「…聞いてるのか…?ジーザス…どういうことか…説明してもらおうか…」
「……親父…」
凄まじい殺気を放つアーロンに少し怯みながらもジーザスは見つめ返す。自分がしたことはとんでもないことかもしれない。
「…ヴェルヌで情報屋が部下達を殺した。俺は足を撃って再起不能にさせたのを…あの女刑事…ルーナに見られた。だが、ルーナは…俺達のことを信じようとしてくれて…俺達が正しい奴らか見極めるためにブリタナに来たいって言ってくれた。だから連れてきたんだ」
「……その女がもし警察のスパイで、オズボーンファミリーの秘密を探るために来たとしたらどうする。俺達に無実の罪を着せて逮捕、もしかしたらブリタナを襲撃してくるかもしれない。そうしたら島にいる皆はどうなる」
「…っ…それでも…俺は……ルーナを信じたい。…ルーナのあの目は嘘なんてついてないと思う………親父っ!俺を信じてほしい」
「!」
「…これでも次期ボスになる男だ。…俺だってこの島だけじゃなく、外の奴らにも俺達の正義を知ってほしい!」
やはりオズボーンファミリーの血を継ぐ男。ジーザスの強い眼差しは父アーロンと似ていた。
そんな親子の視線での対決のようなものを見て、慣れたムイは笑った。
「さすがイケメンですね〜ジーザスは〜。でもさぁアーロンさん。その子、確かにいい子そうだったし何より結構可愛かったよ」
その言葉にアーロンがぴくりと反応した。
「えっ可愛いの?だったら良いよ!!ここに連れてきても!」
「いいのかよ!!」
思わずジーザスが思いきりツッコミを入れてしまった。恐らく最初からアーロンは怒ってなどいなかったのだろう。なんて父親だ。
「で、で?美人女刑事はどこ?」
「あ、今着替え待ちッス。服がちょっと汚れたまんまだったんで」
「そっか〜!じゃあ先にお茶でも用意して待ってようかな」
あっさりと先程までの殺気が消えていつもの変態ジジイになってしまったアーロン。本当にマフィアのボスなのか。ジーザスはあまりの展開に呆れて無言のまま立ち尽くしている。
「ねぇねぇムイ君、どんな子なの?そんなに可愛いの?」
「そッスね〜金髪で、肌の色が雪みたいに真っ白で、すっごいきれいな子でしたよ〜」
「おぉ〜!オジサン期待しちゃうよ〜!」
……どこから見てもスケベなオジサンである。こんな姿は今まで死ぬ程見て来たがその度に毎回、これがオズボーンファミリーのボスなのかと疑いたくなる姿だ。
「ま、ほんとに警察のスパイだったとしても特にこっちは悪い事してないしー。あっこの前勝手に海賊退治してかなり派手に暴れたよね。海賊が盗んだ貨物船の荷物、結構破壊しちゃったよね。あれはまずかったかなぁ、でも奴らの火薬庫に引火しちゃったからだし、私達悪くないよね。処理は警察に任せたまま帰ってきちゃったし。まぁまぁ、美人に罪は無いでしょ!もし騙してたとしてもチュー一回してもらって解放しようよ♪」
「……このエロジジイ!!」
アーロンの飄々とした呟きに、ようやく我に返ったジーザスのツッコミが入ったが遅れて威力は半減。再び周囲に花を飛ばしたように笑う。そんな場に部下の一人が報告に来る。
「失礼致します。お客様のお召し替えが終わりました」
「そっか〜じゃあ応接間に通しておいてくれるかな」
アーロンの言葉にかしこまりました、と一言答えて部下は部屋を出る。ジーザスは内心ドキドキしていた。
「じゃあ、俺もさっさと着替えてくる!」
「うわ早いなー」
さっさとジーザスは自室へ走っていった。身なりを整えてきちんとルーナと向き合いたかったからだ。そんな幼馴染の見た事の無い姿にムイは笑いながら見送るばかりである。
********************************
やがて、シャツとベストを着替えたジーザスとムイ、アーロンが応接間にやってくると、これまた着替えたルーナが目に入る。ソファーに座っていたが、三人の気配を感じ、ぱっと立ち上がり、その全身が露になる。その姿に三人の男達は目を見張った。
「あ…!あの、服、ありがとうございます…!」
白い肌と金髪に映える鮮やかな水色のミニワンピース。スカートの丈は太腿くらいで、足は濃紺のニーハイブーツ。スカートとニーハイブーツの間には白い美脚が見えて所謂絶対領域のようになっている。首にはネイビーの大きなリボンスカーフが巻かれ、まるで花のようだ。おまけに、胸元には少し長めのチェーンで繋がれた水色に光る雫型の石のペンダントが下げられている。全体的に水色を基調とした可憐な格好であった。
(か、可愛すぎる…!天使か…!)
