1.さみしかった
「おやぁ?別嬪さんがいると思えば胡桃ちゃんじゃないか。休憩中かい?」
振り返るとそこに居たのは八番隊隊長、京楽春水だ。へらへらとした人当たりの良さそうな笑みを浮かべている。
「京楽隊長、お疲れ様です。はい、これから休憩で。」
京楽は何かを思い付いたように手をぽん、と叩いた。
「そうかそうか、お疲れ様。ねえ、胡桃ちゃん、良ければ僕とお茶でもしていかない?美味しいお茶でも飲みながら語らおうじゃぁないか。」
「ふふ、それサボる理由が欲しいからですか?なんて。いいですよ、少しぐらい休憩長めにとっても今日の仕事は終えられますし。」
「ははは、相変わらず優秀だねぇ、ウチに欲しいくらいだ。」



瀞霊廷の外れでひっそりと営業している茶房「雲母坂」。庭先に植えられた植物たちが四季折々の花を咲かせる姿が風流だ、と通の間で支持されている。
外れに店を構えているだけあって店内には胡桃と京楽しか居らず他愛もない話で中々に盛り上がっていた。
「……もう胡桃ちゃんも護廷十三隊に勤めて百年以上かぁ。すっかり古参だねぇ。」
京楽は徳利を傾けつつしみじみと言う。人の良い店主がたまにこの店へサボりに来る、半ば常連となった京楽の為に数種類日本酒を取り揃えているらしい。
「随分と変わりましたね。ココも……私も。」
「そうかなぁ?僕は胡桃ちゃんは今も昔も変わらないままと思うよ。」
「そうなら、いいんですけどね。」
「……おっと。話に夢中になってたらこんな時間だ。そろそろいいかげん戻らないと、七緒ちゃんに怒られるから戻ることにするよ。話なら、いつでも聞いてあげるから気軽に僕んとこにおいでね。」

京楽が隊舎へと戻り、茶房には静寂が訪れる。
百年、そう。もうあれから百年以上過ぎてしまった。
百年という年月は世の中の様々な事を変えるには十分すぎる。しかし、彼の言うとおり百余年に囚われて自分だけが変わっていないのかもしれない、と胡桃は静寂の中感傷に浸っていた。




百年以上前、私は四番隊ではなく五番隊に在籍していた。そして、当時の隊長――平子真子と付き合っていた。


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