ヴェルヌ郊外にある街レイントレスト。そこにあるグレイシア家では今のソファーにジムとクレアの夫婦が不安そうに座り込んでいた。
昨日、突然ヴェルヌ警察上層部から夫婦共々呼び出され、誘拐されたと思っていた娘ルーナの無事と、オズボーンファミリーの冤罪、そしてジムの上司であり長年の友人であったはずの長官ネレイドの悪事を説明された。
驚きを隠せなかったが、その場にいたアーロン・オズボーンからも同じようなことを説明され、あの大悪党と呼ばれたオズボーンファミリーのボス自らがこの警察署にいて直接説明をしていること、何よりも証拠の書類や写真などを提出され、信じる他なかった。
そしてアーロンからは深く頭を下げられ、「娘さんを危険な目に遭わせてしまい、申し訳ない」と謝罪をされ、ジムは何も言うことができなかった。長年、血も涙もない犯罪者として目の敵にしていたのはこちらの方だったのだから。しばらくしてからジムも「…こちらも、申し訳なかった」と小さく謝罪の言葉を口にした。
さらにその際、アーロンと警察上層部から聞かされたのは、ネレイドに加担していた警察関係者、犯罪者は全て逮捕の手続きに入っていること、ルーナが体質者であり、そのために体質者を保護する組織クラウンが介入したことなどを説明されたが、アーロンとクレア夫婦にはあまり頭に入ってこなかった。
とりあえずわかるのは娘が無事に帰ってきてくれるということだけだった。ジムは放心しつつも比較的冷静であったが、クレアはひたすらに安堵の涙を流すばかり。
だが、そんな二人を見てアーロン・オズボーンは柔らかく笑って「突然の事態に着いて行けないでしょう。後日、きちんと一から説明致します」と言い、その言葉がジムとクレアにとっては安心できるものであった。
その日のうちに、ルーナが自宅に帰ってくると告げられ、夫婦揃ってなかば呆然として時間が過ぎ、時刻は現在午後二時過ぎ。ルーナが帰ってくるという時間が近付くと、二人は急に心臓が破裂しそうなほど謎の緊張感に包まれていた。
誘拐されたと思っていた娘は悪意ある警察のトップに兵器転用のために狙われていた。そんな娘が無事に家に帰ってくる。平凡な日常を過ごしていたグレイシア家にとって、あまりにも非現実的な日々だった。
ジムは少しでも平静を保とうと、新聞を手に取り、読み始める。そんな夫に対し、隣に座る妻クレアが話しかけた。

「…お父さん、ねえ、お父さんったら」
「!ど、どうした、クレア」
「…新聞、逆ですよ」
「……あ」

妻に指摘されて気付く。自分が読んでいる新聞は上下が逆で勿論、文字など読めやしない状態だったことに。そういえば全く内容が頭に入ってこないと思っていた。…どうやら自分は相当冷静ではいられないらしい。

「…ふふ。しっかり者のお父さんが珍しい。ルーナも驚いちゃうわよ」
「そ、そうだな…父たる者、いつでも冷静でいなくては」
「もう。娘を心配するのは当たり前ですよ。…たまには冷静でなくてもいいんじゃないかしら。こんな時くらい…」

ジムのうっかりした行動にクレアも緊張感がほぐれたのか、優しく笑った。昔からこの夫婦は熊のような大柄で寡黙、強面な夫ジムと、柔らかくおっとりとした妻クレアでうまいこと釣り合いが取れていた。
互いに互いのことをわかっているし、一見真逆に見えても非常に仲の良い夫婦。娘が大きくなった今でもそれは変わらない。
そんな時。玄関のチャイムが鳴り、二人はビクリと反応する。慌てて扉へ駆けていくクレアは扉を開いた。

「…!」
「ただいま!お母さん、お父さん!」
「ああ…ルーナ…!」
「…ルーナ!!」

その姿を見た時、クレアは涙を溢れさせ、ジムも思わずソファーから立ち上がる。扉を開けた時、そこには笑顔の娘ルーナが立っていたのだ。服装は見慣れない水色のワンピース姿ではあったが、それ以外は何も変わらない。
クレアは強くルーナを抱きしめ、ジムも駆け寄ると妻ごと娘を抱きしめた。ルーナも家族の温もりを感じ、涙を流して抱き返す。

「お父さん…お母さぁん……!」
「ルーナ…よく、帰って来てくれた…っ」
「本当に…よかったっ…」

ジムとクレアは腕の中の愛しい娘をひたすらに抱きしめ、彼女が帰って来たという感覚を全身で感じていた。その様子を見つめる者達がいる。ルーナの後方、住宅の外に立つジーザス、ハザード、ロギアの三人だった。ルーナとの約束通り、彼らは共にやって来ていたのだ。
ルーナは両親とのハグを終えると、ジーザス達の方を向いて紹介する。