ジーザスは思わず見とれて声も出ない。少し恥ずかしそうにルーナはもじもじとしながら立ち尽くしていると、途端にアーロンがずかずかと歩いてルーナの手を握った。
「やあやあ!君が噂の女刑事君だね!いやーとっても可愛いねぇ!!あ、私がオズボーンファミリーのボスのアーロンでーす!シクヨロ☆それにしても刑事にしておくには勿体ないほど可愛いね!特にその雪みたいに真っ白い肌!つやつやじゃないか!」
「えっ、えっ」
矢継ぎ早にアーロンに口説かれるように言われたルーナは驚きを隠せない。それを背後からジーザスが無理矢理引き剥がす。
「親父!ベタベタ触るな!!とりあえず離れやがれ!」
なんとかアーロンを離すことに成功すると無理矢理にアーロンをルーナとは一番遠い位置にあるソファーに座らせた。
「ルーナ、大丈夫か………そのっ…す、す、すげえ似合ってる…」
「えっ、そ、そう?よかった……あの、服、ありがとう。代金は…」
「いやいいから!これは俺から贈らせてくれ。無理に来てもらっちまったし」
「うぅ……ありがとう…」
ジーザスもルーナも頬を染めて目をそらしてしまう。まるでウブな少年少女かよ、とムイは思ったが面白いので何も言わないでおいた。
「あのっ…わたし…ルーナ・グレイシアといいます。ヴェルヌ警察の刑事……なんです、けど…あの…オズボーンファミリーのこととか…この島のこととか、知りたくて…来ました…。ご迷惑でなければ……この島に、少しだけ居させてください…」
さすがにマフィアのボスを前にしてルーナはかなり緊張しているらしい。だがやはりアーロンはにっこりしてルーナを見た。
「うん。こちらとしては全然平気。むしろウチは部屋も空いてるしゆっくりしていってよ。ブリタナはいいところだし、君の気が済むまで調べていくといいよ」
「えっ…あ、…は、はいっ…」
少し驚くルーナ。もしかしたらジーザスはよくてもボスであるアーロンには通じないかと思っていたからだ。
(この人…刑事であるわたしを簡単に泊めちゃうなんて…いいのかな。ほんとに)
だが不思議とアーロンからは冗談めいた態度の裏で真剣さも感じられた。不思議な男である。
ルーナは未だ恥ずかしさと緊張が入り混じった表情でアーロンに問いかけた。
「あ、あの…こんなに素敵なお洋服…頂いてしまっても…本当に良いんですか…?そ、それにこのペンダントも高そうで…」
「良いの良いの!替えの服がないと困るでしょ?それにこんなに似合うんだからねぇ!いやー、良い美脚だね、ルーナちゃん!」
アーロンは全く気にしていないらしく、デレデレとした表情でルーナを見つめている。主にルーナのミニワンピースの裾とニーハイブーツの間の絶対領域が魅力的な太腿部分に。それに気付いたジーザスはアーロンの脇にチョップを入れ、アーロンは「ぐはァ」と笑顔で倒れたが、数分後にはすぐ復活した。
