夜が更けていく中、満月がブリタナの街を照らす。住民が避難した街の中ではオズボーンファミリーの構成員とクラウンの隊員達の連合が、ヴェルヌ警察長官ネレイドの率いる戦闘部隊との戦いを繰り広げていた。
そしてオズボーンファミリー邸の玄関前では全ての黒幕ネレイドを前に、ジーザス、ハザード、ルーナが相対していた。

「…これはこれは。オズボーンファミリーのご子息殿と……ふむ、情報にはない顔だな。…いや、どこかで見た顔だが…」

ネレイドが顎に手を当てて思考していると、ロギアに向けて戦闘部隊の男がサブマシンガンを連射してきた。だがロギアは弾丸を全て蒼月で斬り、その男を蹴り上げてから蒼月で斬り、気絶させる。

「あぁーもう、数が多いなぁ。皆、そっちは任せたよ!アタシは雑魚共を片付けてからそっち行く!」
「おお!頼むぞ、ロギア!」
「ロギア、気を付けて!」
「まっかせなさーい!」

ロギアが戦闘部隊とオズボーンファミリー構成員達の入り乱れた戦いの方へ走っていくと同時に、こちらでもハザードがネレイドに斬りかかる。ネレイドはロギア達の方に気を取られていたのでハザードの攻撃に油断したようだ。これは一太刀浴びせられる、とハザードは思った。そして鬼神がネレイドの体に触れようとした時。
−−ハザードの鬼神は空を切る。確かにネレイドに向かって刀を振り下ろしたはずなのに、その場にはネレイドがいなかった。それは直接斬りに行ったハザードだけでなく、それを見ていたジーザスもルーナも目の当たりにした。

「なっ!?」
「消えた…だと…」

だが次の瞬間、銃声が響き、ハザードの腕を掠める。

「くッ!」
「ハザード!」

ルーナが思わず駆け寄ろうとするが、ハザードはそれを手で制し、血が流れる腕を抑え、辺りを見渡す。消えたネレイドはどこかに潜んで銃撃してきたのだ。ルーナが近くに来れば、そちらが狙われかねない。
側にいるジーザスがハザードのまわりをキョロキョロ見てネレイドを探す。

「くそっ、なんでいきなり消えたんだ…!」
「…おそらく、アイツは…体質者だ」
「はぁ!?アイツも!?」

ハザードは先程の一瞬で見抜いていた。体質能力の科学者であるハザードだからこそ、あの現象が「ある体質能力」のものだとわかったのだろう。屋敷の扉付近にいるルーナにもそれは聞こえていて、ひどく驚いた顔をしていた。

「そ、そんな…長官が体質者…?」
「だ、だとしたら…アイツは自分が体質者だっていうのに、体質者を使った兵器を作ろうとしてんのかよ!?」
「…そういうことになるな」
「なんて野郎だよっ…!」

ジーザスは怒りに震えた。あのネレイドという男は自分自身が体質者でありながら、同じ体質者を苦しめる非人道的行為をしている。そんなことを兵器でやろうとしているあの男が許せない。
すると、再び銃声が聞こえる。ジーザスは直前に反応して避けたが、ジーザスの足元に銃弾が当たった。

「っ!」
「…あの女殺し屋が話したのか。全く、信用できないものだな。所詮、金で雇った連中など」

すると、何もない空間から霧が晴れていくように、スゥッとネレイドの姿が現れる。それを見てハザードはネレイドを睨みながら鬼神を構え直した。

「そうか…貴様の体質能力は『彩霧さいむ』だな…」
「彩霧…?」
「霧の如く自らの姿を背景に溶け込ませる力だ…。透明人間のような力だな…」
「そっか…!それで姿が消えたように見えたんだ…!」

ジーザスとルーナはハザードの解説を聞いて納得する。ネレイドが姿を消すのは、実際に消えたのではなく、背景に同化してこちらの目ではわからないという現象に過ぎない。
そして体質能力にやたらと詳しいハザードを見てネレイドは納得したように手を打つ。

「ああ!そうか、貴様は…バレリアスの王立体質能力研究所の生き残りの科学者…ハリー・ディランか!成程、納得だ。その顔、多少は人相が変わっているが、写真で見た顔だな」
「やはり貴様、研究所のことを知っていたか。白雪計画のことといい…何が目的だ」

ハザードは強くネレイドを睨みつける。この男は間違いなく自分の過去も知り、王立体質能力研究所のことも知っている。さらにルーナもネレイドを問い詰めた。

「長官!聞かせて下さい!どうして…どうして、正義の頂点たるあなたが…父の友人だったあなたが、何故こんなことをしたんですか!!オズボーンファミリーが何をしたっていうんです!それに体質者を使った兵器を作るなんて…本当なんですか!?」
「………甘いな、ルーナ巡査。本当に親子共々、甘いヤツらだ」
「!!そ、そんな…」
「君の父親は私を友と呼んでいるが、私はそう思ったことは一度もない」
「テメェ…」