「お父さん、お母さん。この人達がわたしを助けてくれたの。…彼がオズボーンファミリーの息子さん、ジーザスよ」
「!オズボーンファミリー…」

その名を聞いてジムの表情が変わる。急に鋭い獣のような目になったジムにジーザスはビクッと緊張し、慌てて頭を下げた。

「あ……ジーザス・オズボーン、です…!あのっ………今回は…娘さんを危ない目に遭わせて…すみませんでしたっ!!」
「!」

ジムは思った。謝罪するジーザスの言葉は父親アーロンと同じだったことに拍子抜けしたのだ。だが、壮年の父親と違って、まだまだ若い反応。それでも、先に事情を聞いていた通り、心からルーナを思って行動していたのだとわかる。

「……とりあえず。話は聞こう。…入れ」
「ほら、皆も入って」

ジムはふい、と背中を向けて再び居間のソファーに向かっていき、ルーナが外にいるままのジーザス達を室内へ招き入れる。クレアは優しく笑い、「お茶淹れますねー」とパタパタ音を立てながらキッチンへ小走りで向かっていった。
相変わらず緊張気味のジーザスの背中を後ろから軽く叩くロギア。その表情は普段と変わらない明るさだ。

「そんなに緊張しなくたって大丈夫だよ、ジーザス」
「ロ、ロギア…」
「…いつもの能天気さはどうした」

ハザードがベシッとジーザスの頭を叩いて先に中に入り、二人もそれを追いかけた。
グレイシア家はカントリー風の優しい温もりに包まれた小さな一軒家。オズボーンファミリーの広い屋敷とは違い、こじんまりとしているがその狭さがまた魅力的。
木製の家具や写真立て、可愛らしい小物が並び、キッチンと隣り合わせの居間には長方形のテーブル、二人掛けのソファーが二つと、スツールが二つ。そのソファーにジムが座って足の間で手を組んでいた。
ルーナに促され、ハザードとロギアがソファーに座り、ルーナとジーザスはスツールに座った。そこへクレアが人数分の紅茶を注いだティーセットをトレーに載せて持ってくる。

「どうぞー」
「ありがとうございます」
「それにしても、オズボーンファミリーの皆さんって噂に聞いているほど怖くないのねぇ」

にこにこと笑いながらクレアがジムの隣のソファーに座り、微笑んだ。ルーナが恥ずかしそうに「お母さん!」と言い、ジーザスは苦笑いした。やはり一般市民には「オズボーンファミリー=怖い悪党」なのだろう。そこにロギアとハザードが口を入れた。

「あっ、アタシとこっちの陰険眼鏡は正式にはオズボーンファミリーじゃないんです。アタシは別の組織からのお手伝いでして。アタシ、ロギア・デュークスっていいます。体質者を保護する組織、クラウンの者です」
「……。…俺はハザード・ディザリウスと申します。体質者について研究している者です。…事情があり、娘さんをお守りし、ネレイド・デルスフィアの計画を潰すため、オズボーンファミリーに協力していました」
「…君達のおかげで娘は助かった。そして我が上司ネレイドの企みも止めてもらって……」

重々しく呟くジムにロギアは正反対の明るい声で、ハザードは落ち着いた口調で言った。

「感謝の言葉はジーザスに言ってあげて下さい。彼は大怪我を負ってでもルーナを守るために必死に戦い、見事にネレイドを倒しました」
「…この男は確かに、世間的には悪党でしょう。…俺も人のことを言える立場ではありませんが。…だがこの男が娘さんを守りたいと思っている心は嘘偽りなく、『正義』と言えるでしょう」
「!ロギア…ハザード…」

驚いた表情でジーザスはロギアとハザードを見る。二人がジーザスのことをここまで言ってくれるなんて。そしてルーナも両親に向かい、必死に自分の思いの丈をぶつける。

「お父さん、お母さん。わたしね、今まで『正義』って…皆と同じ悪を目指して、その悪を倒すことだと思っていたの…。でも、ジーザス達と出会って…自分の目で見た世界を知った。多分、『正義』の形って一つじゃない。…だから、わたし…もっと自分で世界を見たいの。ジーザス達と一緒なら、自分の正義を見つけられる気がするの。……だから」

そこで一旦言葉を止めたルーナは強い眼差しで衝撃的な発言をした。

「………わたし、ブリタナに残りたい!」
「えっ!?」
「…!」

ルーナの言葉に全員が驚く。誰もそんなことは知らなかったのだ。全員、ルーナはこのままこの家に残り、元の生活に戻るはずだと思っていた。クレアは驚いてルーナに詰め寄る。

「ル、ルーナ!どういうことなの?どうしてそんな…!折角帰ってきたのに!」
「お母さん…お願い。わたし、今回のことで自分の正義を見つめ直すことができた。ジーザス達といれば…もっと、自分の正義を考えることができると思う。だからもう少し、ブリタナで…ジーザスと一緒にいたいの」
「……!」

そのルーナの言葉にジーザスは顔を真っ赤にしてルーナを見つめる。告白のようにも思えて、心臓が高鳴ってしまう。そんなルーナを見つめるジム。

「………決めたことなのか」
「…うん」
「……昔からそうだったな。一度決めたことはけして曲げない。…皆と同じものを悪と決めつけ、それを倒すのが正義だと思っていた。…それは俺も同じだ」