そんな頃に黒服の部下が入ってきて四人分のコーヒーをいれていく。とりあえず挨拶も終わったことで、その場は何とか和やかな雰囲気になった。例によって猫舌のルーナはコーヒーをふーふーと冷ましてちびちびと飲んでいるが、そんな仕草さえジーザスは目に入ってしまいドキリとする。
「それにしてもルーナちゃん、ジーザスのやつになんかされなかった〜?」
「え、なんですか?」
「コイツ、顔はイイのに女っ気無いから心配してたんだけど、突然ルーナちゃんみたいに可愛い子を連れてきたからさ〜もしかしてルーナちゃんになにか無理矢理に言い寄ったりして連れてきたのかと思ぐぶしゃっ」
コーヒーを飲みながらニヤついてルーナに訊ねるムイの頬がいい感じに殴られ、ムイの口からコーヒーが吹き出た。その飛沫は床に散らばったが、すぐ黒服達が拭きにかかる。
「何余計なこと言ってんだムイ!」
「良いパンチだ……」
幼馴染からの軽い暴力に若干泣くムイ。ルーナは少し驚いたが、ジーザスが顔を真っ赤にしているのが面白くて少し笑う。
「なにもされてませんよ。ここへはわたし自身の意思で来たんです」
「ルーナ…」
花のようににこりと笑うルーナ。彼女は自分の意思で、正義を問うためにやってきた。
「でも、確かに」
コーヒーカップをテーブルに置いたアーロンが呟く。
「ルーナちゃんのようにブリタナに来てくれて、我々のことを知ってくれようとする人が居る。それって我々にとってはすごく大事なことなんだ。だからルーナちゃん………君が来てくれて、本当に嬉しいよ」
「…アーロンさん…」
やはり、このアーロン・オズボーンという人物もけして悪人には思えない。ルーナはそう感じた。ルーナを見つめる眼差しは優しい。彼もまた、ジーザスの言うようにオズボーンファミリーの真の姿を知ってほしいのだろう。
「まっ、こんなに可愛い子を選んだジーザスに感謝しなくちゃだね!」
「バカ親父!!」
すぐにデレッと鼻の下を伸ばしたアーロンに再び息子のツッコミが入る。そんな様子を見てルーナはこれからの生活にわずかな不安が薄れていくのを感じる。
(彼らはきっと…わたしの知らない世界を教えてくれる。真の正義を…見るために…わたしはこれから…!)
ルーナはまだ迷いがある。けれど、ここに来た以上、真実を見極めなくてはならない。その様子を見たアーロンはある提案をした。
「そうだ、ジーザス。これからルーナちゃん連れて街を見てきたらどうだ?それで色々と話を聞かせてやればいいだろ」
「ルーナを街に?…確かに良いかもな。ヴェルヌには無い景色が色々あるだろうし。ルーナ、どうだ?」
「うん、ここに来る途中も色々見たけど、もっと見れるなら是非」
にこ、と笑うルーナ。内心、ジーザスは少しドキドキしていた。
(こ、これって…所謂……デート、ってやつ、か…?)