友情を蔑ろにするネレイドに向け、ジーザスは憎悪の瞳を向ける。

「ハリー・ディラン。貴様の質問に答えてやろう。確かに体質者を使った兵器の製造…通称、白雪計画は元々は北の大国バレリアスの軍事計画だった。しかし、貴様が引き起こした研究所爆破事件により、その計画は中断され、必要なデータも塵となった。だが、研究所跡地に無事なデータが残っていたのだよ」
「!なんだと…」
「バレリアス軍はそれを回収し、再び白雪計画の再開を目指した。ところが、計画半ばにして白雪計画の発案者である国王が逝去。同時に軍でも多額の資金をかけた白雪計画を持て余すようになったのだ。発案者がいない今、どうするべきか。そして白雪計画は闇に葬られることになった…。…しかし、だ。白雪計画に関するデータは軍の最下層軍人によって裏ルートを通じ、私の元にやって来た。私は感動したよ…こんなにも素晴らしい兵器の存在があるなんてね。私は白雪計画を再開し、ヴェルヌを強大な軍事力を持つ国家に育て、この国のトップになるのだよ」
「そんなことのために…テメェは!」

光悦の表情を浮かべ、野望を語ったネレイドにジーザスは強く叫んだ。この男は異常だ。自らの目的のためだけに体質者を犠牲にしようとしている。

「…バレリアスは計画を手放したのか…ようやく全てが闇に葬られるはずだったのに…貴様が…!」
「おや、ハリー・ディラン。貴様が言えたことか?貴様は体質者の人体実験に関わっていたそうじゃないか。データの中には『研究所爆破の逃亡犯、科学者ハリー・ディラン』の名がしっかり記されていたぞ。…貴様が私を攻める権利はない。貴様と私は同じだ。白雪計画を進めていた人間だということを忘れるな」
「………」

ハザードは何も言わなかった。ネレイドの言うことは確かに正しかった。自分は人体実験に関与し、軍人と所長を殺して逃げた。それだけは言い逃れできない事実だから。
すると…

「違う!」
「…!」
「!ルーナ…」

叫んだのはルーナだった。

「違う…ハザードはあなたとは違う!!ハザードは脅されて、辛くて、悲しかった!すごくすごく辛かったの!!だけどあなたは人の命を何とも思っていない!!むしろその兵器を作って人を殺すことを楽しみにしているわ!そんなあなたと一緒にしないで!!」
「…ルーナ…」

ハザードは思わずルーナを見てその名を呼んだ。ネレイドにはそのルーナの姿が父親のジムと重なって見える。容姿は全く違えど、その眩しいまでの正義面。

「…気に食わないな…ルーナ・グレイシア…貴様が氷麗の体質者だと知って、これは運命だと思ったぞ。白雪計画の核、魔導力兵器のエネルギーとして最も最適なのは…氷麗の体質者だったのだからな…」
「!何だって!?」
「…そうか。いち科学者の俺には伝わっていなかったが…バレリアスでも、軍人共は執拗にエリナを渡すよう言ってきたのはそれが原因か。…だから『白雪』計画…」

研究所から逃亡する時、軍人はエリナを返すように迫ってきた。それはエリナが兵器のエネルギーに最適な氷麗の体質者だったからだろう。そして白雪計画の名前の由来がその氷麗の体質能力から来ていることもわかった。どちらにせよ、ルーナを守りきらなくてはいけない。そしてこの計画を終わらせる。

「…ジーザス、ハザード!わたしも戦うわ!!」
「!ルーナ!」
「…ルーナの力が必要だ。三人がかりでコイツを仕止めるぞ」

ルーナは腰のホルスターから、ハザードにもらった氷銃を抜いた。ルーナ自身が自分で決めた、かつての上司と戦うという決意。ネレイドの本性を知った今、もう彼を許すことはできない。

「長官!覚悟してもらいます!」
「氷の銃か。物珍しい」
「ルーナ、援護を頼むぞ!」
「うん!」

ジーザスが駆け出していき、ネレイドに斬りかかる。ネレイドは再び彩霧の能力で姿を消すが、すぐに距離をとって姿を現した。拳銃でジーザスを狙おうとすると、そこをハザードが斬りつける。隙を突かれたように見えたが、ネレイドはそれを避け、再び姿を消す。
その直前にネレイドの両手から虹色の光が放たれ、ジーザスの頬を掠めた。その光は熱く、ジーザスの頬は軽い火傷のようになっていた。最早、レーザーのような攻撃。

「くっ!」
「気を付けろ。彩霧は光彩も操る!奴の光に触れるなよ!」
「それ先に言えよな!」

ジーザスはハザードに叫びつつ、再び斬りかかる。だが、姿を消すネレイドはなかなか実体に攻撃できない。拳銃と虹色のレーザーという遠距離からの豊富な攻撃はこちらを苦しめ続ける。ジーザスとハザードが話している間に再びネレイドが姿を現して拳銃を向けてくる。
ネレイドはジーザス達を少しずついたぶって傷付けることを楽しんでいるようだった。だが、そんなネレイドの拳銃を握る右手が突然、銃声と共に凍りついた。

「!?何…」

ネレイドの右手は見事に氷に包まれ、発砲することができなくなっていた。ジーザスとハザードが後方を振り返ると、ルーナが氷銃を構えていた。あの攻撃は彼女が撃ったものだ。