そう言うとジムは立ち上がり、ジーザスに向けて真っ直ぐ頭を下げた。

「…すまなかった。君達を誤解し続けていた。ヴェルヌ警察を代表して謝罪する」
「…!い、いやっ!そんな!頭上げて下さい!」

慌ててジーザスは言ったが…正直なところ、涙が出そうなのを堪えていた。今までずっとジーザスが願っていた、自分達オズボーンファミリーのことを真に理解してくれる人々の出現。それが今叶ったのだ。
やはり、ルーナとの出会いが全てを良い方向に変えてくれた。そんなことも含めて、改めて思う。

(俺の運命を変えてくれた……俺はやっぱり……ルーナが好きなんだ…)

ルーナを異性として愛している。だからこそ守り通したかった。ジーザスは自分の想いを再確認した。ルーナが自分からブリタナに残ると言ってくれて本当に嬉しかった。ゆくゆくは、その日々の中で思いを伝えられたら…。

「…ルーナとお父さんが言うなら、わたしは何も言わないわ」
「お母さん…」
「あなたがしたいようにしなさい。…あなたのことを信じているから」

そう言ってクレアは優しい母の表情を見せた。本心ではルーナに行ってほしくはない。それでも、娘のやりたいことを止めることもしたくないのだ。だからクレアは笑顔で娘を送り出すことを決めた。

「…ジーザス君。どうか…娘を宜しく頼む」
「…はい!」

ジムの言葉にジーザスはしっかりと答えた。これからもルーナと過ごす毎日、少しでも彼女に楽しんでほしい。そして守りきることを誓った。
そこでクレアが「あっ」と何かを思い出したような声をあげた。

「あら、わたしったら。ケーキを焼いていたのにすっかり忘れていたわ。ちょっと待っていて下さいな」
「お手伝いしましょう」
「あらあらまあまあ、ごめんなさいねぇ」

スッと立ち上がったのはクレアの側に座っていたハザードだった。やはり彼は目上、年上の人間にはかなり親切。アーロン達の時と同じだ、とジーザスが思っていると、クレアはキッチンへ向かい、ハザードもそれに続こうとしていたのだが…。
ハザードはふと棚の上の写真立ての数々を見て足を止め…今までにないほどの凄まじく驚いた表情で凍りついた。

「……!?」
「?ハザード?」
「どうかしたのかよ?」

ルーナとジーザスが声をかけてもハザードは立ち尽くしたまま。その視線は写真立てから離れない。

「どうかしたのかね」
「ああ、そこにあるのはわたしが飾った家族写真よ。お父さんとルーナの分は勿論、わたしの実家の家族の写真もあるの。そうそう、その写真は死んだ妹・・・・と撮った若い頃のものね」
「い……妹……」

震える声でハザードはエリナの言葉を繰り返す。そこでジーザス、ルーナ、ロギアの三人もハッと気付いた。いや、もう気付かざるを得ない。
そもそも、簡単に推測できたことだったのだ。ハザードの永遠の恋人エリナとルーナの共通点。人間嫌いのハザードが思わず手を貸し、優しく接するほど似ているという容姿。そして、希少とされる氷麗ひょうれいの体質能力。血の繋がりがあってもおかしくない、むしろそう考えるべきではないのか。

「あ……ま、まさか…!」
「もしかして…クレアさんの妹さん…つまりルーナの叔母さんって…」
「ハ、ハザード!そうなのか!?」

真実に気付き、驚愕するルーナとロギア。そしてジーザスはハザードのもとへ慌てて駆け寄り、彼が見つめたままの写真を見る。
そこに写っていたのは…ルーナと同じ顔をした若い女性が二人。正確には、ピンクのワンピースを着た明るい雰囲気の笑顔が可愛い女性、白い上着にズボンを履いたスマートで落ち着いた笑みを浮かべる女性。特に明るい方の女性は笑い方がルーナによく似ていた。しかし、この落ち着いた方の女性の顔つきは…。

「ああ、その白い服を着た方がわたしなのよ。もう十年以上昔になるわねぇ」
「えっ!?クレアさん!?今とだいぶ雰囲気が…」
「昔のわたしは仕事一筋だったからぁ。仕事先でお父さんと出会って結婚退職して、ルーナが生まれてからはのんびりした生活に慣れてしまったのよー」

のほほんとジーザスに向けて答えるクレア。写真に写っていた頃の彼女は随分と違う印象を受けた。確かに顔つきは現在の面影はあるが、纏う雰囲気はクールそうな昔とのんびりした今とでは大きく異なっている。
そして問題は…もう一人の女性。ジーザスでも驚くほどルーナに瓜二つだ。今のルーナと年齢も近そうで、より一層似て見える。それはつまり、一つの答えを示しているのだ。

「ハ…ハザード…この人って…もしかして…」
「…………エリナ…だ…」
「!やっぱり…!」

小さく呟いたハザードの言葉にルーナが声を発する。やはり、そうだった。ハザードが愛し、最後まで守ろうとした女性、エリナは…ルーナの母クレアの妹、ルーナの叔母だったのだ。全てに納得がいった。ハザードとルーナが出会ったのも何かの運命かと思うような…。

