生で最も愛する娘が…何よりも、大事でしょう?」
全てを見透かしたようにネレイドは不敵な笑みを浮かべる。ジムがルーナを何よりも愛していることをわかっていて言うのだ。ネレイドは「オズボーンファミリーやブリタナの人々の犠牲があっても、ルーナが無事に戻ってくるのなら」というジムの心の奥底にある思いを利用しているのだから。
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オズボーンファミリーに一旦戻ったジーザス達。黒服達が部屋の外で警備する客間の一室で、キャスリンという刺客が現れたが無事に倒して捕縛したこと、黒幕の正体と白雪計画のことこれからハザードが重要なことを話したい旨をアーロン、テルボロに伝えた。
何故かその場にはムイとその父、シェンノの姿がなかったことが気がかりではあったが、先程起きたことをすべて伝え、アーロンはしばらく考え込んだ後である提案をした。
「とりあえず、込み入った話のようだから…ハザード殿も人数が多いと話しづらいだろう。ジーザス、ルーナ、ロギアちゃん。君達だけが聞いておきなさい」
「えっ?俺達だけ?」
「…アーロン殿。俺は別にあなた方に聞いて頂いても…」
「……ハザード殿、君が自分の過去を知ってもらいたいと思ったのは息子達だろう。我々は今回の事態の秘密を簡潔に知っておければ問題ない。今から君が息子達に語ろうとしているのは…ただ単に白雪計画とやらに関することだけでなく、君個人の辛い経験も入っているのだろう。それを我々が聞く権利は無いからね。我々には後で、計画に関わる概要だけを教えてくれればいい」
「……」
アーロンは一瞬で、ハザードが過去に何か辛い経験があることを見抜き、ハザードも図星だったようだ。
ハザードの過去に何かあったのは明白だが、それを話そうと決意できたのはジーザス達に対して少なからず信頼を寄せたからだろうか。ハザードは小さく頭をさげる。
「…申し訳ありません。必ず、後で概要はお伝えしますので」
「いやいや、良いさ。それじゃあ我々はちょっと用事があるので失礼するよ」
「ジーザス、ちゃんと聞いとけよ」
「お、おお。そういや、ムイとシェンノの叔父貴は?」
アーロンとテルボロが部屋を出て行こうとした時、ジーザスはムイ達の居場所を二人に尋ねた。
「ああ、あの二人ならタブレットとにらめっこしてたさ。あいつらにも後で概要を話してやってくれな」
「承知しました」
再びアーロンは手を振って、テルボロと共に部屋を出て行く。
「…悪いことをしたな。お前の親父には」
「いや、親父は気にしちゃいねえさ。テルボロの叔父貴もな。…辛いことってのは大勢に言うもんじゃねえしな」
「…フン。息子の貴様より数倍人格者のようだ。アーロン・オズボーンは」
「テメェな、一言多いんだよ!」
日常的な口喧嘩に発展してしまうハザードとジーザス。やはりこの二人は本当に相性が悪いらしい。そんな二人を止めるルーナと雪、苦笑いするロギアの図。
「もぉ!喧嘩しないの!」
「ムキュー!!キュー!」
「あはは、これじゃ話が始まんないじゃん*さっさと話してよ、ハザード」
「黙れ、じゃじゃ馬が」
「あぁ!?」
「ロギアまで参加しないの!!」
ハザードの一言でロギアも立ち上がり、向かいの席のハザードを睨みつける。拳を握っているあたり、殴りかかりそうだったのでまたもやルーナが止め、一同はソファーに座った。正直、ルーナだけでは手がかかる面々だ…。
「…話をする前に、俺は準備しておくことがある。先に部屋で待っていてくれ」
「準備?」
「…あとで説明する」
それだけ言うとハザードは与えられている自室へ戻っていった。結局、何の準備なのかは不明だが、準備をしなくてはいけないほどの何かなのかとジーザスとルーナは緊張していた。そんな二人を見てロギアはにこりと笑う。
「平気だよ、多分」
「ロギア…」
「ハザードは確かにこれから重大なことを話そうとしてるんだろうけど、それは…ジーザス達を認めたから話すんだと思う。それにこれからのことにきっと深く関わってくるからさ。アタシ達は受け止めるだけだよ」
「…そう、だね。…ハザードがどんな話をするとしても、わたし達は…きちんと正面から受け止める。ハザードは優しい人だから、何があっても大丈夫だよ」
「……ああ、わかってるさ。ハザードがどれだけ重い過去を背負っていても、今は…俺達の仲間だもんな」
三人がそんな会話をしてしばらくすると、ハザードは部屋に戻ってきた。手にはオルゴール箱を少し大きくした程度の木箱を持っている。
「…待たせたな」
そう言いながら、ハザードは手に持っていたそれらを中央にあるテーブルの端にそっと置いた。不思議と、それが何なのか、とは何故か誰もたずねることができなかった。
これで完全に部屋には四人、…と、ルーナの膝の上の雪が一匹。ルーナとロギアは二人掛けのソファーに並んで座り、ジーザスとハザードは一人掛けのソファーに座っている。席順としては、ロギアとルーナ、ジーザス、ハザードの順で中央にあるテーブルをコの字型で囲んでいる状態だ。テーブルの上にはオズボーンファミリー構成員が用意してくれていた紅茶のティーポットとティーカップが人数分置かれているのと…先程ハザードが置いた木箱と写真。
「…これから話すことは…俺の過去であり、白雪計画に大きく関係することだ。…それをふまえて聞け」
「……ハザード…」
ぽつりぽつりと話し始めたハザードを不安げに見つめるルーナ。その視線に気付き、ハザードはルーナを見つめながら言葉を紡いでいく。
「…十三年前だ。俺は…バレリアスの若い科学者だった。…生まれつき、
透視の体質者だった俺は…自らの持つ力のことを研究したくて体質能力専門科学者になった。だが、いつしか自分の力だけなく、全ての体質能力について調べたいと思うようになり…大学を出て、バレリアスで最も偉大な王立体質能力研究所に招かれたんだ」
「…王立体質能力研究所っていったらバレリアスどころか世界中で一番の超名門研究施設だね。若い科学者がそんなところに入れるなんて並大抵じゃないくらいすごいよ」
「そ、そうなんだ…」
さすがクラウンの特務部隊隊長であるロギアは王立体質能力研究所の存在を知っており、ルーナがロギアの知識とハザードの実力に感心していた。ハザードはどこか遠い目で話を続ける。
「…確かに俺は必死だったからな。あの頃は若く…希望を胸に抱いていた。……その頃だった。…俺は…運命を変える出会いをした」
「?出会い?」
ジーザスが聞き返すと、ハザードは口を開くが一瞬、声を出すのを迷って黙った後、ようやく言葉を発した。
「…一人の女だ。俺が出会った……その女は…」
そしてすっとハザードは正面に座るルーナを指差した。
「…
お前と同じ顔をした女だった。…ルーナ」
「……えっ?……えっ!?」
21.白雪計画
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