そして、ついに神戦当日が訪れた。その名の通り、神の前で戦う聖なる決闘。太古の昔からあらゆる決め事をこの決闘で決めたと伝えられている。
ロマーナにある神戦の為に作られた円形の闘技場に集まったジーザス、ルーナ、ハザード、ロギア、鼎、冬一、ガイスト。宣言された開始時刻は夕方だったが、早めに出発した一行の頭上に広がる空はまだ青く澄み渡っている。
あたりをぐるりと見渡せば、観客席が自分達を見下ろしているような威圧感を感じる。観客席のどこからでも広場で戦う戦士達がよく見える構造のようだ。闘技場の入り口から入り、観客席に囲まれた広場にやって来て、ルーナは改めて驚きの声を漏らす。そんなルーナに対し、ガイストが慣れた口調で言うが、もしかしたらガイストはここに来たこともあるのかもしれない。

「うわぁ…すごい広い…」
「ここ数年は全然使われてなかったがな」

そのガイストの隣で冬一が何かに反応し、真正面を強い眼差しで見つめた。ジーザス達も釣られて同じ方向を見ると、そこにいたのは、ロックハート率いる番人達。その中には同じようにこちらをじっと見つめているダンもいた。冬一と見つめ合っているように見えるが、ダンの方の表情からは何を考えているのか、はっきりとはわからない。ただ、じっと冬一を見ているだけ。

(ダン…お前を必ず取り戻す…)

冬一はダンを見つめながら改めて決意する。今のダンは冬一の話をまともに聞いてくれないだろう。だからこそ、この神戦で冬一はダンと戦って決着を付け、ロックハートの罪を暴いてみせる。そう思っているとダンはフイと目を逸らしてしまった。
すると、ロックハートが相変わらず優しい老紳士の笑みを浮かべて声を発した。

「やあ、逃げないで来てくれて嬉しいよ」
「…逃げる訳ないでしょう」

鼎がロックハートに対し、睨むような視線と低い声色で言った。ロックハートは未だに紳士面をしているあたり、よほどの余裕があるのだろう。ロックハートはジーザス達をぐるりと見渡す。

「神戦は手紙にも書いたとおり、夕刻の五時から開始する。それまでは各自の控え室で待とうではないか」
「テメェ…!」

ジーザスが敵対心剥き出しでロックハートを強く睨むが、向こうには全く響いていないらしい。
ロックハートの言う控え室というのは、神戦参加者の為に闘技場内に用意されている部屋だ。ジーザス達がここへ来た時に確認できたが、闘技場は入り口が二箇所あり、それぞれ向かい合うように対になっているらしい。さらに、今自分達がいる広い闘技場スペースに向かう道の途中に階段があり、観客席へと繋がる道と、それとは別に控え室があるようだったが、その間取りもロックハート達の側と同じらしかった。
そこで初めてダンが口を開く。

「…そちら側の出場者は誰かしら」

ロックハートが放つのはダン達番人の四人だが、クラウン側の対戦相手が気になるようだった。しかし、その表情から察するに何となく誰が出るかはわかっているかの様子。それに答えたのは冬一だった。

「…俺と、ジーザス…ハザードとロギアだ」
「そう……なら、容赦はしないわよ」

ダンは冷たく言ってそのまま背を向け、出入り口の方へ歩き出す。そんなダンの態度にチェーンは溜息をついた。

「珍しい。ダンがあそこまでマジになるなんてよ」

チェーンは神戦というものを目の前にしてもあまり緊張もしていない様子でヘラヘラと笑った。側にいたカルメンと刃矩はしっかりと真剣な雰囲気を醸し出していたが、チェーンの言葉に少し呆れ気味のようで、カルメンがチェーンに向かって言う。

「お前はまた…少しは緊張感を持て」
「まあ、俺らの実力なら平気だって。オズボーンファミリーのボスさんよ、決着付けようぜ」

まるでガキ大将が浮かべるような無邪気でいて、どこか不敵な笑みを浮かべたチェーンに対し、ジーザスも睨みつける。二人はロックハート邸で戦った因縁がある関係。ジーザスの方もチェーンと決着を付けたがっていた。