「…えっ。あなた、どうして」

突然、今までのんびりとした口調だったクレアが強い口調になり、ハザードの袖をガッと掴んだ。その力はわりと強く、必死に詰め寄ってきた。

「あなた、何故エリナのことを。ねえ、教えてちょうだい!」
「…俺、は…」
「…ひょっとしてあなた……ハリー・ディランさん?」
「!何故…その名を…」

突然、本名を言い当てられてハザードはさらに驚いた。その名は封印していたはずのもの。クレアが知っているはずがないが…。するとジムがクレアの肩を抱いて落ち着かせ、一同の話を纏める。

「……とりあえず、事情を聞かせてほしい。クレア、私達も…エリナさんのことを話してやろう」
「…そう、ね…。ごめんなさい…取り乱してしまって。…話してくれる?」
「…はい…全て、話します」

ハザードもクレアを見つめて言った。エリナがクレアの妹であること、そしてクレアからも話を聞かなくてはいけない。
ジーザス達は不安げにその背中を見つめた。



********************************



それからハザードとエリナは再びソファー席に戻り、ハザードはジーザス達に話した過去を全てジムとエリナに話した。エリナとの出会い、研究所での事件、エリナとの逃亡生活。その間、クレアは何度か涙を堪えて俯いた。そして全てを話し終えると、クレアは言った。

「……エリナはわたしの双子の妹です。わたしの旧姓はカリス」
「双子……」
「ええ。双子といはいえ、顔は同じでも性格はわりと違ったのよ。あの子は明るくて社交的で素直な子。わたしはどちらかといえば内に篭りがちなタイプだったわね。でも、二人ともとても仲が良くて…エリナはわたしにとって最高の妹だった」
「…氷麗の体質能力がエリナとルーナに共通しているのも、おそらく隔世遺伝のようなものなんでしょう。体質能力は血筋によって遺伝することが多いですから」

ジーザスが思わず呟き、エリナが続けた。そしてハザードが体質能力の遺伝について説明する。
クレアとエリナは姉妹は姉妹でも、双子だった。だからこそ顔立ちは同じで容姿も似ている。娘のルーナが母クレアより叔母エリナに似ているのもクレアとエリナが双子であることに関係していた。同じく、体質能力も。
クレアは体質者ではないようだが、彼女を通して氷麗の体質能力はルーナにも宿っている。おそらく、カリス家の血筋が氷麗の体質能力を宿していたのだろう。

「あの子は昔から体質者であることが原因で苛められていたの。それがトラウマで、あの子は家族以外に体質能力を隠していた。そんなこともあって、思春期は少し大変だったのだけど…それを乗り越えたエリナは人を助ける仕事がしたいと言って、ナースを目指していたの。そして、見つかった勤務先の病院はバレリアスで…エリナはバレリアスにいる祖父母の家に住みながら夢だったナースの仕事に就くことができた。その間は電話や手紙のやりとりをしていたから…本当にあの子は楽しそうだった」
「……」
「その時、あの子が手紙に『気になる人がいる』って書いてきたことがあったのよ。それが、『患者さんで、ハリー・ディランさん』だった」
「…!エリナが…」
「『すごく優しくて、少し恥ずかしがり屋で、とても頭の良いすごい人なのよ』って……あの子が恋をするなんて初めてだったから、わたしも嬉しかったの」

ハザードも知らない、家族だからこそクレアだけが知るエリナの秘密。エリナは初期からハザードに想いを寄せていたのだ。それをこっそり、遠方の姉だけに相談していた。やはり、あの病院でのひとときは間違いではなかった。エリナも自分を想ってくれていた。ハザードは驚きと郷愁を感じる。

「でもある日突然、エリナの手紙が途絶えた。電話も繋がらなくなって…お父さんがヴェルヌ警察を通してバレリアス警察に行方不明の届けを出したのだけど…」
「バレリアス警察からは何の返答もなく、そのまま年月が過ぎた。…今思えばあれはハザード君の言う通り、軍部によって捜査すらされなかったんだろう」

辛そうにクレアの肩を抱くジム。彼も夫として、妻の妹の捜索願いを嘆願していたのだ。だが、何せ外国の捜査に口出しはできない。歯痒い年月だったろう。クレアは長いこと、行方不明者扱いのままになっていた。

「そんな中…十年近く前、バレリアスのカルドネさんっていうご老人から突然連絡が来たの」
「!カルドネ…」

その名前に反応するハザード。バレリアスでハザードに剣を教えてくれた老人だ。そして、エリナの死後、遺体と遺品をヴェルヌに返すよう頼んだ人物。

「…ええ。さっき、ハザードさんがお話してくれた人よ。あの方は…行方不明になっていたエリナを探していたわたし達夫婦のもとにある日連絡を入れてきて…『妹さんが事故に巻き込まれて亡くなった。故郷で弔ってほしいという遺言から、ご遺体の確認と遺品の回収をお願いしたい』と言ってくださったの」
「…俺もその時、クレアと一緒にエリナさんを迎えに行った。カルドネ老人はわざわざヴェルヌまでエリナさんを連れて来てくれて…俺とクレアは彼女をヴェルヌの墓地に埋葬したのだ」
「………そう、だったんですか…」

