どうにもこうにもこれが愛
「もうホント信じらんない!あのオカッパ!金髪!」
ドカドカと足音を鳴らしながらアジトの共有スペースに現れた胡桃。"自分は怒ってます"オーラを醸し出しながら大声で平子のめちゃくちゃな悪口を叫んでいる。
「どないしたん、胡桃。また喧嘩したんか。」
見兼ねたリサがエロ本を片手に問いかけると今すぐこの苛立ちを誰かと共有したいのか胡桃は小走りにリサの元へ向かった。
「ねぇ〜!聞いてよリサぁ〜!!もうすぐ記念日だからどっか行きたいとこある?って相談してたのに真子のヤツずーっと雑誌見ててあー、とか、ん、とか空返事ばっかり!マジありえないと思わない?!それが彼女に対する態度かっつーの!百年以上の付き合いだからって何でも許せると思ったら大間違いだからぁ!」
わーん!と大袈裟な泣き真似をしながら抱きついてくる胡桃にリサはうんざりとした表情を浮かべる。

仮面の軍勢の皆がまだ死神として尸魂界にいた頃から胡桃と平子は付き合っている。真央霊術院時代からの仲で平子が五番隊隊長、胡桃が七番隊副隊長になる頃には瀞霊廷ではちょっと有名なカップルになっていた。
俗に言う、ケンカップルである。
些細なことでスグ喧嘩をするのに別れない。護廷十三隊、隠れた名物と一部で囁かれた二人は百年以上経った今でも頻度は減ったもののこうして時たま盛大に喧嘩をする。たいていどちらかがいつ迄もモメた内容を引きずり拗ねているのだ。

「ひよ里!気晴らしに買物行こ!付き合って!」
「ちょ!何でウチやねん!!!他にも居るやろぉ!!!」
リサに散々恋人の不満をたらし満足したのか突然立ち上がると半ば無理矢理にひよ里引っ張って外へ出て行ってしまった。
「おーおー、やっと喧しい奴が出て行きよったか。」
「真子ー、あんま胡桃のことイジメてやんなよ。俺らに当たられちゃたまんねぇからな。」
「別にイジメとらんわ。ちゅーかラブ、お前あいつの保護者みたいなモンやろ、あのキレやすい性格お前がなんとかせェや。」
「俺にゃあ無理だな。お前が胡桃の機嫌損ねなきゃ済む話だろ。」
七番隊隊長時代、お世辞にもお淑やかとは言えない胡桃のことをよく叱っていたラブだったが今はジャンプを読むので忙しいとでも言いたげで平子の言葉にきちんと耳を傾ける様子はない。
「ハー……、オレちょぉ買モン行ってくるわ。」
やれやれと肩を竦めつつ、最近気に入っているクラッチバックを片手に平子もアジトを後にした。



あれからというもの平子と胡桃は一言も会話を交わしていない。いや、一方的に胡桃が平子のことを避けている。平子から話し掛けられれば返答はせず他の誰かに伝言を頼み、鉢合わせれば平子を避けるかのように引き返す。"自分は怒ってます"オーラをずっと出し続けているのだ。
そんな氷河期のような状態のまま迎えてしまった記念日前夜。

胡桃は自室の寝台の上へ腰掛け、ぺらぺらと雑誌を捲っている。平子が部屋に入ってきたにも関わらず無視を決め込んでいるようだ。
「……まだ拗ねとンのかい、胡桃。」
「…………。」
「エエ加減機嫌直せや。」
「……………」
何も答えない胡桃にハァーー、と大きくため息を吐き平子はちらりと腕時計を睨む。
「……、胡桃ー。」
雑誌へやっていた視線をちらりと部屋の入口付近に立つ平子へ移せば突然飛んできた小さい紙袋に驚きぱっと雑誌を手放しキャッチした。何やら中には輪っか状のものが入っている?
「ほら、開けてみィ。」
ガサガサと音を立てながら中身を取り出すと、其処には細身のレザーのブレスレットがひとつ入っていた。
「……コレ…、!」
「オマエ、これ欲しいて前言うとったやろ。」
そうだ、前に雑誌で見かけたこのレザーのブレスレット。少々値が張るため手が出せず、胡桃が諦めたものだった。
じっとブレスレットを見つめている胡桃の側へ寄れば平子はそっと隣へ腰掛けた。
「……まあ、オレもちょォ意地張って悪かったわ。しょうみ、このタイミングでこれ渡すン、モノで機嫌取ろうとしとるみたいで悩んでんけど、記念日やろ、今日。」
「え、今日?」
寝台脇の時計はもうすでに0時過ぎを指している。
「……もう、真子のバカ、アホ、オカッパ。」
「この髪型のどォこが悪いねん。似合うとるやろ。」
「………うん、にあってる、バカ。」
ブレスレットを握り締めたまま隣の平子へ抱きつけばそっと背を撫でてくれる。時計の他に左手首についていたあの輪はきっと胡桃が手にしているものと同じものだ。
「……私もごめん。けど、プレゼントありがと。すっごいうれしい。……その、これからもよろしくね」
「言われンでも宜しくしたるわ。こないやつと付き合うてられんのもオレくらいなもんやし。」
「なにそれ!!そんなこと言ったらこんなナルシストオカッパと付き合ってられんのも私くらいじゃん!」
互いの視線を絡めればどちらともなく噴き出す。さっきまでの暗い雰囲気は何処へやら。くすくすと笑いあう二人の間には甘い雰囲気が漂いはじめてきた。
ゆっくりと2つの影が1つに重なっていく。





数週間後、アジトの共有スペースへと近づいてくるドカドカとした足跡。
「だぁぁッ!!なんやねんアイツ!!ホンマけったくそ悪いったらありゃせェへん!!!」
また些細なことで喧嘩をしたのだろうか、と一同内心でため息を付くばかりだった。


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