「…望むところだ!」
「いいねえ。じゃ、後でやり合おうぜ」

片手を上げ、チェーンもダンの後を追って去っていく。カルメンと刃矩はロックハートを見て今後の行動を尋ねたようだが、ロックハートはクスリと笑い、頷く。

「では、我々も失礼するよ。私は観客席から楽しませてもらうさ」
「…こっちも負けないよ」

鼎の言葉にロックハートは笑みを崩さず、刃矩とカルメンと共にその場を去っていった。残された冬一が渋い顔をするが、それを隣で見ていた鼎が目を細めて呟く。

「…兄さん…大丈夫。兄さんの気持ちはダンちゃんにきっと伝わるはずだよ」
「鼎…」
「ただ、今のダンちゃんには兄さんの言葉が届かない。だから…兄さんはダンちゃんと戦って…その言葉を伝えてあげて…」
「…ああ、わかってるさ」

冬一は妹の言葉を受け、改めて決意をするのであった。



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その様子を闘技場の観客席の一番高い席から黒いコートを靡かせて見下ろす人影がいた。

「………フン。クラウンか…。どっちにしろ、これで決着が付くって訳だな」

少し冷めたような、第三者視点で人影…ファントムは去っていくクラウン側とロックハート側を見つめて呟く。その背後にもう一人の人影が現れてファントムに話しかけた。

「…何を考えているんだい」
「……テメェには関係ねえよ」

声をかけてきたのはクリスだった。クリスは僅かにファントムの顔色を伺うような表情をしていたが、そんな彼に対してファントムは眉間にシワを寄せてぶっきらぼうに答える。

「ダンのためにと思って色々やってた僕らだけど…でも…このまま公爵に従い続けるのは…ダンのためにはならない…」

悲しげに呟くクリスに対し、ファントムは苛立ったように振り返るとその顔を見つめた。

「テメェ、何わかったようなこと言ってんだよ!ダンは俺のモノになる女だ!ダンに惚れたからこそ、アイツのためだけに協力してきたがな。それはロックハートのためじゃねえっつーの!」

ファントムは怒鳴ったが、どことなく何か寂しげな雰囲気を纏って言った。それを聞いてクリスはさらに悲しげな顔を浮かべる。

「…僕は…確かに行く宛のなかった僕を秘書として召抱えてくれた公爵に恩義を感じていたよ。でも…公爵の真の目的を知った時、僕は…目をつぶった。僕は…あの屋敷に仕えてから…」

そこで一旦言葉を区切ったクリスは、迷いのない目になってファントムを見つめた。

「僕は…ダンを好きになった。だから僕も同じように彼女のために力を貸してきたんだ…!」
「…バカが…!テメェはバレバレなんだよ。すぐにわかったっつーの…」

吐き捨てるようにファントムは舌打ちをする。彼はクリスのダンへの想いを既にわかっていたようだった。

「お願いだ。協力してくれないか…ダンを救うために…」
「…チッ。…テメェと同じことを考えるとはな」
「!それじゃあ…」
「勘違いすんじゃねぇぞ!俺はいい加減あのジジイの趣味に飽きただけだ」

相変わらず態度が悪いファントムだったが、クリスはその様子に少しだけ笑みをこぼした。

「とりあえず、俺達は俺達で動く。神戦の決戦はダン達とクラウンの連中に任せとくぜ」
「わ、わかったよ…『兄さん・・・』」

クリスがファントムに向かって言い放つ。
そう、クリス・ミッドナイトとファントムは実の兄弟であった。髪の色や纏う雰囲気は異なるが、よくよく見れば整った顔立ちや前髪の形は似ていて、目の色は同じ空色だ。
だが、兄弟というには二人の関係性はどことなく違和感がある。その理由は現段階では、この兄弟にしかわからない。兄弟揃って一人の女性を愛したということ以外は…。



********************************



そしてついに夕刻になった。時刻は午後五時を指している。橙色の夕日を浴びる闘技場には番人四人…ダン、チェーン、刃矩、カルメン、そしてジーザス、ハザード、ロギア、冬一が対峙していた。
それぞれの戦士達の後方の観客席にはその戦いを見つめる者達がいる。番人側にはロックハートが余裕そうな表情で不敵に微笑み、紳士らしく杖を持ちながら座っており、側には不安げな表情のクリスが立っている。
ジーザス達の側の席には真剣な顔つきの鼎とガイスト、ハラハラした顔でジーザス達の姿を見つめるルーナがいた。