「ルーナ!今の…」
「ジーザス!ハザード!今のうちだよ!!」
「お、おお!」

ルーナは多くを語らず、ジーザス達に今のうちに攻撃を仕掛けるよう叫んだ。拳銃を撃てない今がチャンス。ジーザスとハザードはネレイドに一斉に斬りかかる。しかし、寸前でネレイドは凍った右手から再び虹色のレーザーを放つ。
先程よりも動きが見やすかったため、二人はそれを避けられたが、ネレイドの狙いは二人への攻撃ではなく、その光の熱によってネレイドの右手の氷を解かすことだった。目論見通り、彼の右手の氷は熱で解け、元通りになる。

「いやはや…氷麗の能力を使った拳銃とは。面白いものだ」
「っ……!」
「…ところで…私に構っていていいのかな?」
「何だと!」
「先程の小娘とオズボーンファミリーの構成員だけでは…我が戦闘部隊には敵わぬのではないかな」
「!テメェ、何を…」
「特に何も。ただ、私の連れてきた戦闘部隊はまだいるのだよ。今そこで戦っているのはあくまでも部隊の一部に過ぎない。本隊は…今ここに来る!」
「!!」

そう、ネレイドは上陸した際に戦闘部隊を二手に分けていた。島の外周を回り、奇襲を仕掛けるための別働隊。今、ロギアやオズボーンファミリーの構成員達と戦闘部隊はそれぞれ五十人ほどで、五分五分といったところだが、ここにさらに別働隊が追加されたらかなりオズボーンファミリー側はかなり劣勢になる。
ネレイドの言葉通り、ロギア達のところへ戦闘部隊の別働隊が走ってくる。ざっと見て三十人ほど追加されたように見え、ロギアも構成員達も苦戦し始めてきた。

「ジーザス!ロギア達が危ないよ!」
「くそっ!」
「おっと、私を忘れないでくれたまえよ」

ロギア達の助太刀に行こうとしたジーザスの前に立ちはだかるネレイド。その手には拳銃が握られている。ハザードは思った。この男自身、戦いに慣れている。ジーザスやルーナ、さらに自分の三人がかりでかからないと難しいだろう。

(ルーナの氷銃はあの光ですぐに解ける…だが、タイミングを合わせれば…)

ルーナの氷麗による遠距離からの攻撃、自分とジーザスの妖刀による近距離からの攻撃。それが上手く合わされば、姿を消し、レーザー攻撃も対処できるはずだ。
問題はロギア達が戦う戦闘部隊。あちらが押し切られたら、戦闘部隊もこちらに参戦してくるだろう。どうにかしなければ…。
そう思っていた時、戦闘部隊と戦いを続けるロギアがジーザス達にも聞こえるように叫んだ。

「心配ご無用だよー!!」
「!?ロギア…」
「ねえねえ、長官さん!どうしてブリタナの街に住民が一人もいないか、教えてあげよっかー!」
「…何?」

ロギアは戦闘部隊の一人を羽交い締めにし、気絶させながらネレイドに言い放った。

「アンタらが上陸する前に住民を全員避難させたんだよねー!勿論、時間がなかったから…ある方法を使ってね!!ところでアタシの着てる服、どこかで見たことないかなー!?」
「……!まさか…貴様は、オズボーンファミリーの人間ではないのか」

そこで初めてネレイドはロギアの正体に気付いた。夜だからというのもあり、また私服が許されるオズボーンファミリーの幹部なのかと思い込んでいたこともあったが、ネレイドはロギアの服装に初めて気付く。
黒い上着に赤い腕章。それは体質者の保護と能力者の関与する事件を捜査する権限が与えられた組織、能力統制情報管理協会トリニティ・クラウンの制服だ。ネレイドも体質者。その組織の存在は知っており、そしてオズボーンファミリー同様、自分の邪魔をする存在としていずれ潰すつもりだった。
だが、その組織の巨大さと堅牢さ故に今まで手を出してこなかったが…。
さらに、ブリタナの住民が短時間で全員避難できるという事実を合わせればおのずと答えは出る。

「貴様ら…転移術で住民をジャポンに避難させたのか」
「あったりぃー!勿論、クラウンの保護下にね。アタシの転移術で住民全員ジャポンに避難させました!それと同時に…ある『要請』もしておきました!」
「要請…だと…」

ネレイドが呟いた瞬間だった。別働隊の戦闘部隊から悲鳴が次々と上がる。複数の足音が響き、何者かが複数人、戦闘部隊と交戦を始めたような音と声。まさか、とネレイドは思った。ブリタナの住民を避難させた際に要請したのは…。

「クラウン隊員を応援によこすようにお願いしたの!先生…司令の陣川鼎さんにね!」
「!鼎さん…!」

ジーザス達のいる場所からもはっきりと見えた。月明かりに照らされたのは、ロギアと同じ黒い上着に赤い腕章を身に纏ったクラウンの隊員達。その人数はざっと見ても五十人ほど。別働隊が加わったネレイド直属の戦闘部隊は八十人だったが、クラウンの隊員が加わったオズボーンファミリー構成員達の側は百人以上になっていた。これなら形勢逆転だ。
そしてクラウンを率いているのは司令の鼎本人と、副司令の冬一、総隊長のガイストだった。

「ハァーイ。ロギア、遅くなってごめんね!」
「先生!ありがとうございますー!」
「ったく、押されてるみてぇじゃねえかよ」
「俺様達の力が必要って訳か。ノーマル相手に本気出すのも面倒だがなぁ」