ハザードは俯く。カルドネはわざわざエリナの遺体と遺品を直接家族に届けてくれていたのか。あれから会っていないが、心から感謝していた。エリナはちゃんと家族の元に帰れたのだ。

「……やっぱり、そうだったんだね…お母さん…」
「そういえば…ルーナはエリナさんが叔母さんだって気付かなかったね」

ロギアが思い出したようにルーナに言う。確かに、ルーナはハザードから過去のこと、エリナのことを聞いた時に、エリナの名前や職業、氷麗の体質能力を聞いても自分の亡き叔母だと気付かなかった。

「あぁ…うん。お母さん、昔から叔母さんのことは話したがらなかったし…事故で亡くなったってことしか知らなくて。写真はずっと飾ってあったけど、体質者ってことも知らなかったし…あと、名前…エリナさん、って…」
「そうね。ルーナの前ではあの子の正式な名前を呼ばなかったわね」
「どういうことですか?」

ルーナとクレアの会話に疑問を持ったジーザスが問いかける。

「エリナの名前をあまり出したがらなかったのは本当よ。ずっと…あの子の死が受け入れられなくて。ルーナの前でエリナのことを語るのもできず…叔母さんがいたのよ、っていうことだけは言ってあったけど…ルーナの前では愛称だった『エリィ』としか呼んでなかったから」
「そう、エリィ叔母さん。ずっとそれが本名だと思ってて…ハザードの話を聞いた時、まさか同一人物だとは思わなかったから…」
「…ごめんなさい。過去に捕らわれてあの子の死から目を背けていたのは…誰よりもわたしだったのね。あの子は何らかの事故に巻き込まれて死んだ…でも、ハザードさん…いえ、ハリーさん。あなたとお会いして、よくわかったわ」

そう言うとクレアはそっとハザードの手に触れた。

「!」
「あなたは最後まで…妹を愛し、守ってくださったのね。心から、お礼を言います。ありがとうございます…」
「…!そん、な……俺は…むしろ、守れなかった…あなたの大事な妹を巻き込んで…俺は…」

そこでハザードは言葉が続けられなかった。エリナの面影を残す、彼女の姉から全てを許された気がしたのだ。感情が滝のように溢れてきて目頭を押さえるハザード。このままではみっともなく号泣してしまいそうだったからだ。

「…もうアンタの罪は許されているんだよ。ハザード」
「そうだよ、ハザード。…エリナ叔母さんだってきっと…あなたが幸せに生きてくれることを願ってる」

ロギアとルーナの言葉もハザードを後押しする。今まで半ば贖罪のために生きてきたハザードだが、エリナとよく似たルーナと出会ったことで再び光の差す世界へ歩き出すことができるのだ。

「………ありがとう」
「!」

ハザードが本当にか細い声で呟いたことにジーザスだけが気付いた。彼もきっと…嬉しいのだろう。今すぐでなくても、過去のことも乗り越えていけるはずだ。そんな時、ロギアが話を切り出した。

「ところで…ここで言うのも何なんだけど…ハザード、アンタこれからどうするつもりなの?」
「えっ?」
「アンタはこのままオズボーンファミリーにいるつもりなの?」
「……」

ロギアの発言に驚いた表情のルーナだったが、ハザードは予想していたように落ち着いていた。ジーザスも頭の隅にはずっと考えていたことだったが、ハザードがオズボーンファミリーに協力し、自分の剣の師匠になってくれたのはあくまでもルーナを黒幕ネレイドから守り、白雪計画を潰すという前提。
白雪計画が果たされた今、もうハザードがオズボーンファミリーにいる理由もなくなっている。この先、彼はどうするのだろうか。

「ハザード…」

ルーナもそれはわかっているのだが、こんなに親しくなった、しかも自分だけでなく自分の叔母エリナも救ってくれたハザードと離れるのは寂しい。そんな視線をハザードに投げかけている。だが、彼自身がオズボーンファミリーを離れると決めたなら止めることはできない。
少し考えたハザードだったが、溜息をつきながら彼は口を開いた。

「…俺はお前に剣を教えている。それを中途半端で投げ出すことはできない。それに研究資料も全部、屋敷に置いている。今更それを再び運び出すのも面倒だからな」
「!それじゃあ…」
「…これまで通り居座らせてもらう」
「よかった…!」

心から安心したようにルーナは微笑み、ジーザスも一息ついた。確かに剣の鍛錬も中途半端だったし、やはり口は悪いとはいえ、既にジーザスの中でもハザードは仲間の一人だった。そこでルーナはもう一人、同じ状況にある人物のことを指摘する。

「あっ、でも待って。ロギアはどうするの?ロギアはクラウンの人だから、他のお仕事もあるし…」
「あ…そうか。ルーナの護衛ももう終わりか…」
「ああ、うん。そこは平気だよ。アタシ、まだしばらくオズボーンファミリーに厄介になりまーす」
「え!?そうなの!?」