「鼎さん…ガイストさん…ジーザス達は…大丈夫ですよね…」

ルーナはやはり心配なのか、隣の席の鼎とガイストに尋ねる。鼎は落ち着いた口調で返事をした。

「そうだね…。アタシでもはっきりしたことは言えない。勿論、ジーザス君やハザードは人並み以上に強いだろうし、ロギアや兄さんの実力はとても知ってるつもりだけど…。相手があの番人だからね」
「ああ。前の報告じゃ、番人は一筋縄ではいかない連中だっていうからな。体質者でもないあのノーマル三人も恐らくジーザス達と互角だっていうのに、問題はあの巨乳美女だな」

ガイストも顎に手を当てて呟いた。ルーナは思わず闘技場内のダンに視線を移す。やはり、番人で最も厄介なのがダンだ。

「ダン……ですよね…」
「そうね、本当にあの子は百年に一度レベルの天才体質者だよ。世にも珍しく、そして高い力を持つ体質能力『幽K』…。その力だけでなく、直接的な戦闘能力も高い。まさにプロの殺し屋の才能を持ってる子。そして特に兄さんはダンに手加減してしまうかもしれない。でも向こうは本気で殺しにかかってくるだろうから…そこで差が生まれてしまうかもしれない」
「そんな…!」

鼎の言葉にルーナはさらに不安が募る。だが、そんな彼女達をよそに、ついに今まさに戦いが始まろうとしていた。夕日が沈み始めようとゆっくりとゆっくりと動く中でダンはクスッと微笑みを浮かべて言った。

「…かつてこの場所で戦士達が己の信念のため、神に誓って戦ったというわね。私達も同じように己の信念を懸けて戦う…その覚悟は出来ているようね」

笑みを浮かべているが、その態度は落ち着きの中に深い炎を宿しているようにも感じられる。冬一はそんなダンをまっすぐ見つめていた。

(ダン…お前は…)

そこで、ジーザスは腰にさした愛刀、黒烏にそっと触れながらダンの言葉に答えた。

「勿論だ!俺達は負けたりしねえぞ!」
「ふふ。さすがだわ。…私達も久しぶりに手応えのありそうな人達と戦えることを楽しみにしていたもの。楽しませて頂戴ね?」

クスッと笑ったダンの表情は夕日に照らされていつも以上に官能的に見えた。それに対し、ロギアも口元にのみ笑みをこぼして言う。

「さあ、楽しんでられるかな。アタシ達もアタシ達で本気だしね」
「…我らとて本気だ。だが、もう言葉は不要だろう。……得物を抜け」

ロギアの言葉に返事をした刃矩が途端に殺気を帯びて愛刀の神無を抜いた。それをきっかけにするようにしてカルメンもナックルを装備した巨大な拳を構え、チェーンも腰の後ろに挟んでいた鎖鎌を取った。
そしてダンも、手を上空にかざすと、ボウッと紫色の光が浮かび、ダンの手に光を纏った巨大な剣斧ブレードアックス、ベルヌイユが握られた。

「来るぞ!」
「…貴様に言われずともわかっている」

ジーザスも黒烏を抜き、他のメンバーに向かって叫んだ。ハザードはそれに悪態をつきつつも、視線はまっすぐに番人達に向きながら鬼神を構えた。ロギアはまだ腰の刀の蒼月は抜かずに体術メインで戦うようで、カルメン同様に拳を構える体勢になった。
最後に冬一もゆっくりと黒帝を抜く。その動作には人一倍強い決意が宿っていた。

「……行くぞ!ダン!」
「…ええ!」

まるで味方同士のような、恋人同士のような冬一とダンの掛け合いでついに戦いが始まった。互いに走り出し、まず冬一の黒帝とダンのベルヌイユが振り下ろされ、刃がぶつかり合う音がした。武器と武器が弾き合い、二人が反動を受けたが、互いにそれは事前に察知していたようで距離を取る。
そこを身軽なロギアが飛ぶようにして入ってくるが、ロギアの目の前に巨体を持つカルメンが立ち塞がる。ロックハート邸でやり合った二人だ。