鼎はジーザスと手合わせした時に見せた大鎌デスサイズを肩に担ぎ、冬一は腰にさしていた妖刀、黒帝を抜きながら溜め息をついて、ガイストは腰のホルスターから大型の拳銃を構えると不敵に笑った。
クラウンのトップ三人までも加わり、兵力も増えたことにさすがのネレイドも驚いていた。

「まさか…クラウンの連中まで…」
「ジーザスくーん!雑魚の一掃は任せなよ!そっちは宜しくねぇー!!」
「…はい!ありがとうございます、鼎さん!!…ネレイド。もう終いだ!お前は俺達が仕留めてやる!!覚悟しやがれ!」
「……この、ガキが…」

ネレイドの気配が変わった。今まではどこか余裕を残した態度だったが…今のネレイドはジーザスに深い憎悪の表情を見せている。ついに彼が本気を出そうとしていた。
一方、クラウンの司令である陣川鼎のまわりにはか弱そうな女ということで戦闘部隊が集まり、囲んでいた。ところが、そんな状況でも鼎はデスサイズを担いで余裕の笑みを浮かべていた。むしろ、楽しそうな表情にも見える。

「よーし!いっちょやってやりますか!アタシのデスサイズに狩られたいヤツからいらっしゃい!」

鼎は巨大なデスサイズを構えて叫ぶ。その表情は自信に満ち溢れ、同時に明らかに強い何かを感じて戦闘部隊達は一瞬怯んだ。だが、すぐに再び戦闘態勢に入り、サブマシンガンを連射する。
鼎はそれを見透かしたように、デスサイズを回転させるようにして連続的な斬撃を繰り出す。

「久しぶりに本気出しちゃおうかな!行くよ!『ブラストアッシュ』!!」
「ぐわああああっ!!」
「あ、あの女の間合いに入るな!」

デスサイズが巨大な武器のため、一度の攻撃範囲が大きく、戦闘部隊は一度に五人以上が斬られた。傷を負っているが、どれも致命傷ではないようだ。それでも痛みと出血を伴い、これ以上戦闘できないまでに陥る。人を殺さずに数を減らす攻撃、それはオズボーンファミリーと通ずる。

「さあ、かかってきなさいよ!!」
「ったく、鼎のヤツ。暴れまくってんな」
「オイ、鼎!あんまり無茶するなよ!…って聞いてねえ…」
「死ねぇぇぇええ!!」
「!……邪魔だ」

鼎の様子を見ていたガイストと冬一だったが、会話の途中で戦闘部隊の男がサブマシンガンを乱射してくる。事前に気付いた冬一は余裕の表情で避けると、男を斬り捨てる。同時に別の戦闘部隊も三人ほど瞬く間に斬り倒していく。その剣の腕前は明らかに一般人ではない。戦闘部隊の中にざわめきが起こる中、ガイストが笑った。

「ヘッ、ソイツは『剣の天才』だぜ?テメェらで敵う訳ねぇだろうがよ」
「あ、あいつ!もしかして!『世界最強の剣士』陣川冬一か!!」
「あの有名な剣士か!?か、敵うはずねぇ!」

戦闘部隊の中に一気に広まっていく驚愕と恐怖の声。誰もが知るその名前は、冬一のもの。そう、彼は「世界最強の剣士」の二つ名を持つ有名な男だった。顔こそ知らなくても名前くらいは聞いたことがある者が多い。

「逃がすかよ!てめぇら、全員クラウンの名の元に成敗する!『絶刀黒牙斬ぜっとうこくがざん』!!」
「ぎゃあぁっ!」
「ひいぃぃ!!に、逃げろ!」

逃げようとする隊員達に向け、冬一は黒帝を高速な連続斬りを放つ。黒帝は鬼神の兄弟刀だけあって刀身は黒く、連続攻撃を放つとまるで黒い牙を持つ獣が獲物を食らうように見えた。
手も足も出ない戦闘部隊だったが、そんな冬一の背後にダメ元ながら襲いかかる戦闘部隊がいた。有名な剣士を討ち取れば、自分が有名になれる。そう思い、サブマシンガンを構え、冬一の背中を撃とうとした瞬間…。

「ぐわっ!?」
「バーカ、させねえよ!『フュームバレット』!」

銃声と共に戦闘部隊の男の体が撃ち抜かれた。ただ、普通の銃弾とは違う効果がもたらされる。それは銃弾が撃ち込まれた男の傷口から炎が燃え盛ったことだ。

「ぎゃあああ!!あ、熱いー!!」
「な、なんだ!今のは!?銃弾が燃えた!?」
「相変わらずタイミングが良いな、ガイスト」
「へッ。お前、最初から背後は俺に任せるつもりで斬り込んでいったろうが」

銃弾を放ったのはガイストの構えた大型の拳銃だった。銃口からは硝煙があがっている。

「あの男!クラウンの総隊長、ガイスト・スタウロスか!!」
「噂に聞いたぞ…アイツは炎を操る『炎武えんぶ』の体質者だ!」
「フン。ただの炎武の体質者じゃねえ。最強の炎武の体質者だよ」