ロギアはクラウンの特殊任務を担う特務部隊の隊長。いち隊員ならともかく、隊長が別組織にずっと滞在しているというのはさすがにまずいのではないか。勿論、ジーザスもルーナもハザード同様、ロギアにいてほしいのは山々だが…。

「実は先生に言われたんだ。今回の事件は世界に広がったから、オズボーンファミリーが狙われることも増えるかもしれない。だから念のため、オズボーンファミリーに力を貸してあげてほしいって」
「で、でもクラウンの仕事とかあるんじゃないのか?」
「うん。だから、オズボーンファミリーに滞在しながら特務の任務をすることになったの。あと、正式にオズボーンファミリーとクラウンが協定を結んだから、時々手伝ってほしいんだよね」
「それは別に構わないけどよ…」

いつの間にかオズボーンファミリーとクラウンが協定を結んでいた。おそらくアーロンが手を回していたのだろう。ロギアの任務の手伝いというのは特に異存はない。むしろジーザス自身、興味があったし、何より剣の腕を発揮できる現場だろう。
心配なのはロギアの体力面だ。オズボーンファミリーにいながらクラウンの任務をこなすというのはかなり大変なことだと思うが…。

「ロギア、お前大丈夫か?結構ハードそうだけど…」
「大丈夫だって!アタシが人と違うこと・・・・・・知ってるでしょー?」
(!自動人形…)

ジーザスとルーナは直感した。ロギアは人間ではない−−自動人形だからこそ人並み以上のハードなことでもこなすことができる。ロギアは明るくウインクしてみせた。

「まっ、そういうことで引き続き宜しくね!」
「お、おお…」
「じゃあ…ロギアもハザードも一緒にブリタナへ帰れるね」

嬉しそうにルーナが笑った。その笑顔を見て、ジムもクレアも顔を見合わせて安心する。娘が選んだ世界はけして闇の世界ではない。仲間達と正義を貫くための希望の世界なのだと。


********************************



ルーナ宅で過ごしたジーザス達は夜には再びブリタナへ向かう船に乗った。乗船してすぐ、次第に空が橙から濃紺へ染まっていき、海も暗がりになると同時に船上から見えるブリタナの島に住宅の明かりが灯っていく。紺色の背景に温かな色の明かりが映え、その景色はまるで絵本の挿絵のように美しい。
ヴェルヌからブリタナまでは船で三十分。ジーザス達がブリタナに着いた時、街のところどころが修復作業中だった。
先日のヴェルヌ警察特殊部隊とオズボーンファミリー、クラウン隊員による衝突戦の影響で一般住民宅は一部が破壊されてしまったため、オズボーンファミリーの全負担で修理が行われている。同時にジーザス達は住民達がジャポンから戻ってきていることにも気付き、安心した。皆、ジーザス達を見つけると口々に「お帰り」と声をかけてくれる。彼らも避難したジャポンである程度の事情を聞いていたらしく、ルーナを見て「大変だったね」「よく帰ってきてくれました」と、優しい言葉をかけ、ルーナはその度に泣きそうになってロギアに肩を抱かれていた。やはりこのブリタナの人々はとても思いやりに溢れている。
そうして、彼らがオズボーンファミリーの屋敷に帰ってきたのは夜の九時過ぎだった。構成員達やメイド達が出迎え、ようやく帰ってきたと実感する。玄関にはムイがいち早く駆けつけてきた。

「お帰りー!ルーナ、ロギアー!」
「ただいまー!」
「た、ただいま」
「…なんで俺らには出迎えの言葉がないんだよ」
「チィッ…」

ものすごく笑顔で迎えてくれたムイだが、その言葉と視線はロギアとルーナにだけしか向けられていなかった。そんなムイに不機嫌そうなジーザスと慕うとするハザード。やはりムイは美人に弱い。そんなところも相まってジーザスの父アーロンとは仲が良い。主に女性談義で盛り上がっているようだ。

「いやぁ色々大変だったなぁ!」
「そういやムイ、お前、あの戦いの時どこ行ってたんだ?」
「あっ、はい。隠れてました。…違うんだよぉ!アーロンさんからの指示で戦闘部隊の連中が何人いるかとか、建物の物陰に隠れてるやつを見つけたりとか!そういうのを遠隔から調べてテルボロの叔父貴に通信で伝えてたんだってー!!いやこれマジだからね!」
「あ、そういや先生がテルボロさんと合流した時にそう聞いたって言ってたよ」
「ほらみろ!」