「来たね!デカブツさん!」
「小生意気な娘め…潰してやるぜ!」
「やってみれば!」

カルメンがその拳でロギアに殴りかかるが、鳥のようにしてロギアは飛び上がり、カルメンに向かって彼よりもずっと小さい拳で殴った。
本来であればカルメンほどの大男に対してロギアのような小柄な体格での腕力は敵わないはずだが、そこはさすがにクラウンでも屈指の戦闘力を誇る自動人形。ロギアの拳は風を纏い、カルメンの腹部に当たると軽く吹き飛ばされた。

「ぐっ…!」

だが、カルメンも勿論耐久力は高い。刃さえも弾くほどの鋼鉄の体を持つカルメンはロギアのパンチを受けても倒れることはない。ロギア自身はそれも想定済みだったが、もう少し吹き飛ぶかと思っていた。

(やっぱり面倒だな…普通の人間だったらこれくらいで倒せるんだけど…)

勿論、殺さないように手加減はしているが、それでも普通の人間なら気絶させるレベルの攻撃。そう思っていると突然、カルメンの拳がロギアに降りかかろうとしていた。

「はああああっ!!」

カルメンの握り拳はまるで隕石のように巨大で力強く感じた。ロギアは再び避けようとしたが、今回はロギアを狙った攻撃ではなかった。

「!?」

これにはロギアも驚きを隠せない。今度も自分を直接狙ってくると思ったのだが、カルメンの拳はロギアよりも少し手前の地面を攻撃していた。地面は整備された土で出来ているが、カルメンの巨大な拳は土を抉り、それこそ隕石が落ちたクレーター痕のようにめり込んだ。

(わざと地面を攻撃した…どうして…?)

カルメンはそのまま拳をどんどん地面にめり込ませていく。すると、クレーターからひび割れていった。それは大きなうねりのようになってロギアに向かっていき、ロギアの足元が大きく割れた。それはロギアにのみ向かっているようで、まわりで戦うジーザス達には届いていない。明らかにロギア単体を狙った攻撃のようだ。

「!!おっとぉ…!」
「食らえ!『グランドクラック』!!」

このままだとロギアは地割れに巻き込まれてしまう。深さは浅いが、巻き込まれれば明らかに危ない。

「これで終わりだ!」
「終わらせないよ!!」

ロギアはカルメンに向かって叫ぶと、自らも拳を地面に叩きつける。そこで風の衝撃波が起き、カルメンの放った地割れに向かっていく。風と地割れがぶつかり合うが、ロギアの起こした風は地割れと互角の威力だった。

「アタシだって負けないよ!力自慢ならねっ!!」
「望むところだ!」



ロギアとカルメンの戦いが白熱している中、距離を取った場所ではジーザスとチェーンが向き合っていた。

「はー、あっちは凄まじいねえ」

チェーンがカルメン達の戦いを横目で見ながら呟いた。飄々としていてまだ余裕があるような顔だが、ジーザスは敵意剥き出しでチェーンを睨んでいる。

「今度こそお前を倒してやる!行くぞっ!」

ジーザスは黒烏を構えて走り出す。チェーンもようやく目つきが本気になるが、口元は不敵な笑みが残ったまま。手に持っていた鎖鎌の鎖を慣れた手つきでジーザスに向かって投げつける。ジーザスは自分の体に向かってきていると感じて咄嗟に避けたが、それは間違いだった。

「!やべっ…」

チェーンの鎖は初めからジーザスではなく、ジーザスの武器である黒烏を狙っていた。鎖は黒烏に何重にも巻きつくと、チェーンはそのまま鎖を強く引っ張る。

「あっ!」
「武器がなけりゃ丸腰だろうが!これが遠距離攻撃のメリットってやつだ!」

チェーンは得意げに笑い、鎖で捉えた黒烏をジーザスから離れた地面に放り投げた。同時にチェーンは今度は鎌の方をジーザスに向かって投げる。鎖は勢いよく飛んでいき、武器を失ったジーザスを狙っていった。

「っ…んな簡単にやられてたまるかっ!」

鎌が飛んでくるすれすれでジーザスは避け、全速力で落ちた黒烏の方へ飛びかかる。

(黒烏を取り戻さねえと始まらねえ!)