そう言うとガイストは再び銃弾を放ち、冬一のまわりにいた戦闘部隊達を撃ち抜いていく。そう、ガイストも体質者、ルーナとは真逆の炎を操る力を持っていた。炎武の体質能力は火炎を生み出すことは勿論、火炎放射や転々とした炎を作ることもできるが、ガイスト自身は拳銃の弾丸に炎を纏わせて放つ攻撃を得意としていた。
奇襲攻撃にも最適で、何よりも冬一との連携が取れる攻撃なのだ。ガイストはニヤリと笑い、再び銃弾を放つ。

「ほ、炎の弾丸!?」
「俺は炎武の体質能力を弾丸に込めて放つんだよ。安心しな、痛みや熱さは本物だが火加減は抑えてやってっからよ!!」
「そういうこった。コイツの炎の弾丸で撃たれるか、俺の黒帝で斬られるか、選びな!!」

完全に油断した戦闘部隊達は陣形を乱していく中、冬一によって斬られ、ガイストによって撃たれる。長年共に戦ってきたのが明らかなコンビネーション。互いに互いの隙を埋め合い、冬一の黒帝による近接攻撃とガイストの拳銃による遠距離攻撃。戦闘部隊達は反撃する隙もなかった。この二人は一人ずつでも十分に強いが、二人揃うと化物並みだ。
その時、戸惑った表情の戦闘部隊の男達の足元が突然不安定になり、悲鳴と共に高く舞い上がった。 まるでトランポリンで弾かれたように見え、同時に男の声が投げかけられた。

「ほう、相変わらず腕は鈍っていないようだ」
「!アンタ…オズボーンファミリーの幹部の…」
「久しぶりだな、テルボロさんよ」

民家の屋根にいて見下ろしていたのはオズボーンファミリー唯一の体質者にして幹部、テルボロだった。これが地紋じもんの体質能力**地震を起こしたり、岩石を操る大地系の能力。テルボロは敵の足元にだけ地震を起こし、冬一達を援護したのである。彼は体質者ということで以前からクラウン幹部とも顔見知りだった。

「雑魚が無駄に多い。加勢する!」
「ありがとよ!さっさと片付ける!」
「燃やし尽くしてやるさ」
「そこの三人ー!ちょっとこっち手伝ってよぉー!」

戦闘部隊数人を相手に大鎌デスサイズを振るう鼎が三人に向かって叫び、それを受けてテルボロ、冬一、ガイストは再び残った戦闘部隊に向かっていく。
その頃、ジーザス達はネレイドとの戦いを続けていた。ネレイドは彩夢の体質能力で姿を消しながら拳銃と虹色のレーザーによる遠距離攻撃が厄介だった。

「くっ…あの姿を消す能力、何とかなんねぇのかよ!ハザード!」
「……っ」
「どうしよう、これじゃわたし達が狙われるのも時間の問題だよ!」
「ああ、何とか対策をっ………!」

何とか対策を練らなくては。ジーザスがそう言おうとした瞬間、彼は何かに気付いた。ネレイドがルーナ目掛けてレーザーを放とうとしていたのだ。

「!ルーナ、危な……」

思わずジーザスはルーナを突き飛ばした。「きゃっ」と小さく悲鳴をあげながら尻餅をついたが、その目の前でジーザスの腹をレーザーが貫いた。激痛にジーザスは顔を歪め、口から吐血する。その姿にルーナは唖然とした後、悲鳴をあげた。

「!ぐはっ…!」
「…まずは一人」
「…!きゃあああっ!!ジーザス!!!」
「!貴様ッ!」

不気味に笑うネレイドを睨みつけるハザード。ネレイドは既に、ジーザスがルーナに特別な感情を抱いていることに気付いていたのだ。

「君なら間違いなく彼女を庇うと信じていたぞ。ククッ…愚か者が」
「ジーザス!ジーザス!しっかりして!ジーザス!」
「…かはッ…!」

吐血しつつも必死に立ち上がろうとするジーザス。致命傷は免れているようだが、動く度に激痛が走る。ジーザスの様子にハザードも思わず冷静を欠いた。

「くそッ!」
「動揺しているな!動きが遅いぞ!」

次の瞬間、ハザードも右足をレーザーで貫かれてしまった。バランスを崩し、ハザードは後ろに倒れ込む。

「がっ…!」
「!ハザード!!」

短時間でジーザスとハザードが重傷を負ってしまった現状にルーナは青ざめていく。

「さあ、もう守ってくれる騎士はいないぞ」
「っ………許さない!」

ルーナは涙を散らしながらキッとネレイドを睨みつけると氷銃を放つ。するとネレイドは不気味な笑みを浮かべ、大声で叫んだ。全ては彼の想定通りに進んでいる。

「この時を待っていたぞ!!」
「!?」

ネレイドはスーツの懐から、キューブ状の装置を取り出し、ルーナに向けると、その上面にあるボタンを押した。するとそのキューブから紫色の光が放たれ、ルーナの放った氷の弾丸ごとルーナを包むと、弾丸は消え失せ、ルーナには体全体に電流が走ったかのような衝撃と痛みが走った。