気になるルーナと二人で街のデート。…いやいや、これはルーナがブリタナひいてはオズボーンファミリーのことを知るための視察のようなもの。ジーザスは胸の高鳴りをおさえつつ、ルーナと共に街へ出かけることになった。
ブリタナの街に降りていくジーザスとルーナ。秋風が心地よく、屋敷の外に出ただけで青空と同じくらい青い水平線が見える。緩やかなスロープ状の坂を降りていくと噴水広場に出てくる。人々が多く行き来し、大道芸人や露店を開く商人などで賑わっていた。
「わぁ、賑やかね」
「ああ、ここは街のメインストリートでな。きれいな噴水だろ」
広場の中央にある噴水は白い大理石で作られ、美しい水を流し続けている。近くでは子供達が楽しそうに遊んでいた。その姿にルーナは嬉しそうに微笑む。
「皆、笑ってる…」
「…言ったけどさ、この街に住んでるのはオズボーンファミリーが助けた人間だったり、行く宛の無い人間だったりするんだ。勿論、全員んがそうってわけじゃねえけどな。俺のひいじいさんの代からここに住んでる一家も結構居るんだ。あとは、皆がそれぞれ商売してて、世界中の市場の商品がここに並んでたりするんだぜ」
「へえー…」
噴水広場の先にある市場へ歩いていくと、確かにジーザスの言う通り、市場には世界各国の野菜や果実、雑貨などが確認できた。この広い貿易の人脈はかつてのオズボーン貿易会社の名残だろうか。
二人があたりを見渡しながら歩いて行くと、魚を売る若者がジーザスに声をかける。
「ジーザス坊ちゃん!八百屋の主人から聞いたぜ!ついに坊ちゃんに彼女できたってな!」
「ち、違ぇからな!客だ客!」
「あらまあジーザス坊ちゃん。話に聞いた通り、可愛らしいお嬢さんだこと。可愛いわぁ」
「お、おばさん!あんまりジロジロ見んな!」
「坊ちゃん、ボスも喜ぶんじゃねぇかなぁ?」
「おやっさん!親父は関係ねぇだろ!」
驚く事に市場の人々が次々にジーザスに声をかけてくる。それも親しげで、まるで親族のようだった。ジーザスは気恥ずかしそうに商人達の言葉を否定する。来た時にも同じような光景を見た。すると、来た時にトウモロコシをくれた野菜を売る八百屋のが声を上げた。
「よう!坊ちゃん、嬢ちゃん!」
「あ、トウモロコシの…」
ルーナが思わず第一印象を呟いてしまう。彼女にとって八百屋の主人は「トウモロコシをくれた人」だった。だが八百屋の主人は豪快に笑う。
「あのトウモロコシ、大事に食ってくれよな」
「おやっさん…トウモロコシは今夜のディナーにしてもらう予定だから。っていうか…皆に言い触らすなよなぁ!」
「だって坊ちゃんが女の子連れてるなんてなかなか無い光景だからなぁ!昔から坊ちゃんを見てきたから嬉しくてな」
「そうそう、私達、なんだか嬉しくって」
商人の中年の女性も嬉しそうに笑った。ジーザスは本当に街の人々に可愛がられているようだった。ジーザスが照れくさそうにしていると、中年の女性のそばにいた幼い少年がジーザスに駆け寄ってきた。
「ジーザス兄ちゃん!」
「おお、元気そうだな。あれから親父さんは元気か?」
「うん!ジーザス兄ちゃんに助けてもらって、怪我も治ってきてるよ!」
「そうか。よかったな、女将さんも」
「本当にジーザス坊ちゃんには感謝してるのよ」
中年の女性と少年は深く感謝している様子。ルーナが首を傾げていると、八百屋の主人がルーナに事情を説明してくれた。
「この前な、女将さんの旦那さんがヴェルヌのギャングに大怪我させられてなあ。それをジーザス坊ちゃんが助けてくれたんだ。しかも病院の入院台も全部払ってくれてな」
「本当にオズボーンファミリーには助けてもらってるんだ」
「…オズボーンファミリーが…」
八百屋の主人と魚屋の店員がルーナに教えてくれたこと。ジーザスが多くの人々に慕われていること。ルーナは少し放心したようにジーザスの姿を見つめていた。
(やっぱり…ジーザスは本当に…)
しばらくしてジーザスとルーナは市場を離れて街を見て回る。学校は初等部から中等部までが一括された小さなものだったが子供達が楽しそうに校庭で遊んでいる姿があったし、街の図書館は大きく、様々なジャンルの本が所蔵されていた。緑豊かな公園もあり、市場のそばには白い壁で統一された美しい街並みが広がっている。街を回った頃にはすでに日が暮れ、夕方になりつつあった。二人は今、オズボーンファミリーの屋敷へ向かう坂の途中に居て、オレンジ色に染まった水平線に沈む太陽を見つめていた。