現時点でのジーザスは刀の黒烏以外にチェーンに勝てる見込みのある武器はない。ロギアのように体術で敵うとは思えなかった。
しかし、それを簡単に許してくれるチェーンではない。ジーザスが黒烏を掴む前に鎖で黒烏を手繰り寄せて再び遠くへ飛ばすと、鎖の一部でジーザスの背中を打ち付けた。

「ぐあぁっ…!!」
「番人をナメるなよ!マフィア風情がっ!」

チェーンによって打ち付けられた鎖の重みはひどく痛む。このまま一方的に攻撃され続けたらまずい。

(どうすれば…ヤツに勝てるっ…)

ジーザスは苦戦を強いられる。遠距離から武器を奪い、的確にダメージを与えてくるチェーン相手にどこまで戦えるのか。一抹の不安を覚えながらジーザスは必死に作戦を考えるほかなかった。



一方、こちらはハザードと刃矩が静かに向き合っていた。互いに刀を扱う剣士同士、言葉を交わさずとも何かを感じ合っている。敵でありながら妙な宿命を感じているかのような。ロックハート邸で初めて刃を交わしたあの時から二人は互いを宿敵と認識していた。

(この仮面の男の太刀筋…今まで俺が使ってきた天城宗雷流あまぎそうらいりゅうと対照的な静の剣…)

ハザードはじっと目の前の仮面の男を見据えながら考える。静かな暗殺剣。それが恐ろしいものだということはハザードも身を以て体験している。
ハザードは何も言わずに鬼神を握って走り出す。刃先は下に向けたまま駆け寄り、そのまま下から斬り上げる。だが、それを見越していたかのように刃矩が神無で受け止め、そのまままるで舞を踊るかのような動きで受け流し、疾風の如くハザードに斬りかかる。その動作に無駄なものはない。

(隙を作ったらやられる…まさに暗殺の剣か!)

ハザードは刃矩の攻撃を弾くとわずかに距離を取り、鬼神を前方へ斬り上げる。

「…『飛雲燕斬ひうんえんざん』!!」
「!」

その攻撃はまるで空へ飛び上がってゆく燕のような動きだった。それは天城宗雷流が得意とする力強い攻撃。さすがの刃矩もピクリと反応し、後方に身を逸らして避けたが、すぐに体勢を整えて再び斬りかかる。
しばらくの間、二人の攻防は続いた。まさに互角なのだろう。ハザードも刃矩も一歩も引くことなく刀がぶつかり合った。
何度目かの衝突で二人は距離を取り、そこで刃矩が呟く。

「…今まで我が剣とここまでの結び合いをした剣士はいなかった。お主が初めてだぞ、死神の如き学者」
「癪だが、俺もお前ほどの暗殺剣の使い手に会ったことはないな。だが、最後には俺が勝つ」

ハザードの言葉に刃矩は小さく笑った。仮面で隠された目元はわからないが、口元だけで表情がはっきりとわかる。

「やり合おうではないか。我らの剣、いずれかが勝つまで…」
「…貴様の静の剣、必ず俺が超える!」



既に夕日はほとんど沈み、あたりを常夜の闇が包んでいこうとしていた。ダンと冬一は静かに互いの顔を見つめている。空の色も相まって、まるで美しい恋愛物語のワンシーンのようだ。
しかし、二人の手にはそれぞれ怪しい光を放つ武器が握られているのがあまりにも情景にミスマッチ。

「…今、お前は俺の話を聞いてはくれないだろ」
「……そうね。私は…私はお父様のために戦う。それがたとえ世界を巻き込むことでも!」

ダンはそう叫ぶとベルヌイユを冬一に向けて振る。同時に紫色の紋がベルヌイユの刃先に浮かんだかと思うと閃光が走った。

「『フォンセルージュ』!!」

ダンの叫びと同時にベルヌイユの刃先から紫の光と共に複数の衝撃波が放たれた。冬一はそれを黒帝で斬りながら走っていく。全てに決着を付けるため。冬一は愛する女と刃を交えることを決めた。

(ダン…この戦いで全てを終わらせる…いや…始めるんだ。お前の本当の自由な人生を……出来ることなら…俺と一緒に!!)


39.神戦のプロローグ






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