「きゃ……あ、あぁああああっ!!!」
「っ…ル、…ーナっ…!」
「くそっ…あれは…あれはっ…まさか…!」

地面に倒れこんだジーザスとハザードが必死に駆け寄ろうとするが、体は痛みで動かない。しかもハザードはその装置に見覚えがあった。

「あれは…っ…体質能力吸引装置…!」

かつてハザードが所属していた王立体質能力研究所にもあった装置。体質者から体質能力エネルギーを採取し、研究に役立てるためのものだ。だが、今ネレイドがルーナに向けている効果は能力の採取ではなく、「能力を封じる」ために使っている。ルーナは氷麗の力を封じられた上、さらに体の動きまで拘束されて、体質能力を吸い取られているのだ。

「さすがだな、ハリー・ディラン!我が白雪計画における魔導力兵器ボレアスを動かすためには氷麗の体質能力が必要だ。ボレアスの礎となることを光栄に思え!ルーナ・グレイシア!!!」
「うっ、ぐ…あ、あぁあああっ…!!」

自分の能力が吸い取られていく感覚と電流のような痛みにルーナは悲鳴をあげ続ける。体質能力は本人の精神エネルギー、吸い取られても消えることはない。だからこそこの苦しみは装置に吸収が完了するまで終わらないのだ。ジーザスは傷の痛みに耐えながら必死にネレイドの元へ這いずり寄っていく。ルーナを苦しみから救わなければいけない。

「ルーナっ…!やめろっ…ルーナに、手を、出すなっ…やめろぉぉぉぉおおおお!!!」

その時だった。ジーザスが握ったままだった黒烏の黒い刀身が一瞬青緑色に光ったように見えた。ハザードはそれに気付き、ジーザスに叫ぶ。

「…ジーザス!腹の傷は後でじゃじゃ馬に治してもらうのを前提にして、今はすぐに立ち上がれ!そしてあの男の持つ装置を斬れ!!そうすればルーナの能力封じが解ける!!」
「…!っ…わかった…!」
「ハッ、その傷で私に向かってくると?本当に愚かな奴め。向かってくるがいい。今度こそ、その脳天に風穴を空けてやろう!」

ネレイドは手のひらをジーザスに向ける。再び彩霧によるレーザーを放とうとしているのだ。ジーザスは体に鞭を打ち、震える足で立ち上がり、黒烏を構える。

「…俺は……俺はっ…ルーナを守るって…決めたんだ…!テメェの企みも全部消してやる…!俺は、オズボーンファミリーも…ルーナも守る……テメェの好きにさせてたまるかぁぁぁあああ!!!」

レーザーが放たれる直前、ジーザスは黒烏を振り下ろした。レーザーはもう少しでジーザスの眉間を貫くであろう瞬間で……消える。
ジーザスには手応えがあった。同時にネレイドの持っていた体質能力吸引装置が地面に落ち、ルーナの拘束が解かれてぐったりと彼女は倒れこむ。そして、斬撃を受けたネレイドの肩から胸にかけて傷を負い、血飛沫が飛ぶ。

「…な、ん…だと…?この…私、が…負け、た…だと…」

信じられないといった表情でネレイドは前のめりにゆっくりと倒れた。気を失っただけで、致命傷ではないようだ。だが、もう立ち上がってこれない。ジーザスはネレイドに勝ったのだ。肩で息をするジーザスだったが、腹部の傷が痛み、再び倒れた。

「…か、はッ……ゴホッ、ゲホッ…ルー、ナっ…!」
「っ…!ジーザス!ジーザス、しっかりして!! 」

装置の拘束が解かれたことでルーナは体を起こし、倒れたジーザスに駆け寄って抱き起こす。ジーザスは痛みに顔を歪めながらもルーナの無事を確認して安堵した表情で見上げた。

「ルーナ…無事かっ…」
「う、うん…なんとか…!ジーザス!ハザードもっ…!」
「っ……大丈夫だ…」

ハザードは足を抑えて引きずりながらジーザスとルーナの元へやって来る。ついにネレイドを倒した。まだ実感は湧かないが、これで…。
そう思っていた時、駆けてくる足音と声がした。

「ルーナ!」
「!ロギア!」

やって来たのはロギアだった。戦闘部隊をあらかた倒したらしく、蒼月を構えたまま、駆けつけたらしい。ジーザスとハザードの怪我、側に倒れるネレイドを見て状況を察したらしく、すぐさま重傷のジーザスの側に座ると、腹部の傷に治癒の力で手をかざす。

「…待ってね。今すぐ治療するよ!」
「ジーザスとハザードがっ…わたしを庇って…」

今にも泣きそう…むしろ既に大粒の涙を浮かべてジーザスを見つめるルーナ。二人の傷を自分のせいだと思い込んで深く傷ついていた。そんなルーナに、ジーザスとハザードの傷部分に治癒の光を当てたロギアは優しく笑いかける。

「大丈夫。傷は塞いだよ。あとはきちんと手当すれば大丈夫。雑魚の方もあらかた片付けたし…大丈夫。アタシ達の勝利だよ」
「…!良かった…!」
「しかもスゴいことにね、死者はゼロ!負傷者はいるけど、皆治療すれば問題ないよ。今、先生達が負傷者の治療と、戦闘部隊の逮捕の指揮を執ってる。後でこっちに来ると思う」
「…勝ったん、だね…わたし達…」

心から安心したようにルーナは涙を流した。全てが終わった。本当に終わったのだ。ハザードは泣くルーナに優しく声をかけた。

「ルーナ……これで、真実が明らかになる…お前も…帰れるんだ。…家に…」
「!…家に…帰れる…」

そう、ネレイドの悪事はこれで明らかになり、ルーナは実家へ帰ることができるのだ。心配しているであろう両親にも会える。ルーナは元の生活に戻れるのだ。だが、そんなルーナの心はどこか落ち着かなかった。

(どうして…なんだろう…。やっと家に帰って…お父さんとお母さんに会えるっていうのに……わたしは…どうして、…寂しい、なんて思ってるの…?)