「はぁ…こんなもんか。あとは屋敷の裏の方にちょっとした山と森があるくらいだ。日も暮れてきたし、そろそろ帰るか。メシも用意されてるはずだぜ。八百屋のおやっさんがくれたトウモロコシ料理もあるだろうしな」
「うん…」
「?ルーナ…どうかしたか?」
心なしか、ルーナの声に元気が無い。色々見て回って疲れたのだろうか。ジーザスが心配してルーナの様子を伺う。
「わたし……本当に見ていた世界が狭かったんだなって…」
「えっ?」
「…この島の人達は皆、オズボーンファミリーを悪く言う人なんていなかった。むしろ皆、オズボーンファミリーに助けられてきた。…わたしが聞いていた情報とは全然違う。本当にあなた達は…正義の人、なのね」
街の至る所に行っても人々はオズボーンファミリーのことを慕っているようで、ジーザスに好意的に接してくれた。中には、家の修理や泥棒を捕まえてくれた一件などに礼を言う人達もいた。日常的にオズボーンファミリーに助けてもらっているらしい。その言葉からはルーナが聞いていた凶悪な犯罪好意は欠片も感じなかった。
「……正義の人、か。違うな。俺が悪党であることには変わり無いさ。人を守るって使命のためにギャングやマフィアを傷付けてる。暴力で解決してることには変わり無いだろ?」
「でも…人を殺してはいない。それに皆を守るためにそういうことをしてるって…」
「…俺はそのつもりだったんだがな。それでいいのか、って思うこともあるのさ。他にないかって」
夕日がジーザスとルーナを照らす。どこか郷愁的で、ジーザスの言葉に重みを重ねていく。そんなジーザスをルーナは少し潤んだ瞳で見つめ、少し考えた後に口を開いた。
「…あの、ジーザス。聞いてほしいの」
「…ん?なんだ?」
「わたしが…刑事になった理由」
「…親父さんとじいさんが警察だったからってやつか?それに『使命』とか言ってたな…」
ルーナがブリタナに来る時、確かに彼女は父と祖父が警官であること、刑事になることが自分の『使命』だと聞いていた。
「……わたしの祖父は前のヴェルヌ警察の長官だったの。父は伝説の刑事と呼ばれる人で…わたしは子供の頃から二人を見て憧れてきたのよ」
「ヴェルヌ警察の長官と伝説の刑事…なんか親父から話は聞いてたぜ」
「そうなんだ…じゃあ知ってる?わたしの祖父は……暗殺されたの。ギャングに」
「!…確かに…前の長官はヴェルヌのギャングに暗殺されたって話だった」
「その時、ちょうどヴェルヌではギャングの悪行が横行していて、祖父はそのギャング達を一斉検挙したの。祖父自ら指揮を執り、一年をかけて大物のギャングのボスを逮捕できたわ。けれど、それを恨んだギャングの残党が……演説中の祖父を狙撃して暗殺した。父と…子供だったわたしの目の前で…」
「…そんなことが…」
憧れの祖父を目の前でギャングに暗殺された。ルーナにとってはそれがひどく心に残った事件だったのだろう。
「…それからわたしは…刑事になることがわたしの使命だと信じるようになったの。それまではただの『憧れ』だった。けれど、祖父の死以来、刑事になり、悪と戦うことこそがわたしの『使命』だと…」
「……どおりで…」
ルーナから感じていた必要以上の、氷のような正義感。それは大好きな正義の味方だった祖父を失ったことが強い原因だった。恐らく、刑事の父もルーナ同様に目の前で父を失い、さらに強い正義を宿すようになったのだろうか。
「だから凶悪なマフィアもギャングも、すべてわたしが捕まえたい…そう思って。あなた達のことも第一印象から憎んでいたの。…よく知りもせずに…ごめんなさい…」
「謝るなって。…そんなことがあったら裏の人間を憎むのは当たり前だ。俺こそ知らずに…」
ジーザスとルーナは見つめ合う。夕日を背にするルーナは何故か泣きそうな表情をしている。そんな姿さえ美しいとジーザスは言葉を失ってしまう。だが、少し微笑むとジーザスはルーナの手を取り、笑った。
「…でも、ルーナは俺達のことをわかってくれてる。それだけで俺は嬉しいさ」