ムイは衝突戦の時に姿を見せなかったが、きちんと裏でサポートしてくれていたようだ。ロギアの証言でそれが真実だとわかり、ジーザスは納得して溜息をついた。

「はぁ……で、ムイ。親父と叔父貴達は?」
「ああ、お前らの帰りを待ってたようだぜ。今はアーロンさんの執務室だ」
「執務室?こんな時間に…」

既に夜だというのに仕事をしているのは珍しい。とにかく帰ってきた報告をしなければならない。ジーザス達は揃ってアーロンの執務室に向かった。

オズボーンファミリー邸の二階にボスの執務室がある。重厚な造りの内装で、中にはボス専用の高級そうなデスクと本革のソファー、本棚、客人用のテーブルとソファーが置かれていた。現在、そのボス専用ソファーに座るのはアーロン、そしてその側にはムイとシェンノがいる。
部屋にノックが響くと、アーロンが「入れ」と声をかけ、ジーザス達が入ってくる。ちゃっかりムイも一緒だ。

「親父、叔父貴。帰ってきたぜ」
「た、ただいま帰りました…」
「ルーナちゃぁぁん!お帰りー!いやー大変だったねぇ!」
(こっちもか……)

息子の帰還よりも真っ先にルーナをデレデレしながら出迎えるアーロンにジーザスは呆れるしかない。代わりにテルボロがジーザスに言った。

「ジーザス。帰ったな。ルーナ嬢、ご両親に会えたか」
「は、はい!ありがとうございました…何から何まで」
「いや、こちらこそ本当にすまなかった。今回の事件はオズボーンファミリーにも多少の責任はある」

テルボロはルーナに今回のことを謝罪した。ルーナは慌ててそれを否定する。

「そ、そんなことないです…!あ、あのわたし…引き続き、ここでお世話になろうと思って…」
「勿論全然オーケーだよ、ルーナちゃん!」
「あ、…は、はい…」

ルーナはこのままオズボーンファミリーに滞在させてほしい旨を伝えようとしたが、アーロンはもはや遮るようにしてそれをあっさりと了承。ルーナも意外に早く了承されて驚き、呆気に取られている。

「ハザード殿もロギアちゃんも勿論いてくれて構わないからねー!」
「ありがとうございます」
「ありがとうございますー!アーロンさん!」
(なんかそのままの流れで…)

ジーザスはアーロンがルーナだけでなくハザードとロギアの滞在まであっさり許したことに溜息をつくばかり。だが、その心の広さが彼の人間的魅力なのかもしれない。

新生・・オズボーンファミリーも賑やかになりそうだ」
「?シェンノの叔父貴、それってどういう意味だ?」

ジーザスはシェンノが笑いながら言った言葉の意味がわからなかった。新生とはどういう意味なのか。
すると、先程までヘラヘラしていたアーロンの表情が変わる。時折見せる、ボスとしての顔。ジーザスはアーロンがこの顔つきになると妙な緊張感を持ってしまう。

「…ジーザス。今回のことで私は決めた。そしてテルボロとシェンノと話し合った。……ジーザス。私は明日をもってボスの座を辞する。そしてお前にボスを継承する」
「!!な…何だと…」
「ジーザスが…ボスに…」
「へえー…おめでたいことだねぇ」
「……」

アーロンの発言はまさに衝撃的だった。アーロンの息子であるジーザスがいずれオズボーンファミリーのボスとなることは当然といえば当然。
だが、それがこんなにも突然来るとは誰も思ってもみなかった。ジーザスもルーナもロギアも目を見開いて驚き、ハザードは反応こそ薄いものの意外そうだ。

「お、親父、なんでこんなタイミングで…突然…」
「前から考えていたことではあったが、今回の一件でお前は大きく成長した。同時に『誰かを守るために戦う』という意思を強く持つようになったことで…私は今のお前なら組織を任せられると感じたのだ」
「…親父…」

アーロンの言葉を受けてジーザスは決意する。

「……わかった。俺、オズボーンファミリーのボスを継ぐ…まだまだ未熟だけどよ…俺だってこの島や皆を守りたい!」
「ジーザス…」

強く宣誓するジーザスを見てルーナは僅かに頬を染める。その眼差しから、背中から、強い正義を感じた。ルーナが抱く正義と同じもの…。ジーザスとルーナが思い描く正義は同じ道。「人を守る」という正義だ。

(この人となら…正義を信じられる…)



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その次の日。オズボーンファミリー邸の玄関前広間には大勢の人だかりが出来ていた。島中の人々が集まり、その目の前にはオズボーンファミリーの構成員達が並び、特設の壇上に上がるアーロンとジーザスを見つめる。
この日、オズボーンファミリーのボス継承の儀式が行われていた。先代からの作法にのっとり、ジーザスがアーロンの前に跪いて手の甲にキスを落とし、アーロンがスーツに付けていたオズボーンファミリーの家証の形をしたバッジを外すと、立ち上がったジーザスのスーツの胸に付けてやった。これが初代ボスのジェイムズ・オズボーンから受け継がれるボスの証。ジーザスはそれを自らに付けてみて改めて自分がボスになったのだと少し気恥ずかしく、そして誇らしかった。
その様子を、ルーナ、ロギア、ハザードの三人はムイ、テルボロ、シェンノと一緒にオズボーンファミリー関係者の席から見ていた。ルーナは頬を染めてしっかりとジーザスの立派な姿を見て、ロギアはルーナよりいささか落ち着いた面持ちの笑顔で見守り、ハザードはいつもと変わらず眉間にシワを寄せた表情だが、どことなく穏やかな雰囲気に思えた。
こうして、ジーザス・オズボーンは四代目オズボーンファミリーのボスとなった。同じ頃にヴェルヌ警察との和解が正式に成立し、長年にわたるオズボーンファミリーが凶悪犯という誤解は解け、そのニュースは全世界の警察や裏社会に知れ渡った。
ジーザスがボスを継いですぐ、アーロンをはじめ、テルボロとシェンノはなんと屋敷を出ていった。勿論、喧嘩別れなどではなく、以前から決めていたことだとアーロン達は言った。ジーザスにボスを継いだ後、アーロンは前々から予定していた世界旅行に、テルボロとシェンノはそれぞれブリタナの街に念願の一軒家を購入し、そこで穏やかに余生を過ごしたいそうだ。彼らは長い間、オズボーンファミリーのために尽くしてくれた。ゆっくりと休みたいというのも十分に理解できる。
そこで、すぐにジーザスはあることをハザードに提案した。あえて、ルーナもロギアも呼んで同席してもらって。