それが最終的な目的のはずだったのに、ルーナは嬉しさよりも寂しさを感じていた。オズボーンファミリーとの生活が終わってしまう。今まででも、最後にはこうなることはわかっていたはずだったのに、いざそれに直面してしまうと…。
ルーナは潤んだ瞳でハザードを見上げ、ハザードもルーナの気持ちを察しているのか、切なそうな表情をしてルーナを見つめた。

「……忌まわしい白雪計画は潰えた。…これ以上、裏の世界に足を踏み入れる前に…お前のいるべき場所へ帰るんだ…ルーナ」
「…ハザード…」

未だに怪我のせいか、ぐったりとしたジーザスも、ジーザスの怪我部分に包帯を巻いているロギアも、ハザードの意見に賛同する。

「……ハザードの言う通りだ。ルーナ…お前は本当は俺達の世界に来ることはなかったんだ。俺のせいで巻き込まれただけだからな…早く親父さん達のところへ帰ったほうがいい…」
「確かにそうだね。本来、ルーナはヴェルヌで刑事として正義を成すことが仕事だもんね。…ルーナは危険な目に遭わなくてもいいんだよ。幸せに生きてほしい」
「…ジーザス…ロギア…」

ルーナが迷った表情を浮かべていたその時、複数の人の叫びが聞こえてきた。その声はルーナにとって聞き覚えのあるものだった。

「ルーナぁー!!」
「ルーナ!無事かぁぁぁああ!!」
「!あ…!」

それは島の外周を回って戦いから逃れていたヴェルヌ警察の刑事達、ルーナの元同僚達だった。その後ろにはクラウンの隊員が三人ほど付いてきている。状況が飲み込めていなかった刑事達はクラウンの隊員達によってルーナのもとへ案内されたのだ。

「皆…!」
「ルーナ!良かった!本当に良かったぁ!」
「無事で良かったぞ!心配したんだからな!!」
「ああ、課長が知ったらきっと喜ぶぞ!!」

刑事達はまるで自分の子供のようにルーナを次々に抱きしめる。皆、涙を浮かべて本当に安堵したような表情を浮かべていた。ルーナもその温もりに驚きつつも涙を流す。

「ありがとう…本当に、ありがとうっ…わたしは大丈夫よ…」
「さっき…この黒服の人達に簡単に説明されたんだが……長官がお前の誘拐事件の黒幕だっていうのは本当なのか…?」

それは刑事全員の疑問だった。ルーナは暗い表情をしながら小さく頷く。

「…そうよ。色々深い事情はあるんだけど……そこにいるジーザス達がわたしを守ってくれたの…」
「!ジーザス・オズボーン!」
「オズボーンファミリーの倅!」

刑事達がジーザスの存在に気付くと一斉に銃を構えようとする。すると、ジーザスと刑事達の間にロギアが割り込んで止めた。

「はいはーい。そこまでそこまで!」
「なっなんだアンタは」
「クラウンの特務部隊隊長のロギア・デュークスでーす。彼はルーナを命懸けで守ったんだよ。ほらこの傷見てよ。そこに倒れてる長官がルーナを狙って一連の事件を引き起こした。そしてそれを止めようとして戦ったんだよ」
「そうよ!ジーザス達はわたしを守ってくれたのよ!それにわたし達は今までずっと誤解をしていた!オズボーンファミリーが凶悪な犯罪組織だってずっと思い込んでいたの!よく知ろうともせずに彼らを悪人だって決めつけて…!」

ルーナも刑事達の前に回り込んで両手を広げながら必死に説明した。

「…な、何がどうなっているんだ…」
「俺達が間違っていたのか…?」
「うん、とりあえず色々説明が必要だろうけど。とにかく今は負傷者の手当てや諸々の後始末が必要でしょ。ルーナ、どのみちヴェルヌに帰ってお父さん達にも事情を聞いてもらった方がいいよね」
「…そうだね。ロギアは皆の手当てをお願い。わたしも手伝うから。それが終わったら…ヴェルヌへ帰るよ。…でも、お願い。皆も着いてきてほしいの」

ルーナはジーザス、ハザード、ロギアを見て言った。自分一人ではなく、ジーザス達も自分の帰る場所に来てほしいと言う。

「ルーナ…」
「…わたしのお父さんは刑事課の課長。わたし以上にオズボーンファミリーへの誤解が強いと思う。…でも、わたしは…オズボーンファミリーのことも、知ってほしい。本当の姿を見てほしいの。だから、お願いよ。…お父さんと会ってほしい」
「………わかった。ルーナが言うなら……親父さんに会って話をする。…もし、その後で逮捕されても構わない」
「…バカが。格好つけやがって」

