ああ、わたし今、恋をしている


「はい!お待たせしました!みたらし団子とほうじ茶!ごゆっくりどうぞー。」
「おォ、おおきにな。ほないただきまァす。」

ここは西流魂街三地区にある茶屋。私、橘 胡桃とおばあちゃんの二人で切り盛りしてる。ひと桁台の地区だからなのかこのお店には時たま死神の方々もお客さんとしていらっしゃることがある。今日も五番隊の隊長さんがひとりでいらっしゃった。最近常連になりつつある人だ。
肩より少し上で切り揃えられた金色の髪、斜めの前髪、喋るたびちらりと見える舌の上の銀色。隊長格の人たちはみんなこんなふうに個性的なのかな、と思ったらこの人曰く、「尸魂界中探してもオレほどオシャレな奴居れへん。」らしい。

「胡桃ちゃァーん、お茶おかわりエエ?」
「あ、はぁーい!只今ー!」

このおしゃれな隊長さんは甘いのはそんなに得意じゃないらしくて、いつも甘さ控えめのものを注文する。お気に入りはみたらし団子とほうじ茶のセットだ。
隊長さんにお茶のおかわりを渡す。お客さんはこの人しか今いないし、休憩してもいいかな、なんて空いてる席に腰掛ける。
それにしても、隊長さんって全体的にこう、すらっとしてるなぁ。細いけど華奢って訳じゃなくて、女のコが好きなゴツゴツした男の人の手。
あ、喉仏。ほうじ茶を飲むたびに上下する喉仏が色っぽい。

「……そない見つめられとったら穴空いてまうでェ、オレ。」

ばちりと目が合う。無意識とはいえじーっと隊長さんを見詰めていたことを指摘されて、私は顔から火が出るようだった。

「え、あ、あ、ごめんなさい!私ぼーっとしてたみたいで!!」

勢い良く頭を下げればくつくつと笑う声が聞こえる。あー恥ずかしい恥ずかしい!!きっと私の顔は茹でダコみたいになってるんだろう。

「別にエエって。減るもんちゃうし、大歓迎。」

その言葉にゆっくりと顔を上げると笑みを浮かべた隊長さんがいて、かっこいいな、なんて的外れな事を思ってしまう。すると突然隊長さんの腕がこっちに伸びてきて、ぽんぽん、と私の頭を撫でた。突然の出来事に呆気にとられているとよっこらしょ、なんて言って隊長さんは立ち上がった。

「さて、オレもそろそろ仕事戻らんとな。ごちそーサン、胡桃ちゃん。」

未だ呆気にとられている私を他所に、気だるげに瀞霊廷へと向かう隊長さんの背中。え、ちょっと待ってほしい!ガタガタと音を立てながら立ち上がる私。

「あ、あ、あの!!平子さん!!」

今までなんだか気恥ずかしくて呼べなかった隊長さんの苗字。初めて隊長さん、――平子さんが店にいらした時教えてもらっていて、ずっと呼べなかったのに何故かすんなり口から出て来た。

「んー?何やァ?」
「いや、あの……、またのご来店、おまちしてます!」

ぱちくりと瞬きした平子さんは私の言葉を聞くと広角を上げてニンマリとした笑みを浮かべた。

「言われンでもモチロン。明日の休憩ン時も邪魔するわ。」





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