そういうこと
(※学パロ、二人はごく普通の高校生)



昼休みも終了間際。5限目の準備しとったら胡桃が小走りでコッチ来よった。オマエ次移動やろ、なにしてんねん。そうツッコもうとした矢先にバッ、と目前に何かを突き付けられた。
「……ハァ?祭りィ?」
よくよくそれを見てみれば近所の神社で今週末行われるという夏祭りのチラシ。胡桃はオレが何を突きつけられてるのか把握すれば満足そうにコクコクと頷いている。
「高校生最後の夏!せっかくやし行こ!真子!」
あーあー、そない顔面スレスレにチラシ近付けられたら見えるモンも見えへんやろ。
近すぎるチラシを片手で押しやりながらハーーー、と溜息を付けばオレの態度が気に食わへんのかむーっとむくれたアイツ。何やねんその顔、タコか。
「……17時半な。」
「へ?」
「しゃーから!17時半にオマエンち迎え行く言うてんねん!」
さっきまでのタコ顔が嘘のように、やったー!なんて大はしゃぎしとるわ。アホらし。

オレと胡桃は所謂幼馴染っちゅーヤツや。物心付く前から互いの家は徒歩三分圏内、オカン同士が仲良うてちっさい頃から大抵一緒に居る。…幼稚園から高校に至るまで全部同じトコ通うレベルでな。
イヤ、別に胡桃の事好きやからずっと一緒な訳ちゃうわ。幼稚園はオカンらが選んだ、小中は同じ学区、高校はオレも胡桃も家から通いやすいっちゅー点で選んだ。しゃーなしやねんて、オレらがずっと一緒なんは。腐れ縁や腐れ縁。
第一、動きやすさ重視でいっつもジーパンTシャツでおるような女のどこに惚れるっちゅーねん。





夏祭り当日。
どうせ胡桃ン家なんて3分で着くしギリギリに出ればええやろ。そう思っとった矢先にスマホが机の上で振動した。
「何やァ?」
何事かとスマホを手に取り起動すれば胡桃からのメッセージやった。
『真子!ちょっと準備に時間かかりそうやから先神社行っとって!ゴメン!』
文末には土下座の絵文字がずらーーーっと。ホンマコイツ文章でもやかましいな。
ちゅーか準備に時間かかるって何やねん。うんこか。
「ハー…、しゃーないやっちゃなァ。」
ボリボリと頭を掻きつつ神社へ向かうべく家を後にした。





「……どんだけ頑固なうんこと戦っとんねんアイツ」
鳥居の側で胡桃を待ちつつ手持ち無沙汰にスマホを弄っとると、カランコロンと響く下駄の音がこっちへ向かって来よった。何となしにそっちに目を向けると、
「真子ー!お待たせー!」
そこに居たんは浴衣に見を包んだ胡桃やった。


腹減ったっちゅーて胡桃はぐんぐん人混みをかき分けながら屋台物色。ついてくコッチの身にもなれっちゅーねん。
「ちゅーかオマエ、そない浴衣もっとったんか。」
「んー?お祖母ちゃんが買うてくれてん。ふふ、似合うやろ?」
「フーン、明日は雹でも降るかもしれへんなァ。」
からかうようにそう言えば「どういう意味やそれ!」とさっきまで後ろ向いとったのに拗ねて前に向き直ってしもた。ほんますぐ拗ねる、ナンギなヤツ。

…コイツ今日髪上げとんのやな。編み込みのヘアアレンジか。うなじが見えてエエやん。…って何考えとんのやオレ!こない色気の"い"の字もあらへんようなヤツのうなじに反応するわけ無いやろ!何バクバクしとんねんオレの心臓!やかましわ!
ずっと視界に胡桃を捉えとるんも居たたまれんようになって横に視線を逸らせばでかでかと書かれた『たこやき』の文字が。
「オイ、胡桃。すぐソコたこ焼きの屋台あんで。」
「え!ほんまや!たこ焼き食べよ!」
そそくさとたこ焼き屋の元へ向かえば先に着いとった胡桃が人懐っこい顔で「おっちゃん!たこ焼き2つ!」なんて注文しとった。ちゃっかりオレの分も頼むあたりは気ィ効くな。

無事たこ焼きを二人分手に入れ、少し屋台の並ぶ通りから離れた場所でたこ焼きを頬張る。
「ん〜〜!おいひー!」
「アホか、口に物入れたまま喋んなや。」
そんな俺の注意も聞いとらへんのか胡桃はバクバクとたこ焼きを口の中に放っていく。よォそないペースで食えるな、熱くないんか。
「アホ胡桃、口にガッツリ青のりついとるやんけ」
そう言いつつ片手を相手の口元へ伸ばし親指で青のりが付いていた下唇を拭ってやる。
「……へ?」
胡桃は驚いたように身体強張らせ、顔はみるみるうちに赤く染まってく。…これはアカン。そう思い手を胡桃の顔から離した途端、ドーン!と大きな音が鳴り響き、わぁと歓声が上がった。花火や。
大きな音が鳴り響くたびに空に咲く鮮やかな花達。
バクバク心臓がやかましいんは花火の迫力の所為か、それとも…ーーー。

ちらりと隣の胡桃へ視線を戻せば丁度コッチを向いた胡桃と視線がかち合う。


きっと。



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