「ハザード…お前に、ファミリーの相談役になってもらいたいんだ」
「……何だと?」
「…相談役?」

いつになく真剣な眼差しのジーザスの言葉に、ハザードとルーナの言葉が若干重なった。

「オズボーンファミリーにはボスと、その下の地位として『相談役』っていうのがある。いうなればボスの補佐だ。親父の代はテルボロの叔父貴が相談役だったんだけどな。…それを、ハザードに頼みたい」
「……何故、俺だ」

現在のハザードはロギアと同じく客員構成員。あくまでもオズボーンファミリーには「滞在」しているに過ぎない身分だ。ジーザスの剣の師匠であり、オズボーンファミリーの空き部屋で体質能力の研究も行っているが、オズボーンファミリーの構成員ではなかった。だが、相談役となれば話は変わってくる。正式にオズボーンファミリーに加入することになるが…。

「お前は…性格は悪いけどよ、信頼できるヤツだ。俺が今まで出会った人間の中で一番頭もいいし、頼れる…俺はまだまだボスとしても全然なってないし、剣士としても弱い。だから、お前に補佐してもらいたいんだ。より良い組織になるように、お前の知恵を貸してくれないか…」
「………」

ハザードは向かいの席に座るジーザスをじっと見つめる。どうやらハザード本人、返事を迷っているようだった。オズボーンファミリーに滞在するとは言ったが、ファミリーの構成員になるということは定住を決めること。こればかりはルーナも説得するということとは違うと思って口を挟めなかった。するとルーナの隣に座るロギアがあっけらかんと言った。

「いいんじゃない?ハザードにとっても悪くない話だと思うし。…アンタの知恵でオズボーンファミリーを支えてやりなよ。それってきっと…エリナさんが望んでいたことだと思う」
「…エリナが望んでいたこと、か…」

ハザードの語った過去で、エリナは最期に、ハザードが人を救うことを望んでいた。オズボーンファミリーの相談役になり、組織と共に人を守るために戦う…。

「………わかった。受けよう」
「!ハザード!」
「正式にオズボーンファミリーの構成員となり、相談役の役目を受ける。…それでいいだろう」
「お、おぉ…!あ、ありがとうな…」
「勘違いするな。貴様に忠誠を誓う訳じゃないからな、だいたい貴様をボスとしてはまだ認められん。俺よりも弱いボスだからな」
「なっテメェ!!こっちが下手に手出ればっ!」

ハザードは相談役を引き受けた。しかし、すぐにジーザスとは普段通りの口喧嘩に発展する。その様子をルーナとロギアは苦笑いしながら見ていた。

「あぁー…結局いつも通りだね」
「でも、なんだかんだ楽しくなりそうだね、新しいオズボーンファミリーの生活も」
「…うん!わたし、すごくワクワクしてるよ。新しい生活が始まる…人を守る正義の新生活が!」

ルーナは嬉しそうに笑った。これから始まる、新しい生活に希望を抱いて。
正義の形は一つじゃない。人によってそれは変わってくるものだろう。ルーナが最初に思っていた「悪人を逮捕する」という正義が、ジーザスとの出会いによって形を変えたように、正義は簡単には決められない。
ジーザスやオズボーンファミリーの掲げる「弱き人を守るために戦う正義」、ロギア達クラウンの「体質者を保護し、体質者の起こす事案を捜査解決する正義」、かつてハザードがしたように「愛する人を守るためだけに犯罪を犯す正義」、ヴェルヌ警察が目指していた「世界的な悪を憎み、倒す正義」…正義はいくつも存在するが、どの正義が正しいのか、それは誰にもわからないのだから。
氷雪を操る白雪姫が思い描く正義はまるで氷のように美しく、そして脆い。けれど、その正義は時に形を変える。ルーナはその形をこれから探していくことにしたのだ。
白雪姫の瞳は氷の結晶のように、これからの未来にある希望を浮かべて輝いていた。


27.白雪姫の正義





第1章:白雪編 完
第2章へ続く...






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