「……わたしも話せてよかった。自分のこと」
ルーナは少し頬を染めて握られた手を見つめ、俯く。そういえば二人は年頃の男女で夕日なんていう良いシチュエーション付きだ。ジーザスも自然とルーナの手を握っていたことに気付いてハッとして手を離す。
「と、とにかく屋敷へ帰ろうぜ。メシに遅れちまう!」
「そ、そうね…」
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屋敷に帰ったジーザスとルーナは早速アーロンとムイにからかわれ、頬を染めつつ、夕食の席についた。
オズボーンファミリー邸の広い一室に長いテーブルといくつもの椅子が並び、そこにアーロン、ジーザス、ルーナ、ムイの四人だけが座ってディナーを楽しむ。今晩の献立はステーキに、ルーナがもらってきたトウモロコシのソテー、サラダにオニオンスープ。トウモロコシは四人分に等分されているが、一人分だけでも結構大きい。そして温かいコーヒーが付いてきた。
「人が集まる時にはこの椅子が全部埋まるんだけどね。身内の時はいつもこんなもんさ」
「そうそう。俺の親父とかも今は外出してっからさぁ」
アーロンがステーキをナイフで切り、ムイがオニオンスープを飲みながらルーナに説明した。
「そうなんですね…でも部屋も広いし、ごはんも美味しいです」
「シェフが喜ぶぜ」
庶民のルーナからしたら一流ホテル並みの高級ディナー。部屋も豪華で食事も豪華。むしろ家庭にシェフがいるのがすごい、とルーナは感動していた。部屋の大きな窓からはすっかり闇に染まった夜のブリタナの街が見え、住宅街や街頭などで美しく光っている。
「ルーナちゃん、街はどうだった?」
「はい。とても素敵でした…皆、本当に幸せそうで」
「そうか、それはよかった。ブリタナは昔から変わらないんだ。私が子供の頃からこういう景色だったんだよ」
「アーロンさんが子供の頃から…」
アーロンは懐かしげに目を伏せる。
「私のじいさんが初代のボスでね。じいさんが一代でこの島の平和を作ったといっても過言ではないんだ。私はそれを受け継いで守ってきただけだよ」
「じゃあジーザスもいずれボスを継ぐんですね」
「そのつもりなんだけどなぁ。まだまだ勉強不足だからなぁ、こいつはぁ」
「親父!」
ルーナの隣の席のジーザスがアーロンを怒鳴りつける。どうもアーロンはルーナに余計なことを言いがちだ。そんな様子を見てルーナはクスクスと笑う。
「とにかく、俺はちゃんとしたボスになるって決めてるからよ!」
「…ジーザスだったら…きっと…良いボスになれると思う」
「えっ」
小さく呟くように言ったルーナを思わず見るジーザス。まさかルーナがそこまで言うとは。
「昼間、街で見て…皆、ジーザスを慕っていた。きっとジーザスがボスになっても皆が喜んでくれて、支えてくれると思う。だからきっと、良いボスになって…正義を貫いてくれると思うな」
「ル、ルーナ…」
あの夕方以来、ルーナの接し方が変わった気がする。ジーザスはルーナの笑顔にドキリとしつつ、気合いを入れるように叫ぶ。
「よし!これからしっかり勉強しねえと!」
「うわー単純ー」
ムイが呆れ顔で呟き、ルーナは微笑みながらコーヒーを飲み、空気が明るく朗らかなものに変わった時だった。
パキン!という音と共に突然、部屋の温度が一気に冷え込んだかと思いきや、ルーナの持っていたコーヒーカップ、ルーナの座っていた椅子、そして食卓のテーブルが白くなった。
………いや、正確には…それらが全て
凍りついていたのである。ルーナは笑顔のまま固まり、ジーザス、ムイは呆然として固まる。アーロンだけは「おや」と一言言っただけ。
「あれ?ルーナちゃん、『体質者』だったの?」
「………」
「………」
「……………え…」
ジーザスは特に最近、身に覚えがある。常人にはけして出来ないことが出来る人間。特殊能力を持つ人間。
「……えぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「きゃぁぁぁぁぁぁ!?」
ジーザスの絶叫とルーナの悲鳴が屋敷に響き渡った。
09.覚醒イリュージョン
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