そう言いながらハザードは足を抑えながら、鬼神を杖代わりにしてゆっくりと立ち上がる。

「…俺も話をさせてくれ。お前の親と」
「ハザード…!」
「…白雪計画に関わった者として、俺にも責任がある。…俺のことも全て話すさ」

「それじゃアタシだって着いていくよ。ルーナは大事な友達だしね」
「ロギアも…。…ありがとう、皆っ…」

ルーナが泣いていると、そこへ戦闘部隊の片付けを隊員達に任せた鼎、冬一、ガイスト、テルボロが駆けつけて来た。

「ヤッホー、解決したみたいだねぇ!」
「!鼎さん!叔父貴も…!」

何事もなかったかのように笑顔で片手をあげながら挨拶をする鼎。

「何とかルーナちゃんを巡る事件は終わりそうだね」
「ああ。これで白雪計画とかいうバカげた計画も終わった。よかったな」
「ま、俺としちゃ少し暴れ足りなかったがな」
「あれだけ連射しといてかよ…」

冬一はガイストに呆れながら言った。ガイストも鼎と同じように戦闘になると勢い付くタイプだ。体質者でもない戦闘部隊相手では生温かったのだろう。実際、冬一にとっても敵にならないほどの相手だった。

「…鼎殿。君は全てわかっていたのか?」
「あはは、ここまではわかりませんって。でも、ジーザス君とルーナちゃん…それにロギアと…そこの彼、ハザード・ディザリウスだね。この四人が集まれば、きっと運命が大きく変わる・・・・・・・・・と思っていたよ」

鼎は予言の体質者。この先の未来が見える予知能力だが、はっきりとした確実な未来が見えるわけではない。だからこそ、結末に何が起きるかは分からなかったが、ジーザス達四人が揃うことで何かが起きるとは見えていたのだろう。
ちなみに、ハザードは鼎達とこれが初対面だった。ジーザス達から話は聞いていたので若い女の司令ということに驚きはしなかったが、鼎が自分を見る視線に何か感じていた。

(…この女がクラウンの司令…)
「一応初めましてだね、ハザード。アタシは…」
「…クラウンの司令だろう。神クラス…だったか」
「ああ、ロギアがそこまで話してたんだね。そう、アタシ達は神クラス。結構長生きなんだよねぇ」
「長生きってレベルかよ」

平然と長寿であることを明らかにする鼎と、呆れたように溜め息をつく冬一。「長生き」と簡単に言っていいレベルでないようだ。同時にハザードは何か、鼎に対してどこか違和感を感じていた。
しかし、それは不快なものではなく、どこか懐かしさも感じさせるもの。今のハザードにはそれが何なのかわからず、鼎は彼の視線に気付かないまま話を続けた。

「とりあえず、ジーザス君。ルーナちゃん。これからの道、決めたようだね」
「…はい。皆と一緒にお父さん達に全部説明しに行きます」
「うんうん。あ、ヴェルヌの政府と警察には、ルーナちゃんが説明しなくてもいいからね」
「えっ?」

ルーナは警察本部にも全て事情を説明するつもりだったので、鼎の言葉に拍子抜けした表情になる。

「今、既にアーロンさんが説明に行ってるから」
「え……えええぇぇぇ!?」
「はあぁぁぁ!?親父がぁ!?そ、そういやこの戦いの時、姿を見かけなかったけど……!」
「うん。実はアーロンさんと電話で相談してね。ネレイドをこちらに引きつけている間にアーロンさんは幹部のシェンノさんと一緒にヴェルヌの警察署に行ってるんだよ」
「マ、マジでぇぇぇえ…!?」

確かにこのブリタナでの戦いではアーロンを見なかった。ネレイドとの戦いで必死になっていて忘れていたが、まさかアーロンがシェンノと一緒にヴェルヌ警察署に行っていたなんて。

「アーロンさん、自ら出向いてくれてね。クラウンの証明書も持参していってるから、きっとうまく行ってるよ」
「親父が…」

本来であれば、オズボーンファミリーのボスがヴェルヌ警察署に行くなんてありえないこと。だが、アーロンは戦いではなく、ヴェルヌ警察と手を組むために行ったのだ。さらにクラウンの証明書もあれば即刻逮捕されるということはないはず。
唖然としているジーザスにテルボロが付け加える。

「…黙っていて悪かったな、ジーザス。アーロンとシェンノと話していたことだったんだ。お前には戦いに集中してほしかったからな」
「叔父貴…」
「だが、お前がルーナ嬢を守るためにここまで戦えるとは思わなかった。だからこそアーロンもお前のことを信じて島を任せ、自分はヴェルヌ警察の説明役になったんだぞ」
(あの親父がそこまで…これがオズボーンファミリーのボスか…)

仲間のため、危険な場所へ一人でも赴く。それがオズボーンファミリーのボスというもの。ジーザスはそんなことを思っていた。
そんな話をそれぞれがしていた時、彼らに日の光が当たる。海の向こうから日が昇り始めていたのだ。

「日の出…」
「戦ってる間に朝が明けちゃったんだねぇ」

ぽつりと呟いたルーナに合わせてロギアも笑顔で言った。一同は戦いが終わった開放感と、何か心に宿る気持ちを感じながら海と街をゆっくりと照らしていく日の出を見つめていた。
ようやく、ルーナを狙う一連の事件、そしてハザードの過去から繋がっていた「白雪計画」は終わりを告げたのだった。


26.ブリタナ衝突戦 決着の夜






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